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閑話五 自宅警備員ばるたん

「よし、まずは掃除――いや違えな。その前に腹ごしらえだ。腹が減っては何とやらだぞ」


 ――よう。俺の名前はばるたんだ。

 バカ探索者のイタズラで迷宮に投げ捨てられ、バタロー達に【人語スキル】をもらったアメリカザリガニだ。


 俺自体は迷宮に入らねえから、『迷宮サークル』の一員ってわけじゃねえが……。

 今さら帰る場所もねえしな。今はバタローとズク坊と一緒に住んでいるってわけだ。


「たしか何でも漁っていいって言ってたな。ようし、アレが美味かったからアレでも食うか」


 俺はキッチン、冷蔵庫の隣に置いてある『ポテチBOX』へ。

 色んな味のポテチがある中から、俺はズク坊が基本と言っていた『うす塩』を引っ張り出す。


 あ、ちなみにバタロー達はもう行ったぞ?

『待っててください緑子さんッ!』と叫んで、鼻息荒く石川って場所にズク坊と共に向かっていった。


 つまり、家にはしばらく俺一人なのだが……まあ問題ねえな。

 この数日で色々と教えてもらったし、理解する知能があるから飢え死にする心配はゼロだ。


 だからこそ、『自宅警備員』。


 俺はバタローによって、この職に任命されていた。……パリパリッ。

 何があろうと、俺の鋏にかけて留守を預かるってわけよ! ……パリポリッ。


「つうわけで、腹ごしらえができたら掃除だ掃除――って、またまたその前に!」


 おっといけねえ。俺とした事が忘れるところだったぞ。


 俺は塩やらカスやらで汚れた鋏を、『腹巻き』できちんと拭いておく。

 これは本来、人間が手首につけるリストバンド(黄色)ってやつらしいが……、


 俺が『何か腹が寒いな』と言ったら、サイズ的にちょうどいいからと、バタローにもらったやつだ。


 もちろん、一つだけじゃねえぞ。汚れたままでずっとは嫌だからな。

 何か無駄に色違いが五つほどあったから、一日一個のペースで使っていく計算だ。


「さて、んじゃ準備ができたら――ササッと掃除しちまうか!」


 俺はバタローや花蓮が使っていた掃除機、ではなく壁際にポツンといる『ル○バ』なるマシンに近づく。


 そして、鋏でポチッとな。

 丸っこい体のコイツに乗って起動させてやれば、後はきちんと掃除するかどうか、乗って監視するって寸法だ。


 ……え? それは掃除じゃなくてただ見ているだけだって?

 バカ野郎っ! これも立派な仕事、自宅警備員のやるべき事の一つなんだよ!


 と、いうわけでだ。

 俺は鋏でカチカチ! と励ましつつ、ル○バがサボらずに掃除するのを見守り続ける――。


 ◆


『ピンポーン』。


 掃除の見守りが無事に終わった後。

 我ながら器用だと思うほどに、流し台の蛇口を捻って水飲み&軽く体を湿らせていた時。


 突然、玄関のドアホンが鳴ったので――俺は急いで流し台から出て、テレビモニター付ドアホンの真下にある、カラーボックスをよじ登って出る。


「――おう待たせたな。誰だ? 俺はばるたんだ」

『え? ばるた……? あ、いや宅急便でーす』


 む? モニターに映った男は何かキョトンとしているな。

 そういえば……しまった。バタローには誰か来ても出なくていいって言われていたっけか。


「……まあいいか。出ちまったものは仕方ねえ。おう、今開けてやるからちょっと待ってろ」

『あ、お願いします』


 俺は【人語スキル】で得た知能を使って、それっぽいボタンを押してオートロックなるものを開けてやる。


 すると、しばらくしてまた『ピンポーン』と、今度は部屋のドアホンが鳴った。


「おう早いな。ちょっと待ちな、今よじ登って開けてやるから」

「え? よじ登る……? お、お願いします」


 ドア越しで宅急便のあんちゃんに声をかけてから、俺は靴箱の上へ。

 片方の鋏を思いきり伸ばせば、ギリギリ届いてガチャリ、と鍵を開けられた。


 そして、「もう開くはずだぞー」とまた声をかければ、宅急便の兄ちゃんがドアを開けて――、


「あれ? 誰も――って、のわあッ!? 何でザリガニ!? いやロブスターか……!?」


 開けて数秒、ビックリ仰天。

 持っていた荷物を落としそうな勢いで、宅急便の兄ちゃんは目をひん剥いて驚いていた。


 まったく……失礼な野郎だ。

 別に大蛇が出たわけでもあるまいし、そんなに驚かなくてもいいじゃねえかってんだ。


 そんな兄ちゃんは玄関でキョロキョロしているから、声の主が俺とは露ほど思っていないようだ。


「おいこっちだこっち! 開けてやったのはこの俺、自宅警備員のばるたんだぞ!」

「ええッ!? ざ、ザリガニが喋った……? いや聞き間違いか……??」

「お前の耳は飾りか! たしかに俺が喋ってるだろが! 【人語スキル】だ【人語スキル】。有名らしいから聞いた事くらいあるだろう?」

「え、【人語スキル】!? そりゃこのご時世、誰でも知っている……。じゃ、じゃあ本当にこのザリガニが喋っているのか……?」


 俺の言葉に、宅急便の兄ちゃんはいまだ信じられないという顔をしているが……。


 それでも、さらに会話のキャッチボールと、人間っぽい動き(ズク坊に教えてもらった『敬礼』ってやつだ)をしてやれば――どうにか現実を受け入れたようだ。


「で、ではザリガ、じゃなくてばるたんさん。確認のハンコをもらえますか?」

「了解だ。宅急便ってのはハンコを押すんだったな」


 この数日間、バタロー達に人間の知識を色々と教わったから知っているぞ。


 アニメに関してはまだほとんど覚えていないが……そっちは後回しだ。

 それ以外の知識に関しては、恐ろしいほどの吸収力で脳みそ(?)に叩き込まれているぞ。


 俺は頼まれた通り、靴箱上の皿の上にあったハンコを鋏で挟み、ポンと紙に押す。

「おお、器用……」と感心していた兄ちゃんに荷物を置いてもらえば、無事に受け取り完了だ。


 ――よしよし、特に問題なくできたな。

 ナメるなよバタローめ。ザリガニの俺でも、荷物くらい受け取れるってもんだ!


 俺は兄ちゃんが去るのを確認して、きちんとまたドアの鍵を閉める。

 何せ自宅警備員だからな。戸締まりを忘れるなんざ警備員失格だぞ。


「にしても、やはり『サイズ』はもっと欲しいところか。ドアの鍵を開けるのもギリギリだったからな」


【人語スキル】で脳みそが肥大化、それに伴って体もデカくなったが……まだ足りん!


 せめて昨日ネットで見せてもらったロブスターくらいは欲しい。

 ザリガニとしては相当に大きくても、体長三十センチじゃ届かない場所も多いからな。


 ……とはいえ、そんなに心配もいらねえか。

 ここはエサの少ない迷宮内でもそこら辺の池でもなく、人間であるバタローの家の中なわけで――。


「食が体を作る。人間のメシを食ってりゃもっとデカくて立派になれるってわけよ!」

ちなみに宅急便の中身は大人なDVDです。ヤツは頼んだのを忘れて石川に旅立ちました。


あと次の話ですが、明後日中には上げられる……はず。


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