八十五話 vsミミズクの探索者
更新が止まってすいませんでした。
今日から再開、四日連続で投稿する予定です!(思ったより書き溜められなかった……)
敵視点となります。
「――終わりだ。くだばれや牛野郎!」
俺の名は稲垣文平。
かつて探索者として活躍していたが――不本意ながら刑務所にブチ込まれていた囚人だ。
ま、そっちもかつての話だがな。
俺の持つ【スキル:悪血】で刑務所の警備環境に適応。
【チャージボディ】と合わせて、扉も門もブチ破って脱獄してやったってわけだ。
そして今、その俺と拳を交えているヤツがいる。
まだ探索者歴一年程度の、生意気にも上等な鎧を纏ったルーキーだ。
……本来ならこんな駆け出しに用はねえ。
俺が用があるのは竜に次ぐ準最強格のモンスターである亜竜、そして俺を刑務所送りにした草刈だけだ。
「『格闘最強の一人』だ? ――ざけんな、目障りなんだよクソガキが!」
知らねえうちに探索者ギルドもトチ狂ったか。
期待の新星として担ぎ上げて、業界をさらに盛り上げてえらしいが……、
格闘最強ってのは、俺くらいのレベルの事を言うんだよバカ共が!
「はあ!? 格闘最強ってまさかおま……あの特集が気に入らなくて殺しにきたのかよ!」
対して、意味不明な湯気を噴出した牛野郎が拳と共に叫び声を返してくる。
瞬間、俺の拳とコイツの拳同士が激しくぶつかり合う。
どうやら俺と同じく『切り札』を使いやがったらしい。
さっきまでとは比べものにならねえ、大幅に出力が上がった右ストレートが飛んできた。
「チィッ! まだついてくんのかよしつけえな! さっさくたばれや牛野郎……!」
オイオイオイ何の冗談だ!
まったく気に入らねえ。本気の俺と互角だと?
わざと突きを拳に当てて破壊を試みたが、壊れるどころか、さらに押し込もうと力を入れてくる始末。
純粋なパワーは牛野郎が上。俺の格闘技術をもってして、やっと互角なのが拳から伝わってきた。
――あり得ねえ。
『全気充填』した俺の一撃は大砲以上の威力を叩き出す。
ぶ厚い『ミスリル合金の扉』さえ、余力を持って破壊できるんだぞ!?
それが人間相手なら火を見るより明らかだ。
相手が『単独亜竜撃破者』だろうと、バケモノ染みた攻撃や速度とは違って耐久力は低い。
体のどこかに当たりさえすれば、余裕で粉砕できるのは疑いようがねえ。
……だがコイツはどうだ?
拳を正面衝突させた後、俺の空手仕込みの突きや蹴りを何発も入れてるってのに――耐えるだと!?
それもただカメみてえに耐えているわけじゃねえ。
こっちが一発打てば必ず一発、不愉快な拳が返ってきやがる。
「闘牛のタフネスか! 大型モンスター並の耐久力まで俺の真似してんじゃねえよ!」
フェイントなんざ必要ねえ。コイツは真正面からブッ潰す!
怒りを乗せて、俺は一発一発が『即死級』の突きの連打で見舞う。
同じく即死級の蹴りを織り交ぜて攻めるも――コイツの鎧が軽くへこむ程度だ。
クソがッ! 想像以上に硬くて当初の予定が大幅に狂っちまったじゃねえか!
コイツの体重が原因で、踏み込んでくるたびに足元が揺れるのもマジでウザってえ。
並の探索者なら普通にバランスを崩すレベルの震動だが……ハッ! 上等だ。
それならそれで構わねえ。
この状況でも押し込んで、最終的には骨という骨を砕いてじっくり甚振ってやるよ。
幸い時間はあるからな。
コイツの仲間二人はバカみてえに揃ってお寝んね中。骨を折らねえ程度に意識を深く刈り取っている。
――ズン、ズズゥン! と、俺と牛野郎の打撃音と踏み込みの音が響く。
その中で時折、邪魔臭えメルトスネイルの死体以外に――視界の隅に映るものがある。
気配を消しても敵意満々な白い塊。
ボス部屋の淡い緑色の光の中で、一丁前にかく乱のつもりかウロチョロ飛んでやがるのが確認できる。
……懸念があるとすればこのミミズクの存在か。
救援を呼びに向かうとも思ったが、コイツらも間に合わねえ事は知っているはずだ。
ここは十二層。
最先行パーティーの牛野郎共の次は、大所帯パーティーの『勇敢なる狩人』だ。
そいつらでも九層止まりで、しかも今日の水曜は『休養日』。
つまり、迅速かつ的確な戦力は望めねえ。
それ以下の探索者パーティーなんざ呼ぶだけ無駄だ。
いくら呼んだところで所詮はゴミの集まり、俺の前でただ無意味に死ぬだけだ。
……もちろん、この『絶好の狩りの状況』は偶然じゃねえ。
虎視眈眈と、すぐにでもブチ殺してえ衝動を抑えて俺が狙ってやった事だ。
「くっそ、この状態で押しきれないのか!? こっちは時間制限が――なら一気にケリつけてやる!」
牛野郎が焦った口調で、意を決したかのように叫ぶ。
反撃を捨て一発良いのをもらう覚悟で、実際に俺の突きを腹に喰らいながら、一気に後退して間合いを開けてきた。
チッ! あの技か!
質量兵器なコイツの体を活かす、速度に乗ったタックルの動作に入りやがった。
「四十八牛力――『高速猛牛タックル』ゥウ!」
床の石畳が砕けた直後。離れて立っていた牛野郎の体がブレて突っ込んでくる。
ほぼノーモーションからの高速の一撃だったが――甘えんだよ!
俺は予想したタックルの軌道に、迎撃のための手刀の振り下ろしを狙う。
低い体勢で晒された背中に、『全気充填』のカウンターを決めてや――、
「!?」
息を飲み、相手の動きに目を見開いたのは『俺の方』だった。
なぜなら、予想していたタックルの軌道。
それがまったく低くなく、右肩から突っ込む形さえ違っていたからだ。
襲い来る右腕。『胸部』への衝撃。
あまりの威力に俺の体は吹っ飛び、立て続けにボス部屋の壁に背中から激突、二度の衝撃が全身を伝う。
「――ッ……!」
今までとは桁違いの一撃を受けて、俺の意識が飛びそうになる。
何が起きた? どういう事だ?
高速だろうが何だろうが手刀のタイミングは完璧。
低い姿勢で右肩から突っ込んでくるはずが、目の前に来たのは全身じゃなく右腕だけ――。
「フン、かかったな! 人間なら騙されると思ったぞ!」
! このクソガキまさか……!?
わざわざバカみてえに『タックル』と技名を叫んでおいて、実際は『ラリアット』を使ってきやがったのか!
「……ざッけんなよオイ。ナメた真似してくれんじゃねえか牛野郎オオ!」
予定変更だ。コイツはすぐにでもブチ殺す!
そもそも、殺し合いが始まった時からテメエは気に食わねえんだよ。
無様に股間を濡らせ。
見苦しく泣き喚け。
地面に這いつくばって額を擦りつけろ。
俺に標的にされたヤツはビビって動けなくなるのが大概だ。
にもかかわらずコイツは――ビビりもしなけりゃ動きさえも硬くなってねえ。
『悪魔の探索者』と恐れられた俺もずいぶんナメられたもんだ。
務所生活でブランクがあるヤツなんざ、世代交代で返り討ちを狙おうってか?
しかも俺の専売特許、真正面からの打撃戦でだと?
「ガァアアアアアアア――!」
俺の黒き血が沸き立つ。
全身が唸るような感覚に身を置きながら、本能のままに叫びを吐き出す。
こうなると少しばかり理性が飛ぶが関係ねえ。
もう目の前のコイツは完全に許容範囲外。あの鎧ももう必要ねえ、命もろとも葬ってやる。
仲間も同罪だ。
ミミズクもデブもガキも、全員まとめて八つ裂きにしてやるよ。
俺は膨れ上がる殺意の中、今のダメージで切れてしまった溜めを、一気の『全気充填』で元に戻し――。
「――させるか猛獣野郎!」
高速のチャージタイムが終わる直前。
ズゥン! という震動を伴って、牛野郎が瞬時に距離を詰めてくる。
上等だ、このまま迎え撃ってやるよ!
俺は現時点での【チャージボディ】、『九割』の力で手刀を振り下ろす。
そして、今度こそタックル体勢となったヤツの背中を俺の手刀が捉える。
金属と金属が削り合うように火花を散らす。
だがパワーが足りなかったか、そのまま突っ込まれて腹にタックルを受けてしまう。
小細工なしの肉弾戦。防御無視の攻撃的展開。
結果は俺が勢いを止めきれず、またも後ろに吹き飛ばされて――。
「ッ!?」
刹那、俺は思い出す。
今の俺の立ち位置は『壁際』。
さっきの一撃で吹き飛ばされてから、ほとんど移動していないと。
その状況から生まれるのは最悪の結末。
俺は大重量のコイツと、ボス部屋の壁による挟撃を受ける事に。
吹き飛ばされて衝突時のダメージだけを受けるはずが、間髪入れずに凄まじい圧力が体にのし掛かってきた。
「がハァ……!」
あまりの衝撃に臓物が押し上げられる感覚が襲う。
口からは血が溢れ、目には眼球が飛び出そうなほどの圧力がかかる。
黒き血を沸き立たせ、気を最大近くまで溜めたはずなのに耐え切れない?
その最中、無意識に視線を下げれば……ヤツの鎧には兜から漏れ出た俺の黒い血がかかっていた。
そして、さらに。
ギリギリで意識と体勢を保っていた俺の目に飛び込んできたのは、
「いい加減! 潰れろ悪党!」
湯気と鎧を纏った右の拳。
見るだけでビリビリと威圧が伝うそれが、目と鼻の先に迫り、反応が間に合わない俺の顔面を打ち抜く。
鈍い金属音を響かせて弾け飛ぶ兜。
チャージした分の気は一瞬で霧散し、立っている事すらままならなくなる。
――ふざけるな。狩る側なのは俺の方だ。
俺は、テメエの、断末魔を聞くまでは――――!
視界に映る目障りな牛野郎は消え、俺の目の前は真っ暗になった。
前半(八十四話)が主人公視点、後半が敵視点というのは最初から決めていたのですが……む、ムズイ(汗)。
やはり色気を出すといかんのか? 違和感がなければ幸いです。




