八十話 太郎とズク坊の休日
8/19 アメリカンドッグ→おでんに変更しました。
「んーさて、今日は何しようかズク坊?」
探索がお休みとなる週末。
目覚めよく起きた俺は、朝食のシリアルを食べながらテーブルの上のズク坊に聞く。
「悩むところだな。ホーホゥ。今日は珍しくすぐるも花蓮もいないからなー」
器用に魚肉ソーセージ(俺もズク坊も朝食はいつも軽めだ)をついばみながら、ズク坊はコテンと首を横に倒す。
ズク坊の言う通り、いつも休日でも一緒にいるすぐるも、隔週で遊びにくる花蓮もいない。
花蓮は一番下の小1の弟の歯医者の付き添いで、すぐるは単身メイドカフェ――いや何でもない。
とにかく、正月休みを除けば久しぶりの俺とズク坊だけの休日だ。
「とりあえず借りてるDVDを見るか? ……あ、そういや撮り溜めた番組もあったか」
「なら録画したのにしよう。『あのネコ』のがいいぞホーホゥ!」
「了解。んじゃ一発目はそれにするか」
……若者のテレビ離れが叫ばれて久しい昨今、俺とズク坊はまったく関係なし。
朝食を食べ終えると即行でテレビに向かい、山のようにある録画番組の中から一つを選ぶ。
まず見るのは、ズク坊ご希望のバラエティ番組だ。
『あのネコ』改め――【人語スキル】によって喋る事ができる、日本一有名なネコである。
リアルニ○ース。
世間に登場した時はそう呼ばれていて、今や引っ張りダコのテレビスター。
老若男女問わず人気があり、今ではひな壇から司会者にまで登り詰めた動物だ。
『――ニャニャニャ! さあ今週も始まった『ニャんころ芸人魂』! 皆で体を張ってお茶の間に笑いを届けるニャよ!』
そんな人気ネコ、アメリカンショートヘアの『レオン』の可愛らしい声を聞きつつ、俺は飲みものを準備する。
一人と一匹暮らしには大きめの冷蔵庫を開けて、
すでにソファに座って見入っているズク坊の大好物、手作りバナナシェイクをいつもの皿に注ごうと――って、ない!?
「あ、やべ。すまんズク坊、バナナシェイクの作り置きするの忘れてた!」
「ホーホゥ!? そんな! い、急ぎ作ってくれバタロー!」
俺の言葉を聞いて、真っ白い翼を広げながら取り乱して叫ぶズク坊。
別にズク坊も他の甘いジュースは好きで、飲み会でも普通に飲んでいるが……朝食後はいつもバナナシェイクが定番だからな。
仕方ない、俺のミスだしチャチャっと作るか――と思ったら。
あ、やべ……。
作ろうとアイランドキッチンの上を見たら、いつも置いてある肝心のバナナが一本もないぞ……。
「わちゃー、てっきりあると思ってたよ。ちょっと近くのコンビニに行って買ってくるか。……ズク坊はそのまま見てるか?」
「ホーホゥ。まったく、それなら俺も見回り(カラスの巡回)ついでに一緒に出るぞ」
急ぎ玄関にあるコートを着て、ズク坊が右肩に乗ったのを確認してから俺達は部屋を出る。
探索者の身体能力で早い&疲れなくても面倒なので、階段は使わずにエレベーターに乗ってマンションの外へ。
「ホーホゥ。やっぱりまだ寒いな」
「まあ一月だからな。これからもっと寒くなるぞ」
なんて話しながら俺は身を縮ませて、右肩のズク坊の高級シルクのようなモフ毛に頬ずりして温まる。
そうして、コンビニついたら各自任務を遂行だ。
ズク坊はファバサァ! と大空へと羽ばたいて見回りへ、俺はその間に買い物を済ませていく。
「お、美味そうだ。朝メシ食ったばかりだけど……ええい買っちゃうか」
探索者の財力(?)で節約など知らない俺は、レジ横のおでんで食えるやつを片っ端から購入。
軽く立ち読みしてからコンビニを出た後は、見回りを終えたズク坊と合流し、二人で歩き食いしながら帰路についた。
そこから急ぎミキサーを回してバナナシェイクを作れば、いざテレビ観賞を開始。
どこで身につけたのか、相変わらずMCネコのレオンのトークは冴え渡る。
芸人達のおバカでも真剣に体を張った芸もあって、スタジオも俺達も爆笑の嵐だ。
さすがは視聴率二十パーセント超えの人気番組だな。今回も腹を抱えて笑わせてもらったぞ。
んでもって笑った後は、俺もズク坊もバラエティと並んで大好きな『アニメタイム』だ。
日常系とファンタジー系を一本づつ。
さらに借りていたDVD(これもアニメだ)を見ている途中で――きゅるぅ~と。
フェリポンの鳴き声みたいな腹の音が隣のズク坊から鳴り、ふと時計を見れば十二時を回っていた。
「もう昼か。よし、んじゃメシにするかズク坊。何か食べたいもんはあるか?」
「んーそうだな……。ホーホゥ。あのこってりな麺が食べたいぞ!」
「冷凍の油そばか。オッケー。それならすぐにチンすればいいからちょい待ってな」
ミミズクとは思えない、ソファの上でダラけた体勢(日曜日のお父さんスタイル)で待つズク坊を置いて、俺はキッチンへ。
油そばは汁がないから【モーモーパワー】の『食問題』にも引っかからず、何より美味いからいくつもストックしてあるのだ。
とまあ、昼食をズルルッ! と食べた後は、ズク坊は日課の一人オーケストラごっこ、俺は買ったばかりのゲームを始める。
……え? 買い物に出た以外は全然動かないって?
別にこれでいいのだよ。
平日は肉体労働をしているのだから、休日はゆっくり過ごして体を休めるのがプロ探索者ってものさ。
朝からテレビにかじりついて、昼も冷凍でパパッと済ませるぐーたら行為は必要というわけだな。
……え?? けど外出しないとお前にゃ出会いがないだろって!?
うっさいんだよチミは! 俺には緑子さんと日菜子さんの美人姉妹がいるからいいのだよ(怒)!
「ホーホゥ? 何で上手く倒せたのにコントローラを投げつけてるんだバタロー?」
――おっといけない、ついつい取り乱してしまったな。
俺は投げ捨てたコントローラを回収して、新作ゲーム(迷宮モノのRPG)に熱中する。
きちんと三時のおやつを挟みつつ、ズク坊はホワイトボードでお絵かきもするなど、自由気ままな休日を過ごしていけば――……もう日が沈んで暗くなる頃に。
「よしズク坊。メシの前に早めに風呂に入っちゃうか」
「ホーホゥ。風呂だ風呂―」
俺はリビングで素っ裸となり(一人暮らしの解放感!)、ズク坊と一緒に風呂へと向かう。
ズク坊はミミズクだからか湯船には浸からないが、シャワーは大好きなので、右肩の上に乗せたままシャワーを浴びる。
シャンプーすると羽がボロボロになるから、基本水浴びみたいな感じだな。
あとは乾きが早いので、タオルで軽くサッと拭いてやれば完了だ。
俺も今日は疲れていないため、適当にシャワーで済ませて五分とかからず風呂タイムは終了である。
風呂から出れば俺はコーヒー牛乳、ズク坊はバナナシェイクを飲む。
そうして、体の中までスッキリしたらいざ晩飯の準備を。
ここのところは野々介さんの居酒屋に入り浸っていたから、今日は久しぶりの自炊だな。
エプロンなどつけず、俺はパンツ一丁でキッチンに立ち――ザ・男料理の開幕だ。
「んじゃ、今晩はステーキを焼いてガッツリといこうか!」




