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六十六話 妖精と火の鳥

「おっ出たか。……図鑑で見たまんま可愛らしい見た目だな!」


 俺は前衛でスラポンと並び、お目当てのモンスターをまじまじと見る。


 淡いピンクの羽をはためかせ、約十五センチの小さな人型の体が優雅に宙を舞う。

 くりっとした碧い目に銀色の髪、一糸纏わぬ白磁のような白い肌を見ると……やはり人形にしか見えないな。


『スコットフェアリー』。

 それが目の前に現れた、モンスター界史上最もモンスターらしくないモンスターの名前だ。


 名前の由来はスコットランド。

 本来はスコットランドの固有種だったのだが、二年くらい前に『呉の迷宮』で発見されたらしい。

 かなり稀少なモンスターで、『探索者を除いた』者達の中で一、二を争う人気がある。


 そして、肝心の能力面はと言うと――ずばり『精霊の治癒(ヒール)』だ。


 スラポン(ラージスライム)で言うところの『生命吸収』。

『スキル持ち』の【スキル】とは少し違う、スコットフェアリーという種族が持つ特性ってやつだな。


 で、その『精霊の治癒(ヒール)』というのがかなり優秀だった。

 自分以外の、体力も魔力も分け隔てなく回復できるという、まさに回復薬&魔力回復薬いらず。


 戦闘力こそないものの……それを補って余りある回復特化のモンスターだ。


「つまり、俺達がパーティー強化に選んだ二体目の従魔は『回復役』ってわけ――」


 ブメェエエエエ!


 ――っと、もう一体の巨大ヤギの方を忘れていたな。


 三つ目からの『衝撃眼(ショックアイ)』(これも【スキル】ではなく特性)が攻撃手段の、地味にオーガ級の強さを持つ『グレアゴート』。

 灰色の軽トラックサイズのモンスターが、激しい威嚇の声をぶつけてきた。


「む、生意気なやつめ。お前の方には用はないから……すぐる! アレを見舞っちまえ!」


 言いながら下がり、俺は後方で燃え盛る仲間にバトンを渡す。


『岐阜の迷宮』での最終アタックでは選ばれなかったからな。

 その鬱憤も晴らすべく、『レベル6』に上がった【火魔術】を披露してもらおう。


「はい先輩! お任せを!」


 気合いも火力も十分に、『火ダルマモード』のすぐるは右手を突き出す。


 そして、炎と魔力を撒き散らすように叫んで――出現させた。


「『火の鳥(ホウオウ)!』」


 瞬間、火ダルマな右手から鳥の形をした炎の塊が飛び立つ。


 その色は鮮やかに輝きを纏ったオレンジ色。

 まるで生きているかのように翼を羽ばたかせ、標的のグレアゴートに高速度で迫っていく。


 対して、グレアゴートはギロリと一睨み、『衝撃眼(ショックアイ)』を放って迎撃してくる。

 発生した歪んだ空気の塊が、全長二メートル、翼開長四メートルの燃え盛る鳥と空中でぶつかり――合わない。


 なぜなら、ヒュン! と。

 燃焼音とは別に風切り音を響かせて、放たれた鳥が華麗に避けたからだ。


 これぞすぐるが覚えた新たな【火魔術】、『火の鳥(ホウオウ)』の真骨頂。

 今までの魔術は全て直線的な動きしかできなかったが、本物の鳥のように動いて標的を狙えるのだ。


 もちろん、威力も過去最高。

 一見、紅蓮色の球体の『火炎爆撃(フレアボム)』の方が強そうに見えるが……そんな事はない。


 速度もサイズも、熱も威力も、美しさも使い勝手も。

 全てにおいて最強な火の鳥は、まさに文句のつけようがない魔術だった。


 事実、ゴァアアアア! という荒れ狂う炎の音を聞いても分かる通り。

『レべル5』で得た連射能力を使う必要もなく、たった一羽でオーガ級のモンスターを燃やし尽くしてしまう。


「おおー!」

「ホーホゥ!」

「のわあー!」

『ポニョーン』


 その派手で激アツな景色を見て、俺達は子供のように歓声を上げた。


 カッコイイ! カッコ良すぎるぞすぐる!

 改めて見ても、やっぱり魔術師ってのはロマンがありますな!


「ふう、予想通り一撃でした。……でも、ちょっと魔力がもったいなかったですね」


 すぐるは冷静に感想を言って、突き出した右手を下ろす。


 ……たしかに、オーガ級の相手にはオーバーキルだったか。

 今のすぐるなら『火の鳥(ホウオウ)』を使えば、トロールだって二発もあれば沈むだろう。


 とにもかくにも、一発で終わったからスコットフェアリーの出番もなし。

 モンスターに『精霊の治癒(ヒール)』をかけて戦闘が長引くという、探索者側から見たら迷惑行為のそれは行われなかった。


 ――さあ、では本題といこうか。


 広島まで足を伸ばした理由、スコットフェアリーのゲットといこう!


 ◆


 キュルルルゥ……!

『ブルルルゥウウ!』


 焦って逃げようとするスコットフェアリーに、時間を与えず『闘牛の威嚇』を一発。

 万能の回復役としては優秀でも、戦闘力の低さが仇となり、動きは完全に止まっていた。


「よし! 今だ花蓮!」

「あいよっ! バタロー!」


 俺の声に花蓮はテンション高く答えると、小走りでスコットフェアリーのもとへ。


 羽も動かせないため地面に落ちた小さな妖精に――我らが従魔師は右手をスッと出そうとする。


 果たして成功するかどうか?

 従魔師がモンスターを従魔にするためには、直接触れて心を同調シンクロさせるしかない。


 しかし、当然ながら絶対に成功するわけではない。

……というか、むしろ失敗する確率の方が高いからな。


 成功するためには従魔師とモンスターの『能力差』と、『性格の相性』が関係している。

 花蓮は成長しているから『能力差』の方は問題ないと思うが、『性格の相性』ばかりはどうにもならないし……。


 なんて思っていたら。


 花蓮が硬直したスコットフェアリーに触れた瞬間、ピカッ! と。

 花蓮の右手とスコットフェアリーの十五センチの体が、目も眩むほどに『光った』のだ。


「おおっ! これは!」

「やったぞホーホゥ!」

「一匹目で上手くいくとは驚きです!」

『ポニョーン』


 そんな俺達の歓喜の声を聞きながら。

 花蓮本人も満面の笑みで、従魔にできた『成功の証』、心の同調シンクロによる閃光を確認していた。


 もし失敗したのなら、光の代わりに結構な炸裂音が響くらしいので――間違いなく成功だ!


『キュルルルルゥ』


 と、ここで。

 硬直から抜けだしたスコットフェアリーが、再び淡いピンクの羽を羽ばたかせて宙に上がり一声鳴いた。


 その声も、表情も、雰囲気も。

 可愛らしさは変わらないが、対峙していた時よりも柔らかくて温かいものに変わっている。


 極めつけには飛ぶ位置だ。

 さっきまではグレアゴートの巨体の周りを飛んでいたのに、今や主人である花蓮の周りを飛び回っていた。


「やった! 私と性格も合っていたみたいだね!」


 ピョンピョンと跳びはね、どこからどう見ても中三女子にしか見えなくなった二十歳の花蓮は大喜びだ。


 同じくスコットフェアリーも『キュルルルルゥ!』と鳴き、踊るように優雅に宙を飛ぶ。


 そうして、一人と一匹の喜びのダンス(?)が少し落ちついたところで。

 二体目の従魔を引き連れた花蓮が俺達の方に戻ってくる。


『キュルルルゥ?』


 花蓮から離れたスコットフェアリーが、今度は興味津津な様子で飛び回る。


 同じ従魔のスラポンから始まり、俺、ズク坊、火を収めたすぐるの順に体を寄せてきた。


 おお……、やっぱり改めて見ても可愛らしいな。

 飛行系モンスターらしくない小さな羽音もどこか心地いい。


 新参者のにおいを嗅ぐ犬や猫みたいに、サイズからしてもちょっとしたペット感覚があるぞ。


 そんな微笑ましい光景を見て、花蓮は満開の笑顔で、某有名アニメの主人公なキメ台詞を叫ぶ。


「ふっふっふ。これで二体目の従魔――スコットフェアリーゲットだぜ!」

というわけで、次の従魔は回復役の妖精でした。

あと、技名をフェニックスかホウオウかで迷ったのですが……、

前者だとレベル6の魔術にしては必殺感? が強すぎると思ってホウオウの方にしました。

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