六十四話 終息
これで岐阜の迷宮編は終了となります。
ちょっと短めです。
「長かったような短かったような……」
『岐阜の迷宮』に起きた天災、恐怖の『迷宮決壊』の危機は去った。
自衛隊『DRT』と『国選探索者』の奮闘――そしてまさかの『竜』の力によって。
「国とギルドを代表して言わせてもらう。諸君には本当に感謝している。この六日間、全ての者が命を賭して全力で頑張ってくれた」
『岐阜の迷宮』の探索者ギルドのホール会場にて。
ギルド総長はそう感謝の言葉を口にするも、何とも言えない表情と感情の顔と声だ。
まあ、それも当然。手放しには喜べないよな。
最後の最後に竜が現れて、結果的には美味しいところをかっさらわれた感じだし、
そもそも、モンスターの頂点にいる竜の出現自体がヤバイ現象なのだ。
『迷宮決壊』と何か関係があるのか? まだまだ調べないといけない事も多いだろう。
「でも、とりあえず無事に終わったな」
「ホーホゥ。命があるのが一番だしな」
「参加者は誰一人、命を落とさなかったのは本当に喜ぶべき事ですね」
「チュチュ。オイラも探索者歴は長いっチュけど……濃密な六日間だったっチュな」
「……はァ。せめて竜と一撃離脱くらいはしたかったなァ……」
後ろの方の席でギルド総長の話を聞きつつ、俺達は口々に感想を言い合う。
白根さんのみまだ未練タラタラっぽいが……今回ばかりはしょうがないよな。
あのドス黒竜(ズク坊が命名)、二次元の世界で見てきたものとはまったくの別物だ。
比べ物にならないあの実物の迫力と威圧感。
いくら戦力的に勝利の可能性があったとしても、心の準備がないと相手取るのはキツすぎる。
……というわけで、白根さんには納得してもらうとして。
ギルド総長からの話が終われば、もう俺達の仕事も終わり。
ここからは学者やら研究者やらのターンだ。
日本を代表する腕っぷしの次は、日本を代表する頭脳の出番というわけである。
あとマスコミに対しての『終息宣言』はギルド総長がするので、俺達現場の人間は帰るだけだ。
「さて、今日はホテルに泊まるから帰るのは明日だけど……。お世話になった人達には挨拶をしとかないとな」
俺はホール会場から出る前に、行動を共にした人達に別れの挨拶をする。
『北欧の戦乙女』に『奇跡☆の狙撃部隊』、そして白根さんとクッキーにも。
他にも多少なりともお世話になった『DRT』の人や、『プラチナ合金アーマー』を手配してくれた人など、ギルド関係者に挨拶をして回った。
「ほら太郎、挨拶もその辺にして飲みいくぞー」
「そうだぞ友葉氏よ。俺はもう銃から箸に持ち変える気満々だッ!」
「フフ、太郎君は律義ね。でも探索者だって社会人、そういう部分も必要よ」
『ぐぐぅうぎゅるるる!』
予想より活躍したらしい俺が、色々な人達に掴まって褒められていたところ。
後ろより、これから開く飲み会メンバーの声(とすぐるの腹の虫)がかけられた。
お別れ会をかねての親睦会だ。
挨拶をした時に緑子さんからの提案によって、
『ミミズク&ハリネズミ&北欧の戦乙女&奇跡☆の狙撃部隊合同パーティー』で飲む事になっていた。
「あ、はい!」
「ホーホゥ。今行くぞー」
俺は話を切り上げて、右肩のズク坊と共に待っている皆のもとへ。
他にも『遊撃の騎士団』の草刈さんに『黄昏の魔術団』の若林さん、『DRT』の柊隊長とかのトップ探索者とも話してみたかったが……。
まあ、同じ世界にいるわけだし、いずれまた違う形で会えるかもしれないしな。
――とにもかくにも、デンジャラスな現場での仕事はもう終わり。
自分へのご褒美もかねて、今日はパーッと飲みますか!
◆
「「「「「乾杯!」」」」」
その日、こちらに来て初めて岐阜の街に繰り出した俺達は、心の底からドンチャン騒ぎを楽しんだ。
竜の出現というアクシデントはあったものの、酒をあおる皆の顔には達成感があった。
俺は一人だけ飲めないが……それでも言わせてくれ、最高! だと。
緑子さんが美しい顔を一つも変えない酒豪だったり、
葵さんが艶めかしい脳筋女になって絡んできたり、
白根さんが色んな酒を滅茶苦茶に混ぜて飲んでみたり、
粗相をした狙撃手全員がズク坊の新たな後輩にされたり、
すぐるの尻に千鳥足のクッキーが刺さったり……。
ほろ酔いから泥酔まで、三件もの飲み屋をハシゴしながら。
戦場とは違って色んな顔をする皆と、最後の時間を思いきり楽しんだ。
そうして夜遅くホテルに戻り、楽しい楽しい一夜が明ければ――一週間のホテル生活も今日で終わり。
白根さんとクッキーは大阪へ。
緑子さん達『北欧の戦乙女』は石川へ。
『奇跡☆の狙撃部隊』は熊本へと、それぞれが拠点に帰っていく。
もちろん、俺達『ミミズクの探索者』パーティーもだ。
晴れ渡った夏空の下、用意された唸りを上げるヘリコプターを前に――俺は右肩の上と隣に立つ相棒達に声をかける。
「んじゃ、ズク坊にすぐる! 土産も持ったし、東京に帰るとしますか!」




