五十七話 合流
「……なぜだ。なぜこうなってしまったんだ……!」
作戦三日目の夕食後。
『岐阜の迷宮』探索者ギルドのホールに集められた全参加者(『DRT』+『国選探索者』)に、ギルド総長から労いの言葉と今後の方針が話された。
と言っても、別段変わった事ではない。
事前に伝えられていた通り、六層までを制圧した俺達は、振り分けによる『再編』の結果を伝えられたのだ。
……のだが、
「ホーホゥ。まあ元気出せってバタロー」
「僕も少し残念には思いますけど……編成に口出しはできませんからね」
俺達がいた一、二層を担当した『最後方チーム』は解体。
それぞれが現在の『最前線チーム』か『中間チーム』か、二つに一つで合流する事になった。
……まあそれは当然だ。
頼りになる兄貴、白根さんとクッキーが『最前線』に加入する事になったのも、少し寂しいが文句を言うつもりはない。
ただ、たださあ神様……いやギルド総長か。
ここに来て、こんな『組み合わせ』にしなくたっていいじゃない。
俺はため息をついて、ギルド総長の説明と共に配られた紙に視線を落とす。
『ミミズクの探索者パーティー』の名前を見てみれば、『中間チーム』の各パーティー名の中に書かれてある。
『中間チーム』である事に一切の文句はない。
俺達なら『最前線チーム』でもやっていけるぜオラ! ……なんて驕ってもいない。
不満があるのはただ一点――なぜ一緒に行動する『合同パーティー』が、あの四人組の『奇跡☆の狙撃部隊』なのか!?
「『DRT』のB、Cパーティーだっているし、何より緑子さんの『北欧の戦乙女』が良かったのに……」
俺だってもちろん、ただのわがままだとは分かっている。
分かってはいるのだが、アイツらを見ているとどうにも……。
「暗い顔だな友葉氏よ! 大丈夫、俺達が一緒なら無問題だ。……【モーモーパワー】だけにな!」
「ぐふふふ! さすがは隊長やるッスね。芸人顔負けな面白さッス!」
沈んでいた俺に声をかけてきたのは、まさかの『奇跡☆の狙撃部隊』のヤツら。
一人目の男がパーティーのリーダー、じゃなくて隊長で、変な笑い方なのが副隊長の男だ。
実力は間違いない。経験も俺達なんかより全然ある。
……だけども変人。
まだ完全に本性(?)をさらけ出してはいないが、言葉といい今している謎の敬礼ポーズといい、いわゆる『痛い』というやつだ。
現実世界にファンタジーがやって来れば、どうしてもこういう変な輩は生まれてしまうらしい。
もちろん、大体が冷やかしの半端者になるのだが……この人達は『例外』だったようだ。
え? 他の二人はどうなのかって?
……言わせないでくれよ。同じだよ。
「ホーホゥ。まあ仲良くやっていこう」
「『奇跡☆の狙撃部隊』さん。明日からよろしくお願いします」
「む、ズク坊氏に木本氏か。こちらこそよろしく頼む」
「『ミミズク』と『スナイパー』の超強力タッグの結成ッスね! こりゃ上位の探索者達も真っ青な大戦力ッスよ!」
と、沈んだままの俺を放っておいてパーティー同士の会話が進む。
コイツらの空気感は何となく、俺の大学の研究室時代に似てはいるのだが……どうも好かん。
ちょっとした同族嫌悪か? 自分でもよく分からんな。
まあ、『イケメンなリア充パーティー』とどっちがいい? と聞かれたら、間違いなくこの人達なんだけども。
そんな合同パーティーと挑むのは、二層から一気に上がった『七層』だ。
俺達『中間チーム』が七~八層、『最前線チーム』が九~十層という担当である。
そうして各層共に制圧できたならば、岐阜に集まった凄腕達の中から『さらに選抜して』、
『最終アタックチーム』を組んで十一、十二層と進み、最下層の十三層へ! という流れだ。
長いような短いような、だが間違いないのはいよいよ迷宮も後半だという事。
敵は今までよりも強力で激烈。
だから俺は一人気合いを入れ直して、即席とはいえ新たな仲間達に言う。
「とにかく『命を大事に』で――よろしく頼みます!」
◆
チームを編成し直して迎えた作戦四日目。
俺達は『中間チーム』の一パーティーとして、予定通り一気に七層まで潜っていた。
「……ふう、ここまで深いと下りるだけでも一苦労だな」
「たしかにな。だが友葉氏よ、我々の真の力を発揮するには、これくらい潜らないと相手に不足を感じてしまうからな!」
「は、はい。ですね」
熱くたぎる『奇跡☆の狙撃部隊』のリーダーが、『プラチナ合金アーマー』越しに俺の肩を叩く。
彼の名前は森川“マグナム”義和。
探索者歴五年の二十八歳で、謎のミドルネームがついた、天然パーマなアフロが特徴的な痩せ型の男だ。
白根さんと比べてしまうとさすがにキツイが……この森川さんを筆頭に、『実力的には』頼りになる人達だ。
装備に関しては全員統一されていて、それいるか? と思うような、胸に下手くそな銃の絵がペイントされた黒の軽鎧を身につけている。
「では行こうか。……くッ、俺の右手がうずいてきやがる……!」
あ、ちなみにこの合同パーティーのリーダーは森川さんである。
年功序列で決めて、俺達も特に異論はなかった。
陣形については、前衛が俺と森川さんと、何とか“バレット”何とかの副隊長の男(名前は忘れた)。
すぐると残る二人(名前は忘れた)が後衛で、ズク坊は最後方で索敵するという感じだ。
というわけで、俺達は他のパーティーとは違うルートから奥を目指す。
迷宮内の様相は今まで活動していた一、二層とは少し異なっている。
淡い緑に発光する壁の光を反射していた霧は、どこにいったのか完全に晴れていた。
逆に沼の深さは成人男性の腰辺りまであり、その沼から岩の柱が『無数の足場』として生えている。
その一本一本が太くて頑丈そうでも……十八牛力(十四・四トン)の俺のみ、跳躍と着地の瞬間は『牛力調整』をしないと崩壊しそうだ。
「十分だな。これだけ足場があれば落ちてドボン! もないだろう」
「そうッスね隊長。こんなものでは我々の進撃は止められない、友葉斬り込み隊長もそう思うッスよね?」
「ええ、ですね。でも気をつけていきましょうか」
真逆のテンションで言葉をかわす俺達前衛担当。
……というか副隊長よ、俺はいつから斬り込み隊長に任命されたんだよ!
と、心の中で激しくツッコんでいたら――後方よりズク坊の声が響いてくる。
「これはまた……。ヤバイやつのご登場だぞホーホゥ!」
その報告を受けて、それぞれが岩の柱の上で歩みを止めて待機する。
そうして視界良好な前方を確認してみれば、五十メートルほど先の岩の柱の上に、俺達以外の存在が『一人』。
あいつは……本来は九層出現モンスターの『ヴァンパイア』だ。
その正体については、特に詳しい説明はいらないか?
あのヴァンパイアだ。
人型で青白い肌で鋭利な牙を持つ、人の血が大好物で日光が苦手なあのヴァンパイアだ。
得られる素材はもちろん『血』であり、当然ながら高値で取引されている。
俺も詳しい事は知らないが、たしか金持ちの年寄りや女性からの需要が高かったはずだ。
現在のここ七層では最強格。
バジリスクとヴァンパイア、たった二種類のモンスターしか存在していないが、どちらも凶悪なモンスターである。
そんなオーラからして強者の雰囲気(ボス感とも言う)を醸し出す、黒い布らしきものを纏った完全なる人型モンスターに対して。
俺はモンスター名を呼ばずに、違う名称を叩きつけるように叫ぶ。
「ついに相まみえる時が来たか――『指名首』!」




