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四十六話 肉塊と炎

修行回その3です。

「足封じ完了! ――やったれ、すぐる!」


 三チームに分かれて、それぞれが鍛練に励んでいる頃。

 俺とすぐるも同じく、五層に潜ってトロールとの戦いを始めていた。


 本来の目的通り、戦うのは俺ではなくすぐるだ。


 すぐるの【火魔術】が『レベル5』に上がるまで倒させて、

 その目標を達成したら、俺と交互にトロール狩りをする、という予定だ。


 ただ、全く出番がないわけではなく、当然ながら俺も『下準備』くらいはする。


 トロールの丸太よりも太い脚を一本、『闘牛ラリアット』の連打で破壊。

 人型だけあって人と同じ弱点の一つ、脛を執拗に狙い、右脚の脛をボキッとへし折ったのだ。


 そのために必要なパワーは何の問題もなし。

 初対戦の時から二頭分増えて『十三牛力』。

 十一牛力の時はほぼ互角だった力関係は、【過剰燃焼(オーバーヒート)】なしでも圧倒できている。


 ただし、ブルルゥウ! とノドを鳴らす『闘牛の威嚇』はほとんど効果がなかった。

 トロールは俺にとって格下になったとはいえ、まだそこまで差がないというのが判明して……ちょっと残念な気持ちに。


「助かります先輩! あとはもう大きいだけの的ですからね!」


 俺が後ろに下がると同時、後方に控えていたすぐるが一歩前に出て叫ぶ。


 ――もちろん、いつもの『火ダルマモード』だ。

【魔術武装】で炎を纏い、周囲の気温と魔術の威力を底上げした状態で、


「『火炎爆撃(フレアボム)』!」


 そして、これまたいつもの魔術名を立て続けに叫ぶ。

 現時点ですぐるが持つ最強の魔術、着弾と同時に爆発して熱と魔力を撒き散らす、球体状の炎の塊だ。


 当初は直径八十センチ程度だったが、術者のすぐるの成長により進化。

 今や一メートルを超えるそれが、一直線にトロールへと襲いかかった。


 ボカァアアン! と直撃したトロールの顔面を中心に爆炎が上がる。

 直後、グゴォオオ! という、聞くに堪えないトロールの大音量の悲鳴が響く。


「……とはいえ、これでもまだ火力不足ってか」


 俺はすぐるの背中越しにトロールを見る。


 前回までのすぐるvsトロールの戦い同様、顔の表面に火傷を負っているだけ。

 火傷の程度こそ重くなっているものの、やはり今までのモンスターとは格が違うようで、一発で肉が爆散する事はなかった。


「ッ……! 相変わらず硬いですね」

「どうする? もう少しダメージを入れとくか?」

「いえ、僕一人でやりきってみせます。先輩に片足を潰してもらっても勝てないようじゃ、とても『迷宮決壊(ダンジョン=コラプス)』の作戦メンバーには入れません」


 振り返り、体に纏う燃え盛る炎の中、すぐるは決意が宿った目で言う。

 片足を引きずりながら距離を詰めてくるトロールに対して、再び向き合うと第二撃の準備に入った。


 ……うむ、ならすぐるに任せるか。

 これも頼れる相棒のさらなる成長のためだ。


 まだトロールにトドメを刺して経験値は得ていないから――この戦いを制すれば一気に成長が見込めるだろう。


「『火炎爆撃(フレアボム)』!」


 その叫びを合図にして、火の魔術師と巨人型モンスターの本格的な戦闘が開始。

 紅蓮の炎と巨大な棍棒が入り乱れる、派手で豪快な一戦となっていく。


 すぐるは一定の距離を保ちながらの魔術連発。

 トロールは被弾覚悟で前進しながらの棍棒の振り回し。


 当然、手数も与えるダメージの蓄積もすぐるの方が上だ。

 だが相手はあのトロール。俺みたいな重戦士でもない限り、一発もらえば形勢逆転、最悪で再起不能になる危険がある。


 だとしても、俺は後方で見守るのみ。

 厳しい放任主義……というよりも、すぐるに対して絶対の『信頼』があるからな。


 優しい性格とぽっちゃり体型を見ると頼りなさそうだが、もう現時点で背中を任せられる立派な探索者だ。


「うおおおおッ!」


 炎の爆音と空振った棍棒が地面や壁を叩く轟音の中、すぐるの咆哮が生まれる。


 その一秒後。首から上に酷い火傷を負ったトロールの顔面に、ちょうど十発目となる『火炎爆撃(フレアボム)』が直撃した。


 ――――…………、


 そして静寂が訪れる。

 口から黒煙を上げて天井を向くトロールも、右手を突き出したまま【魔術武装】が解けているすぐるも。


 両者どちらもピタリと止まり、さっきまであった苛烈さとの落差からか、一分とも感じる長い長い十秒が経つ。


 そんな静寂を破ったのは、ズン、ドスゥウン! という鼓膜と足元を揺さぶる音。

 手から離れた棍棒が落ちる音と、トロールの巨体が後ろ向きに倒れた音だった。


「しょ、勝負ありぃ……!」


 一方、自身はノーダメージだというのに、だいぶしんどそうな顔と声のすぐる。


 これは……どう見ても『魔力切れ』だな。

 そりゃ『レベル4』で覚えた、最も威力も消費魔力も高い魔術を連発すればそうなるか。


 無尽蔵とも思える燃え盛っていた炎は、完全に鎮火して火種の気配一つもなかった。


「おつかれさん。とりあえず初撃破やったな!」


 右手を前に突き出したままゼェハァ中のすぐるに、俺は肩をポンと叩いて労をねぎらう。


 最後は少しだけ締まらなかったが……まあ、倒せたからオールOKという事で。


 ◆


「よし! 元気が出てきました! では! 行きましょう先輩!」

「お、おう」


 すぐるにとって初めてとなるトロール撃破。

 その喜びに浸る間もなく、すぐるは持ってきた魔力回復薬でササッと魔力を補充した。


 そして、即座に『火ダルマモード』に移行すると、次なる獲物を目指して迷宮を照らしながら進み始める。


 ……ちなみに、まだ【火魔術】のレベルは上がっていないらしい。

 ひょっとしたら、強敵のトロールを倒せばいきなりレベルアップ! となるかと思っていたが、やはり現実は甘くないようだ。


 という事で、レベルアップ目指して俺達は五層の奥へ。

 索敵担当のズク坊がいないので見つけるのは大変かと思いきや、図体&足音がデカイので、大した苦もなく発見できた。


 そこからすぐるの第二戦――否、予想以上の、まさかの『蹂躙劇』の始まりだった。


 スタートは俺のラリアットの連打からの片足潰し。

 その後の本番、すぐるのターンからが驚きだった。


 さっきは一体目を倒すのに『十発』かかっていたところ、

 どうやら身体能力&魔力上昇効果が大きかったらしく、二体目は『九発』で仕留められたのだ。


 そして、複数行動の個体からは即行で逃げつつも、その次が『八発』、四、五体目は『七発』で倒した後に。

 六体目は『六発』と、最初にかかったほぼ半分の手数でトロールを仕留めていった。


「やるな、すぐる。……けど大丈夫か?」

「は、はい。何とか大丈……うぷっ」

「まあ、あれだけ魔力回復薬をガブ飲みしたらな……。別に美味いわけでもないし」

「さすがにこのダメージはちょっと予想外、でした……」


 全身無傷のすぐるが、片膝ついて苦悶の表情を浮かべる。


 ――理由はお聞きの通り、魔力回復薬の飲みすぎだ。

 小瓶(三百ミリリットルの赤い液体)をすでに八本飲んでいる。


 しかも味はついておらず、加えて二日酔いを覚ますため、迷宮に入る前に多くの水も飲んでいたので、余計に胃に負担がかかっていた。


 これで【火魔術】がレベルアップしていれば報われるのだろうが……。

 残念ながら、まだ『レベル4』のままだった。


 まあ、とにもかくにも休憩するか。

 五層まで潜る時間+トロールの探索と戦闘で、もうすぐ十二時の昼休憩、皆と合流する時間だしな。


 俺は水っ腹のすぐるに合わせて、ゆっくり歩いて来た道を戻っていく。


 道中、こちらの事情などお構いなしに襲いかかってくるモンスターはと言うと、

 力とやる気が有り余っている、鎧を纏った牛の重戦士の餌食ですよ!


 俺は四層アイスビートルを砕きつつ、別個体のまだ新しい死体を見ながらつぶやく。


「はてさて、他の皆はどのくらい成長できたかな?」

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