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百六十六話 亜竜を倒した男達

「…………、ごくり」


 俺は今、猛烈に緊張している。

 亜竜・妖骨竜との激闘で『迷宮病院』に入院し、そのまま年が明けて、やっと退院して正月が過ぎ去った一月上旬。


 年も気分も新たに仕事が始まったわけだが――本業である探索の方ではない。


 取材。取材。&取材。

 見舞いに来たギルド総長の捨て台詞(?)通り、マスコミ関係の取材の嵐で大変な事になっていたのだ。


 ……正直、『月刊迷Q通信』以外で自分の顔が載っているのを見るのは……めちゃくちゃ恥ずかしかったぞ。

 また取材とは違うが、何気なくつけた正月の生放送のテレビで、芸能人が俺の話題を出した時も……得も言われぬ変な気持ちになったな。


「(とはいえ、そっちは何とか乗り切ったけども……)」


 改めて言おう。俺は猛烈に緊張していると。


 人間の慣れとは恐ろしいもので、取材自体はどうって事はないのだが……。


「どうした太郎。カチコチじゃねェか。『全身蹄化』でも使ってんのかァ? リラックスしろって」

「だっチュよ太郎。もっと気楽にしていればいいんチュよ」

「ホーホゥ。『美女はいないのに』珍しいなバタロー」


 そう言ったのは、白根さんとその相棒のクッキー、そしてズク坊だ。


 ……え? 何で兄貴的存在の白根さんに緊張しているのかって?

 いやそうじゃないんだよ。年上でも気の知れた間柄だから、『同じ部屋で同じテーブルを囲んで座っていても』緊張なんかするわけない。


 ずばり、緊張の原因は他の面子にあるのだ。


「回復して何よりだ友葉君。探索者として鍛えられていても、一人で亜竜に挑むのは極めて体に負担がかかるからな。特にあの戦いは、物理同士の殴り合いだったのだから尚更だ」

「くあー羨ましいぜ。『DRT』の特権ってやつか柊? 俺も特等席で見たかったぜー」

「まあ頑張ったのは認めよう。けど、美しさとは無縁の男臭さだったのは明白だね」


 と、立て続けに口を開いたのは三人の男。


 一人目は『亜竜殺しの公務員』こと柊斗馬さん。

 二人目は『剣聖の探索者』こと草刈浩司さん。

 三人目は『氷魔砲の探索者』こと若林正史さん。


 ――つまり、現在の状況はどうなっているのかと言うと、


 日本が誇る『単独亜竜撃破者』四人。

 頂点に立つ怪物達の中に、俺も一緒にブチ込まれているというわけだ。


 ……まあたしかに、俺も五人目だからおかしくはない。

 道を歩けば老若男女に顔を指されるほどには、俺も『単独亜竜撃破者』として認知されている。


 ただ、慣れない。

 一人一人と会うならまだしも、いざこの中に入れられると……場違い感がハンパないぞ。


「ホーホゥ。こうして見るとやっぱり壮観だぞ」

「なかなか全員が集まる事なんてないっチュからね。岐阜での『迷宮決壊(ダンジョン=コラプス)』以来だっチュ」


 ズク坊とクッキーの動物相棒コンビが言う。

 そのまま俺と白根さんの肩や頭から下りると、テーブルに用意されていたお菓子を貪り始めた。


 そんな姿を見て、ちょっと緊張がほぐれて――っと、そうだ。

 なぜ俺達が集まっているのか、まだ肝心な事を言っていなかったな。


 ここは都内にある『月刊迷Q通信』の撮影所。

 五人全員が揃った状態で、これから表紙の撮影をするためである。


 思い返せば俺の前、若林さんの時も四人で撮られたやつを見た事があるしな。

 どうやら新しい『単独亜竜撃破者』が誕生すると、全員で豪華に表紙を飾るらしい。


「にしてもよー。太郎で五人目が生まれたわけだが、改めて日本ってスゲー国だぜ」


 と、大あくびをしながらも。

 ボサボサ髪に無精ヒゲが似合う大人の男、『遊撃の騎士団』団長の草刈さんが言う。


 ……おお! あの草刈さんからも名前で呼ばれる日が来るとは!

 何か超一流の実力者に認められたみたいでちょっと嬉しいぞ。


「たしかにその通りですよね。俺で五人目……。世界ではもっと少なかったですよね?」

「あァ、そうだな。日本の次に多いのが……どこだっけか柊?」

「ロシアとイギリスの『二人』だ。ただでさえ日本はその倍もいたのに、また増えたと海外の国々は度肝を抜かれているようだな」

「フッ、そんなに驚く事でもないだろうに。日本には誇り高きサムライ魂があるのだからね」

「……いや若林。そのセリフを言うとしたら剣士タイプの俺じゃねーか? お前、バリバリの魔術士だろーに」


 そんな先輩達の話(仲良さげだな)を聞いて、俺は思わず驚いてしまう。


 あれ? 海外の『単独亜竜撃破者』ってそんなもんだっけ?

 てっきり日本より少し少ない程度の国がいくつもあると思っていたぞ。


 まあ、実際に対峙して分かったが、亜竜を倒すのに実力だけではダメだからな。


 どんな亜竜と出会えるかという『運』。

 たとえ倒せる実力と経験値を兼ね備えていても、相性が悪い個体だったら手も足も出ないだろう。


「チュチュ。そういえば太郎。アンデッドな妖骨竜を倒して、牛力の方はどれくらいになったっチュか?」

「おォ、それは俺も気になるところだなァ」

「あ、牛力ですか。今はえっと……『六十三牛力』になってますね」


 隣に座るクッキーと白根さんに聞かれて、俺は【スキル】を脳内表示させながら答える。


 現在、六十三牛力。

 亜竜を倒す前は四十八牛力だったので、一気に『十五牛力』も上がっていた。


 門番の王たるダンジョンキングでも、上がったのは三牛力だったからな。

 さすがは亜竜、一気にその『五倍』も跳ね上がるとは驚きだった。


 ――そして、もう一つ。

 おそらく五十牛力に達したからだろう。まだ正体は不明だが、『新能力』が一つ生まれた感覚もあるぞ。


 そんな感じで俺自身や、亜竜戦での話を中心に。

 ほのぼの会話をしつつ、最初はあった緊張がほぐれてきた頃。


「――では皆さん、お待たせしました。準備ができましたのでこちらへお願いします」

「あ、はい」


 と、ここでスタッフから声がかかり、部屋にいた俺達はいざ撮影現場へ。


 ちなみに格好は皆、スーツでビシッと決めている。

 可能ならば各々が倒して得た、亜竜の装備を纏っての撮影が一番カッコイイのだろうが……肝心の俺(妖骨竜)がドロップ品のままだからな。


 またズク坊とクッキーに関しては、俺達の格好に合わせて首に蝶ネクタイだけ巻いている。


 そうして、案内された俺達五人&動物コンビは揃ってカメラ前へ。

 モデルよろしく華々しい撮影が早速、始まる……その前に、


「あ、あの若林さん。すみませんが中央は友葉君でお願いします」

「何? 『最も美しく魅力ある男』であり、なおかつ『華麗なる魔術師』である僕が真ん中ではないと?」


 真っ先に中央に陣取った若林さんに、現場の責任者っぽい人が言う。


 ……いやまあ、そりゃそうだろうよ先輩。

 別に俺が『この中で一番だ!』なんて思っているわけではなくて、


 そもそも今日の撮影は、新たな『単独亜竜撃破者』となった俺がメインだからな。


 つまりは新人を囲んで五人での撮影。

 さっきの前室みたいなところで説明はあったのだが……この人絶対、聞いていなかったな。手鏡ばっかり見てたし。


「(そういや前にすぐるがお世話になって帰ってきた後、『先輩と若林さんは合わない』とか言ってたような……)」


 なるほどたしかに、すぐるの言う通りか。

 ナルシストでやたら『美』にこだわる感じだし――何より憎きイケメンだからな(怒)!


 おっさん三人+平凡顔な若造の中にいたら、そりゃ一番カッコよくて絵になるだろうよ(鬼怒)!


「ホーホゥ!? こらバタロー! 今はカメラの前だぞ。いつもみたいに震えたら俺達ブレちゃうだろ!」


 と、俺は俺で右肩のズク坊から注意を受けつつ。

 皆で立ち位置を修正して、年功序列? な感じで、左から若林さん、白根さん(クッキー)、俺(ズク坊)、柊さん、草刈さんとなった。


「はい、ではいきますよー! 皆さん笑ってください!」


 そんなこんなで、いざ撮影開始。

 モデル気分でバシャバシャと、キメた野郎共がどんどんと撮られていく。


 ――そうして無事に撮影が終わると、一同解散……と思いきや、


「せっかく集まったのだから」と柊さんが発言。

 ちょうど時間もいい感じだったので、皆で飲みに行く事となった。


「さァ飲むぞ太郎! ……って【モーモーパワー】で飲めなかったか!」

「そーいやそんな制約があるって聞いたぜ。だったら若ぇーんだからたっぷり食え食え!」

「もう同じ境地に至った者同士――。今日はとことん僕の華麗なる魔術遍歴を教えてあげよう!」

「オッホン! では太郎君。主役の君が代表してよろしく頼む」

「りょ、了解です!」


 普段は行かない高そうな店に連れていかれ、俺の乾杯で豪華メンバーによる飲み会がスタート。


 引き続き俺と妖骨竜の『クリスマスの決闘』の話を中心に、

 他の先輩方四人、四体の亜竜との激闘について、貴重な話を聞かせてもらった。


……だが、まさかもまさかそこで終わらず、


「おう、やってるな! では私も混ぜてもらおうか!」

「はじめましてだね友葉君。君の噂は前々から聞いていたよ」

「ほほぅ、実物はさらに若いのう。その年で単独撃破とは恐れ入る」

「これからは君も先頭に立ち、日本迷宮業界を引っ張っていってくれよ!」


 途中からギルド総長の柳さんなど、『迷宮業界のお偉方(顔くらいは知っている)』が次々と合流。


 あまりに豪華(重厚?)な新年会となり……結局、『新人単独亜竜撃破者』の俺は、またこっちでも緊張するハメになったとさ。

次は閑話を挟みます。

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