百四十八話 選ばれた従魔は
「ブッ飛ばせ、すぐる! 空の王者な俺のように、風を切ってブッ飛ばすんだホー」
「はいはい。分かったから落ちつきなさいってスピード狂め」
俺達は今、すぐるの運転で目的の迷宮を目指している。
今回は『従魔ゲットだぜ! の旅・第三弾』なので、当然、花蓮も一緒だ。
福岡から帰ってきた二日後に、もうこうやって皆で移動をしているわけだが……。
「まあ、場所はそう遠くないからな。フェリポンは広島の呉でガルポンは三重の四日市だったから、今回はかなり楽だぞ」
「ですね先輩。距離もそうですが、『迷宮の造り』的にも楽なので――ってズク坊先輩!? ハンドルに当たるので翼は広げないでください!」
……いや本当、ズク坊と高速道路のセットは面倒すぎる……のはまあ置いといて。
俺は膝上にいるズク坊の額を撫でて落ちつかせつつ、現在向かっている迷宮について考える。
常磐自動車道を進み、向かうは茨城県の土浦市。
つまりは『土浦の迷宮』だ。
今まで訪れた様々な迷宮に比べれば、かなり近場と言える場所だろう。
「楽しみだねー。初めての『指名首』ちゃんかぁ。これから新しい仲間が増えるんだよフェリポンっ!」
『キュルルゥ!』
後部座席に座る花蓮は花蓮で、ズク坊に負けず劣らずテンションが高い。
もうすでに小さな妖精のフェリポンを『従魔召喚』。
その十五センチほどの体を肩に乗せて、四体目の従魔に思いを馳せているようだ。
「とはいえ花蓮、相手は強敵指定の『指名首』だからな。そう簡単にシンクロできるか分からないぞ?」
「もちろんだよバタロー! ポ○モンでも何でも、強いモンスターほどゲットはしにくいからね。長期戦上等だよっ!」
「まあ距離が近い分、そっちに時間はかけられますからね。夜遅くになっても普通に帰れる――ってズク坊先輩!? だから車内で翼は広げないでください!」
と、そんな感じでいつも以上にワイワイガヤガヤと。
俺達『迷宮サークル』を乗せたすぐるの車は、追い越し車線を爆走していく――。
◆
『土浦の迷宮』。
東京からもそんなに遠くない、関東の迷宮の中でも屈指の人気を誇るこの迷宮は、日本で唯一の『ある特徴』が存在している。
「……なるほどな。たしかにこれは噂通りの便利さだぞ」
「ホーホゥ。全部の迷宮がこんな感じなら楽なんだけどな」
担当の探索者ギルドで装備を纏い、早速、迷宮に足を踏み入れた俺達。
そこから『二分ほど』経ったところで、すでに目的のモンスターが出現する『二十二層』に到達していた。
え? 何でそんなに潜行速度が早いのかだって?
その疑問はごもっともだ。
たとえ迷宮内が異常なまでに小さいとしても(ここは別に小さくないが)、二分程度で二十二層にたどり着くのはあり得ない。
迷宮の難易度も中の上レベルだしな。
モンスターの密集度も平均的なので、一層当たり『約6秒』の所要時間は異常だ。
じゃあギルドで【転移】持ちの探索者に送ってもらった? ……答えはノーである。
それならそれで一瞬で済むため、逆に二分もかからないだろう。
俺達はただ普通に、くっちゃべりながら歩いて二十二層まで到着、そのスタート地点に立っている。
「これぞまさに『スーパーショートカット』だな」
「だねー。出入り口からの『螺旋階段』! からの二十二層への『直通』だよっ!」
俺の言葉に続き、やる気満々な花蓮が腕をブン回しながら叫ぶ。
――そう、螺旋階段で直通でスーパーショートカット。
これこそ茨城県の土浦市、その小さな畑のど真ん中にある『土浦の迷宮』の特徴だ。
他の迷宮は真っすぐ階段を下りて一層へ。
そして内部を進み、次の二層へと下りる階段がある。
ところがどっこい、ここは出入り口(地上)から下に続くのは長い螺旋階段だ。
しかも途中途中で、一層、二層、三層――と。
各層に出入りできる『穴』があり、それが最下層の二十五層まで続いていた。
つまり、戦闘なしでどの層へも行ける。
それこそ本来なら上層時点で限界な探索者でも、行こうと思えば一気に最下層まで下りてしまえる、というわけだ。
「目的のモンスターだけをピンポイントで狙える。何とも便利な構造だぞ」
「ホーホゥ。でもバタロー、そのせいで無理をしたり階層を間違えたり……。過去の死亡者数はかなり多いみたいだぞ」
「仰る通りですズク坊先輩。かなり便利な反面、とても危険がある迷宮ですね」
「……フッフッフ。でも、我ら『迷宮サークル』なら無問題だよっ!」
と、花蓮はテンションが高いままに。
すでに移動中の車内から出していたフェリポンに続いて、ボンボン! と。
大型のスラポンとガルポンも『従魔召喚』し、パーティーの全戦力を整えた。
……うん? 何か気のせいか?
従魔達も新メンバーゲットを分かっているからか、
特に同じ前衛のスラポンが、『おい早くいくぞ!』的な空気を出して、俺の方に体を向けて『ポニョーン』と鳴く。
「おお、スラポンも張り切ってるな。了解。んじゃ早く新たな仲間を迎えにいきますか」
ズシィン! と一歩踏み出して、螺旋階段の穴から二十二層内へ。
俺とスラポンを先頭に、中衛のガルポン、後衛のその他全員と続き、『迷宮サークル』は進んでいく。
ここからは一切の油断はなし。
『門番』と比べれば格下と言っても、相手は正真正銘、危険な『指名首』だ。
なので慎重に、直通の螺旋階段以外はオーソドックスな洞窟型の迷宮を奥へ。
わざと必要以上に足音を鳴らして、自分達の存在を敵に知らせながら歩いていけば――。
ゲッコオォオ!
「はい。早速お出ましだな」
『ポニョーン』
ギルドで貰っていたマップによると、直径二十メートルの広さがある円形広場の、その手前。
俺達の存在に気づいたお目当てのモンスターは、ズンズンと敵意満々に通路部へと出てきた。
『ボックスチャンプフロッグ』。
二足歩行の人型で、鱗のように硬い深緑色の皮膚を持つそのカエル。
やたら肘から先、前腕と拳の部分が発達し、またそこだけ黒く変色している、身長二メートル半ほどのモンスターだ。
顔の方は少しふてぶてしいか? 人によっては可愛いとも思うかもしれない。
リアルなカエルの顔を、どことなくイラストっぽく寄せた感じがあるぞ。
ともあれ、コイツこそズク坊が推薦して、パーティー会議で選ばれたモンスターだ。
見た目や名前からしてお分かりの通り、バリバリの前衛アタッカーである。
「……さて、んじゃまずは弱らせるとしますかね。すぐるに花蓮、ちょっと援護は控えてくれるか?」
「了解です。ではお任せします先輩」
「フッフッフ、仕方ないなあ。男ならまず拳で語りあえ! ってやつだね!」
いざ四体目の従魔を仲間にするために。
前衛の俺とスラポンは一歩、前に出て距離を詰める。
かたやボックスチャンプフロッグも擦り足で前へ。
きっちりガードを上げてアゴを隠し、上体を少し左右に揺らしながら、『指名首』に相応しい威圧感を与えてくる。
舞台は『土浦の迷宮』二十二層。――今、男同士の戦いのゴングが響く!
……が、その寸前。
一人だけ気持ちが先走りすぎている、推薦者(ズク坊)の声が後方より響き渡る。
「さあやるぞ! サクッと仲間に引き入れて――皆で牛久の大仏観光にいくぞホーホゥ!」




