百四十三話 パーティー会議と連絡
「それではこれより、お久しぶりのパーティー会議を始めます!」
『門番地獄』の後の一週間の休養期間が明けた。
そこで俺達『迷宮サークル』は、俺の家のリビングに集まり――お菓子が広げられたテーブルを囲んでいた。
「議題はもちろん……分かってるな花蓮?」
「もっちろんだよバタロー! 何せ自分の事だからねっ!」
ポテチ片手の俺の問いに、ポッキー片手の花蓮が元気に答える。
そのままポキッと勢いよく食べると、花蓮はテーブルに広がるお菓子の中央、『モンスター大図鑑』をズビシッ! と指す。
すなわち、四体目の従魔である。
従魔師は大器晩成で、【スキル】の熟練度が上がるのが『最も遅い』とされているが……。
トリプルアイとマジックイーター。
二体の『門番』にガルポンがトドメを刺した事で、莫大な経験値を得て【従魔秘術(四体)】に上がっていた。
「さあさあ! 早く皆で新たな仲間を選ぶぞホーホゥ!」
「まあまあ、落ちつけズク坊。ここは焦らずじっくり見ていこうじゃねえか」
と、右肩の上でファバサァ! と翼を広げたズク坊を、頭の上のばるたんが落ちつかせる。
ただそのばるたんも、二度目とはいえ楽しい従魔選びというのもあって……鋏が高々と上がっているぞ。
「では先輩。新しい従魔を選んでいこうと思いますが、まず先輩はどういったタイプを求めているんですか? ……もぐもぐ」
「んー、そうだな。俺としてはやっぱり前衛がもう一枚ほしいぞ。『郡山の迷宮』での青芝さんを思い出すと特にな」
フ○スクみたいに大量のグミを頬張ったすぐるの問いに、俺はそこまで悩まずに答えた。
正直、前衛でも中衛でも後衛でも、どこを増やしても間違いはないと思う。
とはいえ、現在は前衛が二枚で中衛が一枚、後衛が三枚だからな。
ここに青芝さんクラス……のものを求めるのは無理としても、
やはり俺以外の、前衛アタッカー(スラポンは壁役だから)がほしいところだ。
「ホーホゥ。たしかにもう一枚、いるといないじゃバタローの負担が違うか」
「俺は迷宮内での状況については分からねえが……。今度のは『指名首』のモンスターなんだろう? なら初っ端から頼もしい仲間になってくれそうだな」
……そう、『指名首』。
ばるたんの言う通り、四体目となる今回は絶対に『指名首』一択である。
ちなみに『指名首』を復習しておくと、
探索者にとっては常識、知らないと命に関わる存在だ。
人間の指名手配とは違い、個人ではなく『種族全体』に適用されるもの。
ある一定以上の強さがあり、必ずスキルを持っている『スキル持ち』のモンスターがそう呼ばれている。
【従魔秘術】は四体目(四枠目)から、その『指名首』を従魔にできるらしい。
なので今回は、それ以下のモンスターは全て対象外だ。
「まあ、俺としては前衛という意見だけど……。全体としてどのポジション・タイプが一番いいか、皆で会議していこう!」
「はい!」
「おおっ!」
「ホーホゥ!」
「おうよ!」
そんな皆の威勢のいい返事を聞いてから。
リーダーの俺が代表して、テーブルの上の『モンスター大図鑑』を開く。
――さあ、この数百種の中から、新しい強力な仲間を見つけ出すとしますか!
◆
『モォ~! モォ~!』
と、皆でワイワイと会議を進めていた時。
元気な牛の鳴き声、もとい俺のスマホの着信音が鳴った。
はて、誰からだろうか?
もしや我が女神……緑子さんからかッ!?
沸騰したヤカンのごとくテンションが上がった俺は、すぐさまスマホの画面を確認してみると――。
「うん? 何だ珍しいな。『ギルド総長』からとは……」
相手はまさかの迷宮業界のトップだった。
……まあ、『郡山の迷宮』を脱出した日の夜に一緒に飲んで、番号は交換していたからな。
少し驚きはすれど、予想外すぎてビビってしまう事はない。
「我ながらスゴイ交友関係になってきたな。――はい、もしもし友葉です」
『やあ、元気にしているか友葉君? ギルド総長の柳だ。実は少し話があって連絡したのだが……時間はあるかい?』
「あ、はい。全然大丈夫ですはい!」
突然のギルド総長からの電話に、俺は自然と背筋が伸びる。
ズク坊とばるたんを一旦、ソファの上に下ろしてから、一人キッチンの方へ。
静かな場所(といっても少しだが)に移動して、ギルド総長から要件を聞いてみると、
「――え? ウチのばるたんですか?」
電話の用件は、まさかの『ばるたんについて』だ。
てっきり『迷宮決壊』とか『門番地獄』とか、そういう厄介事かと思っていたら……。
『そうだ。ズク坊君と同じくマイクロチップは埋めたと聞いたが、やはり『自衛の手段』があるに越した事はないと思ってな』
「たしかにそうですね……。ミミズクほどではないにしろ、喋るザリガニも普通に狙われる危険はありますか」
『ああ。人の言葉を覚えた生物は、それだけで相当に価値が高いからな』
ギルド総長によると、有名になれば狙われる危険はぐっと増すようだ。
例えば我らが兄貴分、白根さんの相棒のハリネズミのクッキー。
彼は白根さんが『単独亜竜撃破者』になった直後、何度か誘拐されそうになった事があったらしい。
それは今も現在進行形で、隙あらば狙う輩もいるとの事だ。
……そして、一方の俺はというと?
世界を驚かせた『門番地獄』に巻き込まれた件で、さらに有名になっている。
自意識過剰でなければ、一般の人でも俺の顔くらいは知っている人は多いだろう。
つまりはズク坊とばるたん、二人の誘拐の危険性が上がったのを意味していた。
ばるたんに関しては自宅警備員だ。
だからまだ、ズク坊ほど世間に存在を認知されていないとしても。
俺が各所で喋ってはいたので(反省)、どこかで聞かれて情報が漏れている可能性は大である。
『だから今回、友葉君に連絡したのさ。これはまだ外に出していない情報で、実は『DRT(迷宮救助部隊)』の訓練中に――』
ギルド総長の口から聞かされたのは、関係者しか知り得ない情報だった。
いわく、
『DRT』の訓練に使っている迷宮の一つで、【スキルボックス】が多数出現している。
出現率は通常時のおよそ『十~十五倍』。
この状況になってまだ三日目で、世界の迷宮の過去の前例から見れば、最低でも『あと四日』は続くと予想されている。
『――場所は『福岡第二の迷宮』だ。東京からは遠いが、ばるたん君の【スキル】を揃えるなら行く価値はあると思ってな』
「なるほどです。ズク坊と違ってばるたんは気配も消せないし、身体能力も低いですからね。【スキル】を得るなら、その『福岡第二の迷宮』が絶好の機会というわけ――って、第二??」
聞き慣れぬワードに、俺はスマホ片手に首を傾げる。
探索者として活動して一年半ほど。
自分の勉強不足もあって、九州の迷宮までは正確に把握していないのが現状だ。
『ここは福岡市内に二つある迷宮のうちの一つだ。日本で唯一、同じ市内に複数あり、距離も近いから『第二』とついているのさ』
無知な俺の疑問に、ギルド総長が丁寧に教えてくれる。
なるほど、勉強になります先生!
こうして情報をくれたのも、『友葉君は探索者としての功績があるからな』との事で……本当にありがたいぞ。
「……うん?」
とまあ、そんな感じでギルド総長と話していたら。
気づけば白熱していたパーティー会議が中断し、いつの間にか皆がキッチンにいる俺の近くで待機しているではないか。
「分かりました。わざわざご連絡ありがとうございます。ぜひ行ってみようと思います」
『おお、そうか。まあ別に強制ではないから、気が向いたら足を運んでみてくれ』
「はい。では失礼いたしますギルド総長」
『うむ、ではまたな。『上野の迷宮』の未踏破区域も含めて、あまり無理はしないようにな友葉君』
そうしてギルド総長との電話を切った俺は、集まっていたズク坊達の顔を見る。
「悪い皆。ちょっとギルド総長から電話があって、予定を変更しようと思うんだけど……」
キッチンに集まった『迷宮サークル』全メンバーに向けて。
申し訳ないと思いつつ、俺はさっきまでのギルド総長との会話を伝える。
四体目の従魔をゲットする件は急ぐ必要はなし。
逆に福岡で起きている【スキルボックス】大量ドロップの方は、一週間は大丈夫なようでも、絶対に保証されているわけではない。
「ホーホゥ。なるほど。そういう事情ならいいんじゃないか?」
「ですねズク坊先輩。ここはばるたんも自衛できる力を得るべきですね」
「私もオッケーだよ。【スキルボックス】が大フィーバー中ならそっちを優先だねっ!」
俺の意見に、ズク坊もすぐるも花蓮も同意してくれた。
そして、残る肝心の一人、いや一匹。
急に主役となった、我が家の自宅警備員さんはというと……。
「……ぐぬぬ、俺自身のための【スキル】か。つう事は……迷宮に潜らねえといけねえってわけだな」
一時的にすぐるの頭に乗っていたばるたんは、自慢の鋏を腕組みのように組んで言う。
本人はあまり乗り気ではないようだ。
探索者の意地悪で『伊豆の迷宮』に放り込まれて以来、迷宮自体が苦手になっているからな。
「ちょうどいい機会だしな。戦闘系にしろ非戦闘系にしろ、ばるたんにも何かしらの【スキル】はほしいと思ってたからな」
悩むばるたんに、俺はその背中を撫でながら諭すように言う。
それでもトラウマはトラウマだ。
相変わらず鋏を組んだままのばるたんに――俺は不敵に笑ってサムズアップ! する。
「まあ心配いらないって。……ふっふっふ。『秘策』もあるし、リーダーの俺に任せておきなさい!」
従魔ゲット、と見せかけてのばるたんです。
どっちを先にやるか迷ったのですが、ばるたん優先という事で。




