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百三十二話 発動する【幸運】

「太郎達が姿を消してから二日目……。くっ、一体どこにいやがるんだァ?」


 白根達一部探索者と、『DRT(迷宮救助部隊)』の大規模な捜索が行われた翌日。


 何の手がかりもない状況に、今日も捜索のため装備を整えていた白根は、少しの焦りを覚えていた。


「まじーな。もしまだ時間的な余裕があったとしても……」

「……チュチュ。こうも手掛かりが掴めないのは……予想外っチュね」


 白根と同じく、草刈とクッキーにも焦りの色があった。


 ズク坊の親友であるクッキーは言わずもがな、草刈も口調だけで、その表情にはいつものダルそうな感じはない。


『七十二時間の壁』。

 災害時に生存率が大きく下がるという、命のボーダーラインとなる時間だ。


 今回は迷宮内と特殊で、どういう状況かも不明なため、一概に適用できるかは分からないが……。


 一向に太郎の重くて響く足音も聞こえてこず、ズク坊の抜けた羽の一枚も見つけられない。

 いくら太郎達が強くても、その手掛かりなしの状況では――焦りを覚えるのも当然だった。


「フン、何と失礼なヤツだ。この僕が直々に探しにきたというのに! ヒントの一つもよこさないとはどういう了見だ!?」


 その中で一人。心配や焦りよりも怒っているヤツがいるが……これはノータッチでいこう。


 とにかく、やる事は変わらないのだ。

 一層から下、つまり迷宮内全てをくまなく捜索するしかない。


 昨日は八層の中間地点(と思われる)場所まで捜索済み。

 であればそれより奥。八層の後半から重点的に調べるというのが捜索隊の中で決まっていた。


「――ではソウさん、シロさん。私達は八層の残りから探しますので、探索者チームは九層からお願いします」

「了解した。んじゃー八層はお嬢達に任せるぜ」

「だなァ。そういう事なら俺達は先を行かせてもらうか」


 何人かいる『DRT』隊長の一人、『魔石眼の公務員』。

 知り合いでもある笹倉からそう言われて、白根達は了承する。


 今日はこの後、部下の訓練を終えた柊やギルド総長の柳も、ここ『郡山の迷宮』に来るらしく、

 今でも十分に大規模な捜索が、さらに大人数で行われる予定となっていた。


 白根達も含め、迷宮業界の大物達が動くほどの緊急事態――。


『ぶった切りの探索者』青芝優太と『迷宮サークル』。

 彼らを失うのは日本迷宮業界にとっては痛すぎるのだ。


「んじゃァ、お喋りはここまでだ。今日も全員、気合いを入れて潜ろうじゃねェか」


 大勢の捜索隊がいる仮設のギルドに、白根の声が響き渡る。


 こうして大規模な捜索隊は、二日連続で『郡山の迷宮』に潜るべくギルドを出発した。


 ◆


 ――ザッザッザッ。


 白根達探索者チーム(小杉いわく『草白杉そうはくさん同盟』)は、幻想的に光る草の絨毯の上を進む。


 一、二、三層と淡々と進み――そして件の四層、彼らにとってはただの『通過する階層』へと入った。


「もう上層ここで見つかる可能性はねえだろーが……。だからって走って進むわけにはいかねーのがつれーぜ」

「まったくもってその通りだなァ。……あとモンスターも地味にウゼェぞ」


 草刈と白根はブツブツと言いながら。

 昨日と同様に王者の行進のごとく、出現するモンスターを捜索の片手間で蹂躙していく。


 空いている片手には迷宮仕様の強力な懐中電灯が。

 それで天井や壁を照らしつつ、刀と剣を振るって進んでいる。


 一方、その少し後ろに続く一人と一匹はというと、


「……本当に出てこないな友葉バタローめ。このままではまさに迷宮入り――迷宮だけにな!」

「チュチュ!? こら小杉! こんな時にふざけた事を言ってるんじゃないっチュ!」


 のん気に腕を頭の後ろに回して言う小杉に、トコトコ歩いていたクッキーが注意する。


 さらにクッキーは、焦りとイライラもあって小杉の足にハリネズミタックルを敢行。

 まるでズク坊とすぐるの関係みたいな鉄拳制裁(?)で、

「あ痛たたた!?」と痛がる小杉に、何度もチクチクと自分の針を刺す。


「おーおー、クッキーが怒ってるところは初めて見たぜ」

「まァ少し気が立つのも分かるが……そこら辺にしとけクッキー。地味に痛ェぞその攻撃は」


 迷宮内でじゃれつく一人と一匹を見て。

 困り顔、というより微笑ましい顔で、草刈と白根は少しだけ笑ってしまう。


 しかし、それも一瞬の事だ。

 太郎達が見つからないという事実は変わらず、またすぐに真剣な、焦りの色が顔に出ていた。


 一体どこにいるんだ? ――皆がそう思っていた時。


『それ』は突然、訪れた。


「――え?」

「――はァ?」


 足元に執拗なチクチク攻撃を受けて、踊るように痛がっていた小杉の体が。

 徐々に壁際に追い詰められたと思いきや、急にフッと『壁の中に消えた』のだ。


 同じく、足元にいたクッキーの姿も。

 そのまま壁に当たるはずが、消失マジックのように揃って姿を消してしまう。


「ちょい待て! 今何がどーなって……!?」

「おいクッキーに坊主……!?」


 直後。草刈も白根も目を見開いて消えた壁の方へ。


 まさかここで第二の行方不明か!?

 強者に似合わぬ大きな焦りから、急いで駆けつけた二人が見たものは――。


 壁に入った見落としがちな亀裂。

 そこにちょうどハマるように倒れ込んだ小杉と、その腹の上にいたクッキーの姿だった。


「ぬおおう?」

「チュ、チュチュ?」


 倒れた方は何が何だか分かっていない。

 だがそれを見ていた白根達の方は、懐中電灯で周囲も奥も照らしていたため――すでにハッキリと理解していた。


『横穴』。

 洞窟型でも亀裂にしては深すぎる、奥へと続く不気味な横穴が存在していたのだ。


「……おい、白根」

「……あァ、だろうな草刈」


 視線を合わせた後、短く言葉を交わす二人。


 白根はクッキーを自分の頭に乗せて、草刈は小杉に手を貸して起こしてやり、状況を理解できていない一人と一匹に横穴それを見せる。


「こ……これは!?」

「チュチュ!? 何で迷宮内にこんな深い穴が……!」


 迷宮の壁も床も天井も、ある一定以上は『絶対に』壊れない。


 探索者なら誰でもその法則を知っているからこそ。

 小杉もクッキーも、自分達が倒れ込んだ横穴の深さを見て驚きを隠せない。


「こりゃー参った。甚だ予想外だが、でかしたぜクッキーに坊主!」

「迷宮内でじゃれてみるもんだなァ。まさかこんな形で活路が開くとは……!」

「チュチュ。何かよく分からないけど……オイラ達が役立ったみたいっチュね小杉!」

「と、当然だな! 何せ僕には【幸運(吉)】がついているのだから!」


 皆の声に、肩をポンポンと叩かれながら胸を張って答える小杉。


 ……本人の言う通り、【スキル:幸運】が発動したのは間違いない。

 やはり宿命なのだろうか? 行方不明の原因を発見したのは、皮肉にも(?)太郎の『宿命のライバル(自称)』だった。


 ――とはいえ、だ。

 まだ安否の確認もできていなければ、その姿さえ視界に収められていない。


 逸る気持ちを抑えながら、クッキーを乗せた白根が先頭で中へ。

 続いて草刈、小杉と一列に並んで、細くも深い横穴へと入っていく。


「……やはりビンゴだ。太郎の大型モンスターみてェな沈んだ足跡が残ってるな」


 光る草の絨毯が途切れ、太郎の足跡が刻まれた暗い道を進む一行。


 二分ほど懐中電灯の明かりを頼りに進んでいけば――目の前には探索者なら見覚えのあるものが見えてきた。


「何かと思えば……ボス部屋の扉じゃねェか」

「だっチュね。でも玄、これは……?」


 横穴の先に現れた、幾何学模様が刻まれた精巧な扉を見て。

 先頭の白根が押しても引いても開かない状況に、クッキーは小首を傾げてしまう。


「開かねーのか白根? となると……」

「ふむ、まだ『戦闘中』なのか。だがしかし……だとすると友葉バタローからの震動と足音が全く聞こえないぞ?」


 扉一枚隔てていても、体重が数十トンにも及ぶ太郎が動いて音がしないはずがない。


 にもかかわらず、不思議な横穴にあるのは暗闇の静寂。

 開かない=戦闘中というのは常識なので、白根達はまた新たな謎を受けて眉をひそめる。


 そして、よく五感を研ぎ澄ませてみれば――。


 扉の奥からは、何やら凄まじい『存在感』が溢れ出てきているのが分かった。


「まるで見当がつかねェな。だが足跡もあるし、確実に太郎達はこの中にいるな」

「てっきり転移陣か、落とし穴系の罠じゃねーかと思ってたが……。実際はもっとシンプルだったっつーわけか。……よし、ちょっと待て」


 言って、草刈は世界一の名刀とも呼べる、自慢の『精竜刀』で一刀両断――はしない。


 たとえ『億越え装備』だとしても。

 亜竜の素材を使った最高級の強力な装備でも、迷宮自体(この場合は扉)を決して破壊できないのだ。


 だから草刈が手にしたのは、首から提げていた『笛』だった。


 ただし普通の笛ではない。

 迷宮産の素材から造られた特別製で、うるさくないのに極めてよく響く、物理法則を無視したような笛である。


『DRT』から渡されていたそれを、草刈は勢いよく息を吸って――そして吹く。


 ピィーヒョロロォオオオーーーン。


 普通に一息吹いただけなのに、独特なメロディの音が響き渡る。

 生み出された音は横穴を抜けて四層の通路に入り、曲がりくねった道を抜けて、四層の上下一層まで届いていく。


 この笛を鳴らすと決められた状況シチュエーションは、次のいずれかのみ。


『捜索対象の発見』。

『行方不明の原因と思われる罠の発見』。


 今回は後者の意味で草刈は笛を鳴らした。

 なぜならまだ太郎達の姿は確認しておらず、何より自分達では『どうにもできない』からだ。


 ――ボス部屋(正確には門番地獄)は入った者が勝つか負けるかまで開かない。


 草刈と同じく、その状況をすぐに理解していた白根は。

 ようやく手掛かりを見つけた事で、今までに比べれば安堵の表情を浮かべつつも……重苦しく口を開く。


「くそっ、せっかく見つけたってェのに……。部外者は手出し無用ってわけか!」

捜索隊、ようやく横穴を発見です。


そしてすいません。去年もあったのですが、また更新が2、3週間ほど止まると思われます(orz)。

詳しくは活動報告に書いております。


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