百三十話 二日目終了
「いくら迷宮内っつっても――今は平成だバカタレッ!」
追加で行った本日五回目の戦闘。
合計八体目となる『ダンジョンレックス』戦は、ついに佳境を迎えていた。
――グ、ガ、ギ、ャアアアア!
恐竜、というより壊れた機械音みたいな音が響く。
『門番』は本来、普通のモンスターと違って声は出さないのだが……。
ダンジョンレックスは明確な咆哮を上げて、代名詞とも言える『音の衝撃波』を放ってきた。
「ッ!」
すでに両足が破壊されてなお、コレがあるから厄介だぞ。
チャンスに顔面への攻撃を集中させようとしたところで。
エグイ岩製の牙が生え揃った大口を開けて、二秒とない溜め時間でやり返してきた。
威力は言わずもがな相当なものだ。
だいぶ昔に【スキル持ち】のオーガ(ボス)も似た技を使ってきたが、それとは歴然の差があった。
……まあ、俺に関しては問題ないけどな。
大音響で耳触りな咆哮に顔をしかめつつも、部屋全体に行き渡る『拡散型』の衝撃波を耐え切り――隣と後ろをチラッと見る。
「破ァッ……!」
叫びと共に、青芝さんは包丁で衝撃波を斬り飛ばしたらしい。
どうも【○○剣術】という名前の【スキル】は、高い熟練度だとこういう目に見えない攻撃も普通に斬れるようだ。
まさに剣(包丁)の達人。こっちは一ミリの心配もいらないか。
『ポニョーン』
一方、スラポンに守られた後衛組も無事。
まだ開いていない扉を背に、青いスライム状の体に包まれてやり過ごしている。
さすがはスラポン、柔らかくてぶ厚い盾は本当に頼りになるぞ。
「今のでダメージを受けたのは……空中のガルポンのみか」
『小竜巻』で相殺しきれず受けてしまったらしい。
崩れた体勢を立て直そうと、大きな翼を忙しなく動かしていた。
ただ、すぐにフェリポンの【精霊の治癒】が発動。
優しい桃色の霧に包まれて、体力は無事に回復中だ。
逆に攻撃した側、ダンジョンレックスはと言うと、
咆哮の後の硬直に加えて、すでに両足以外もズタボロの状態である。
体力ゲージが見えるとしたら、もう真っ赤で点滅している頃合いだろう。
「ホーホゥ! 相手は虫の息だ、やったれバタロー!」
「おうよっ!」
――そこへ俺からトドメの一撃を。
ダンジョンアスラみたいに精巧な造りの恐竜は、『闘牛七十四頭』が一点に集中したタックルを下顎に受けて爆散。
そこからボロボロと決壊するように。
まるで解体現場みたいな様相で、首から上が岩の残骸となって一気に崩れ落ちていく。
「アシュラに翼に氷にゴムに恐竜に……。地獄二日目、これにて終了!」
三度目の【過剰燃焼】を発動したばかりで撃破して。
自分の増した力を実感しながら、俺はズズゥン! と岩の残骸に着地。
推定『五十九・二トン』の重みで踏み砕き、光る草の絨毯の上にゆっくりと降り立つ。
「ははは、いつ見てもスゴイ重さですね……。もしかして友葉君、また二牛力分増えましたか?」
と、ここで。
包丁を鞘に戻して眼鏡をクイっと直した青芝さんが、舞い上がる土煙の中、俺を見て苦笑いしながら言う。
「ええ、『三十九牛力』になってますね。横穴に入る前と比べたら、ちょうど十牛力も上がってますよ……ははは」
対して、俺もあまりの成長ぶりに苦笑いしてしまう。
『門番』はどの個体も、例外なく莫大な経験値だった。
今はまだ【過剰燃焼】が切れていないので、倍の『七十八牛力』という状況になっている。
そうやって脳内で【モーモーパワー】を確認し、兜を脱いで一息ついていたら。
ヒュン、と舞い上がった土埃を切り裂くように白い塊が飛来。
ファバサァ、と柔らかい翼が頬を撫でて、鎧の左肩にズク坊が止まってきた。
「さあ休むぞバタローに優太。ホーホゥ。最終日の明日に備えないとな」
「ん、だな」
「ええ、そうですね」
戦いが終わったら休む。これ門番地獄では鉄則!
撃破により開いた扉の通路に入った花蓮が、夕食の準備(といってもマジックバッグから取り出すだけ)を始めている。
一方、俺と青芝さん、あと合流したすぐるの三人は、ダンジョンレックスの魔石と岩の体を一部回収だ。
そろそろ俺達のマジックバッグ(容量は四畳半一部屋分)は限界が近い。
だから青芝さんが持っている、特大容量(二十五メートルプール一杯分)の方に収納していく。
「……よし、とりあえずこんなものですね」
青芝さんの号令で、回収を終えた俺達は花蓮のもとへ。
皆でしっかり二日目の夕食を取って、寝袋……はないから、各自マジックバッグを枕にして寝るだけだ。
結局、この日は精神的な疲労もあったからだろう。
夕食を食べた後に談笑するも眠気に襲われて、全員が迷宮内とは思えないほど爆睡するのだった。
◆
――斬れ味鋭い静かなる斬撃音と、身の毛もよだつ電撃音が迷宮内に反響する。
たまにプシュー! という気の抜けるような音も聞こえ、『郡山の迷宮』に死屍累々が築かれていた。
……が、しかし。
「うーむ、全然いねーぜ……」
「参ったなァ。そう簡単に見つかるとは思ってねェが……こりゃもっと下層に飛ばされたか?」
「……まったく、どこまでも迷惑をかけるヤツだ友葉バタローめ!」
手掛かりの一つもなく、探索者チームはすでに六層を過ぎて『七層』に。
ここから調査が済んでおらずマップもない階層だ。
そこをじっくりゆっくり見落としに気をつけて進むも――現状はただモンスターを蹂躙しているだけ。
「チュ、チュチュう……」
白根達人間組の後ろを歩くクッキーの顔が、時間が経つにつれて暗くなる。
自慢の針も怒られた犬の尻尾みたいに、力なくダランと垂れている感じだ。
……それも仕方ないか。
何だかんだでズク坊達は無事だろうと思っていたのに、こうも見つからないのだから。
自分達だけならまだしも、大勢の『DRT』も今日の昼から探している。
笹倉率いる一部の部隊も、七層に入って別ルートを進んでいるが……。
こっち側からも向こう側からも、発見を知らせる『笛』はまだ聞こえてきていない。
「こりゃー本格的にマズイか? 『DRT』も含めてこれだけ探していねーとなると……」
「よせ草刈、まだ悪い方に考えるんじゃねェ。消えてからたった一日だ。平然と生き残ってる可能性は十分にあらァ」
草刈を制し、重い空気を振り払う白根。
たしかにそうだ、と皆も納得して、おそらくは『転移系』の罠にかかり、思った以上に下層に飛ばされたと予想する。
「おーい! いい加減に姿を見せろお前らー!」
「どこだァ!? どうせ生きてるんだろ返事をするんだ!」
「ズク坊達! 探しに来たから早く出てくるっチュよ!」
「『宿命のライバル』たるこの僕のお出ましだ! さあ出迎えろ友葉バタロー!」
と、そんな感じで声を張り上げて探し進むも……。
反応して迷宮の奥から現れるのは、七層モンスターの『ミストシープ』のみ。
どこか存在感が薄くても、闘牛並の巨体を誇る羊型モンスターだ。
有する能力は体を一瞬、霧に変えて相手の攻撃を『すり抜ける』というもの。
渦状にくるくると巻いて、先端が突き出た角だけが霧化せず、一方的に攻撃を加えるという嫌らしい相手である。
そいつらが計五体。
単体でもお呼びでないのに、一致団結して集団で襲いかかってきていた。
……とはいえ、相手が悪すぎる。
それこそ百体揃えたところで、天地が引っくり返ってもどうにもならないほどに。
草刈の『精竜刀』に霧化したまま一刀両断され、
白根の【万毒ノ牙】を纏った『オリハルコンのレイピア』で一突き、霧状でも効く『魔毒』を喰らって死に至る。
「邪魔だっつーの。探してるのはお前らじゃねーぜ」
「そういう事だ。悪ィな。俺達ァ羊じゃなくて『牛』に用があるんだよ」
後ろには【トルネード砲】のクッキーも控えて(あと一応、小杉も含む)、戦力的には過剰も過剰。
そんな彼らに必要なものは?
これ以上の戦力ではなく、帰りに四層で横穴を見つけられるかどうかの『運』だけだ。
――しかし、残念無念。
重要な運には恵まれず、頼み(?)の小杉の【幸運(吉)】も今回は効果を発揮せずに……。
くまなく七層も捜索し、『DRT』も含めて八層の三分の一まで探したところでUターン。
帰りに横穴を見落として――捜索二日目を終えるのだった。
あれ? 主人公達のマジックバッグの容量、どんな感じだったっけ……(汗)?
おそらく描写してませんが、とりあえず新しいものに買い換えていた、という事で一つ(orz)。




