表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
137/233

閑話七 留守番・延長戦

門番地獄が半分終わったので……一方その頃、留守番している人の話です(筆休め?)。

「ったく、バタローもズク坊も仕方ねえな……」


 太郎達が迷宮の罠にかかり、他の仲間達が捜索のため動き出した頃。


 自宅警備員のばるたんは台所で日課の水浴びを行った後、鋏をカチカチしてため息をついていた。


「日帰りっつったのに帰ってこねえとは……。やれやれ、大方すぐるが飲み過ぎて潰れたか、バタローが美人局に引っ掛かった感じだろうな」


 真実は全く違うが、きっとそうだろうと一人納得するばるたん。

 そろそろお腹が減ったので、遅めの昼食を取ろうとして……困ってしまう。


「……俺は料理できねえからな。用意してもらってた昨日の昼と晩の弁当(幕の内&牛カルビ)は食っちまったぞ……」


 さてどうしようか?

 ばるたんは腕組みをするように、鋏を交差して知識が詰まった頭で考える。


 家に固定電話はないから出前は無理。

 上の階に住む猿吉を呼ぼうにもこれまた手段がなく、そもそも時間帯的に家にいるかも分からない。


 ……パソコンなら色々と注文できるだろう。

 しかし、ばるたんは『タイピング』だけはどうにも苦手なのだ。


 器用に新聞をめくったり、将棋や囲碁の駒や石を挟める一方、本当にタイピング(あと矢印の移動も)は上手くできた試しがなかった。


「はあ……仕方ねえな。朝と同じで菓子で済ますか。メシが菓子とかどこの不健康な若造だよ……」


 そうブツブツと言いつつも。

ばるたんも別に嫌いではないので、すきっ腹に菓子を入れる事に。


 冷蔵庫横のポテチBOX、は朝食べたのでスル―。

 今回は棚の引き出しの中にある、最近新設された『チョコバスケット』を漁りだす。


「チョコなら当然、高カカオのビターなやつだな。バタローもズク坊も普通の甘いミルクチョコがいいと言うが……これは体にもいいからな」


 自慢の鋏でがっしりと挟み、そのままリビングへ。

 テーブルの上によじ登って、つけっぱなしのテレビを見ながらお昼にする。


「……へえ、また上がりやがったのか。仮想通貨ってのは面白えな。……まあ皆が皆、揃って稼げるわけでもねえだろうに」


 お決まりのニュース番組で情報を収集しながら、チョコをパリッといくばるたん。


 きちんとこぼれてもいいように、ティッシュ一枚を敷いて食べるザリガニの姿は……相当にシュールな光景である。


 ◆


「――さて、まあ腹ごしらえはこれでよしとするか」


 チョコの昼食を終えたばるたんは、床の上でペラペラと本をめくる。


 読み始めたのは『モンスター大図鑑』だ。

 囲碁や将棋の本や新聞もある中、それらは全て読み終えていたので――ばるたんの無限の知識欲は、嫌いで潜らない迷宮にまで向いていた。


「今日は『門番(ゲートキーパー)』でも見るか。……何々、『門番(ゲートキーパー)』とはボス部屋を守る存在で、竜種に次いで謎が多く、その強大さもまた竜種に次ぐ……と」


 おいおい、とんでもねえ野郎だな! と、ばるたんは目を見開く。


 現在は八体まで確認されているらしい。

 そんな色々とある情報の中で、ばるたんが特に気になったのは、『例外なく全て大きなサイズ』という点だ。


「やっぱりサイズは重要だな。結局、俺はロブスターには届かねえみたいだし……。ま、ザリガニ界で最大最強! って事で納得しといてやるか」


 そうしてばるたんは、そっと本を閉じるとリビングから寝室へ。


 いつも太郎とズク坊と一緒に寝ているベッドで昼寝……はしない。

 そこはやはり知識欲旺盛なばるたん。ふかふかベッドには目もくれず、近くの本棚からハードカバーの『とある本』を引きずりだした。


「お、あったあった。前から興味はあったからな。これがバタローの『卒業アルバム』ってやつか!」


 器用に鋏でページをめくり、人間の顔だらけの卒業アルバムを読み進める。

 すると、すぐに相棒の一人である太郎の顔を発見した。


「ここにいたか。あんまり今と変わらねえな。……ちょっと眉毛が太いくらいか?」


 ただの興味本位で見てみたが、思いのほか楽しくなったばるたんは鋏をカチカチと鳴らす。


 クラスの集合写真も見て、何で端っこで斜に構えてそっぽ向いているんだ? と思いつつも……太郎のカッコつけの黒歴史には気づかない。


「――お、何だ。すぐるもいるじゃねえか」


 アルバムの後ろの方、各部活ごとの写真があるページで、何とすぐるの姿も発見した。


 そういや同じ高校の後輩だったな、と一度聞いていた話を思い出すも……またばるたんは気づかない。


『クイズ研究部』。

 陰で同級生から変人扱いされていた、太郎最大の黒歴史だという事に。


「顔を見るだけで伝わってくるな。まさに十人十色、これだけの人数がいて一人として同じ人間はいねえってか」


 ふむふむとうなずき、ばるたんは満足気に卒業アルバムを閉じる。


 ――その後、卒業アルバムをきちんと戻したばるたんは再びリビングへ。

 もう一回、台所で水浴び(蛇口はシャワータイプ派)でもするか……と思っていたら、


『ピンポーン』。

 玄関のドアホンが鳴り、すぐさま反応したばるたんはそっちの方へ。


 太郎達ならわざわざ鳴らさないので、おそらく宅急便だろう。

 そう予想したばるたんは、テレビモニター付ドアホンの真下にある、カラーボックスを慣れた感じでよじ登る。


 そして、鋏でポチッと応答ボタンを押してから――。


「おう待たせたな。誰だ? 俺は自宅警備員のばるたんだ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ