閑話七 留守番・延長戦
門番地獄が半分終わったので……一方その頃、留守番している人の話です(筆休め?)。
「ったく、バタローもズク坊も仕方ねえな……」
太郎達が迷宮の罠にかかり、他の仲間達が捜索のため動き出した頃。
自宅警備員のばるたんは台所で日課の水浴びを行った後、鋏をカチカチしてため息をついていた。
「日帰りっつったのに帰ってこねえとは……。やれやれ、大方すぐるが飲み過ぎて潰れたか、バタローが美人局に引っ掛かった感じだろうな」
真実は全く違うが、きっとそうだろうと一人納得するばるたん。
そろそろお腹が減ったので、遅めの昼食を取ろうとして……困ってしまう。
「……俺は料理できねえからな。用意してもらってた昨日の昼と晩の弁当(幕の内&牛カルビ)は食っちまったぞ……」
さてどうしようか?
ばるたんは腕組みをするように、鋏を交差して知識が詰まった頭で考える。
家に固定電話はないから出前は無理。
上の階に住む猿吉を呼ぼうにもこれまた手段がなく、そもそも時間帯的に家にいるかも分からない。
……パソコンなら色々と注文できるだろう。
しかし、ばるたんは『タイピング』だけはどうにも苦手なのだ。
器用に新聞をめくったり、将棋や囲碁の駒や石を挟める一方、本当にタイピング(あと矢印の移動も)は上手くできた試しがなかった。
「はあ……仕方ねえな。朝と同じで菓子で済ますか。メシが菓子とかどこの不健康な若造だよ……」
そうブツブツと言いつつも。
ばるたんも別に嫌いではないので、すきっ腹に菓子を入れる事に。
冷蔵庫横のポテチBOX、は朝食べたのでスル―。
今回は棚の引き出しの中にある、最近新設された『チョコバスケット』を漁りだす。
「チョコなら当然、高カカオのビターなやつだな。バタローもズク坊も普通の甘いミルクチョコがいいと言うが……これは体にもいいからな」
自慢の鋏でがっしりと挟み、そのままリビングへ。
テーブルの上によじ登って、つけっぱなしのテレビを見ながらお昼にする。
「……へえ、また上がりやがったのか。仮想通貨ってのは面白えな。……まあ皆が皆、揃って稼げるわけでもねえだろうに」
お決まりのニュース番組で情報を収集しながら、チョコをパリッといくばるたん。
きちんとこぼれてもいいように、ティッシュ一枚を敷いて食べるザリガニの姿は……相当にシュールな光景である。
◆
「――さて、まあ腹ごしらえはこれでよしとするか」
チョコの昼食を終えたばるたんは、床の上でペラペラと本をめくる。
読み始めたのは『モンスター大図鑑』だ。
囲碁や将棋の本や新聞もある中、それらは全て読み終えていたので――ばるたんの無限の知識欲は、嫌いで潜らない迷宮にまで向いていた。
「今日は『門番』でも見るか。……何々、『門番』とはボス部屋を守る存在で、竜種に次いで謎が多く、その強大さもまた竜種に次ぐ……と」
おいおい、とんでもねえ野郎だな! と、ばるたんは目を見開く。
現在は八体まで確認されているらしい。
そんな色々とある情報の中で、ばるたんが特に気になったのは、『例外なく全て大きなサイズ』という点だ。
「やっぱりサイズは重要だな。結局、俺はロブスターには届かねえみたいだし……。ま、ザリガニ界で最大最強! って事で納得しといてやるか」
そうしてばるたんは、そっと本を閉じるとリビングから寝室へ。
いつも太郎とズク坊と一緒に寝ているベッドで昼寝……はしない。
そこはやはり知識欲旺盛なばるたん。ふかふかベッドには目もくれず、近くの本棚からハードカバーの『とある本』を引きずりだした。
「お、あったあった。前から興味はあったからな。これがバタローの『卒業アルバム』ってやつか!」
器用に鋏でページをめくり、人間の顔だらけの卒業アルバムを読み進める。
すると、すぐに相棒の一人である太郎の顔を発見した。
「ここにいたか。あんまり今と変わらねえな。……ちょっと眉毛が太いくらいか?」
ただの興味本位で見てみたが、思いのほか楽しくなったばるたんは鋏をカチカチと鳴らす。
クラスの集合写真も見て、何で端っこで斜に構えてそっぽ向いているんだ? と思いつつも……太郎のカッコつけの黒歴史には気づかない。
「――お、何だ。すぐるもいるじゃねえか」
アルバムの後ろの方、各部活ごとの写真があるページで、何とすぐるの姿も発見した。
そういや同じ高校の後輩だったな、と一度聞いていた話を思い出すも……またばるたんは気づかない。
『クイズ研究部』。
陰で同級生から変人扱いされていた、太郎最大の黒歴史だという事に。
「顔を見るだけで伝わってくるな。まさに十人十色、これだけの人数がいて一人として同じ人間はいねえってか」
ふむふむとうなずき、ばるたんは満足気に卒業アルバムを閉じる。
――その後、卒業アルバムをきちんと戻したばるたんは再びリビングへ。
もう一回、台所で水浴び(蛇口はシャワータイプ派)でもするか……と思っていたら、
『ピンポーン』。
玄関のドアホンが鳴り、すぐさま反応したばるたんはそっちの方へ。
太郎達ならわざわざ鳴らさないので、おそらく宅急便だろう。
そう予想したばるたんは、テレビモニター付ドアホンの真下にある、カラーボックスを慣れた感じでよじ登る。
そして、鋏でポチッと応答ボタンを押してから――。
「おう待たせたな。誰だ? 俺は自宅警備員のばるたんだ!」




