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百十話 現実世界とゲームの世界

「――では失礼します。次からよろしくお願いします」

「はいはい、よろしくね。皆に上野の最先行パーティーの力を見せてあげてくれ!」


 休日となる日曜日。

 俺はすぐると花蓮と共に、とある場所に足を運んでいた。


 位置的にはホームである『上野の迷宮』の近く。

 探索者ギルドからなら徒歩一分ちょっとで着くそこは――『格闘技ジム』だ。


 なぜ皆揃ってそんな場所に来たのか? というと。

 実は俺が金沢での葵さんとの経験(ボコボコにされたのは伏せておく)を話したら、


「僕もやります!」「私もやっちゃうよー!」と、俺にならって格闘技を学ぶ決意をしていたのだ。


 いや別に後衛職だからいらないだろ……とは言えないぞ。


 力と連携が増した俺とスラポンの前線二枚。

 それが崩れるというもしもの時に備えて、ある程度の近接戦闘ができた方が心強いからな。


 花蓮には百八個のライフポイントがあり、すぐるも火ダルマな防御があっても、

 格闘技のレベルは前の俺と同等以下、素人に毛が生えた程度だった。


 ――と、いうわけで。


 どこかいいところはないですか? と探索者ギルドに相談してみたところ、

 近くの探索者専用の格闘技ジムを紹介してもらったのだ。


 あ、ちなみにジムは立ち技専門、いわゆるキックボクシングである。

 平日も休日も多くの探索者が集まり、汗を流して切磋琢磨しているが……。


 俺達『迷宮サークル』は土日は休み。

 鍛える必要はあっても、ここだけは絶対に譲れないからな。


 だから予定では平日の週二、三回、迷宮に潜る前にやるつもりだ。

 サボると葵さんに怒られそうだから……とりあえずこれくらいで。


 まあ、それ以外にも上野をホームにする探索者が多くいるからな。


 普段は迷宮内でもギルド内でも、すれ違う時に軽くあいさつするだけ。

 だからこれからジムに通えば、自然と交流も増えるだろう。


 俺達三人はササッと見学と入会を済ませると、若くて優しそうな会長さんに見送られて格闘技ジムを後にする。


「んじゃウチに帰るか。すぐると花蓮はどうする?」

「今日はちょっと用があるのでやめておきます。メイドカ――じゃなくて『趣味』の時間に当てようかと」

「うむ。メイドカ――じゃなくて『趣味』は大事だからな。……花蓮はどうする?」

「私も今日は帰るよ。ここ一週間は宇和島に行ってたから、モリモリ家族サービスしないとね」

「了解。じゃあ今日はこれで解散だ。二人共また明日なー」

「それではです先輩」

「ばいばいバタローにすぐポン!」


 いつもの挨拶で別れて、俺は一人帰路につく。


 その途中、そういやポテチBOXのポテチが減ってたなー、と思い出したので、

 コンビニに寄ってポテチ全種類と、牛乳&バナナを買っておいた。


「――ただいまー」


 家に着き玄関のドアを開けて、留守番していたズク坊とばるたんに声をかける。


 すると、リビングの方から「ホーホゥ」と。

 ばるたんを爪でがっしり掴んだ状態で、ズク坊が飛んでくる姿が見えてきた。


 そのままばるたんを俺の頭の上に静かに乗せて……ズク坊はズク坊で右肩の上に着地してくる。


「ホーホゥ。ジムはどうだったバタロー?」

「ん、かなりデカくて立派だったぞ。人も多くて賑わってたな……ほぼ男だけど」

「へえ、そりゃ面白そうじゃねえか。――ちっ、やっぱり俺も連れてってもらうべきだったか」

「また今度な。とりあえずメシにしようメシに」

「ホーホゥ!」

「だな!」


 俺はズク坊の額とばるたんの背中をひと撫でする。

 そして、リビングからキッチンに入り、冷蔵庫横のポテチBOXに大量のポテチをブチ込んでから。


 いざ俺を含めた野郎共の腹を満たすべく、『解凍』という名の男の料理(?)に取りかかる!



 ◆



「……ごっくん、」


 俺はパソコンを前に、激しく喉を鳴らして唾を飲み込んだ。

 ソファから下りてカーペットの上に正座して、テーブル上のパソコン画面に見入る。


 ……別にお気に入りのエロサイトを見ているわけじゃないぞ?


 むしろ逆……いや逆って言うのも変か。

 俺が開いて見ているのは、『とあるゲーム』のトップ画面だ。


『ダンジョン=コア~神々の箱庭~』。


 今や超有名、二年連続で何ちゃらゲーム大賞を受賞したオンラインゲームだ。

 もう三年目となる大人気ゲームで、俺も遅れて参戦してそろそろ一年になる。


 そんなゲームのトップ画面を見て、なぜ姿勢を正して緊張しているのかと言うと――。


「おおおっ!」

「ホーホゥ!」

「こりゃ驚いた!」


 右肩と頭の上の紅白コンビと一緒に、俺はトップ画面にある『アップデート』と書かれた場所をクリック。

 そうして画面に映った『それ』を見て、俺達はちょっとした歓声を上げた。


 ドン! と目に飛び込んできたのは――どこか見覚えのある戦士のグラフィックだ。


 西洋の騎士を思わせるような形の黒のフルプレートメイル。

 武器は持っておらず丸腰の状態で、足元を見てみれば、地面のグラフィックには『ヒビ』が入っている。


 コイツは新たに追加されたキャラクターだ。

 名前はプレイヤーが入手してからつけるため決まっていないが、設定された職業は『闘牛重戦士』。


 鎧でガチガチに固めた、重くてパワフルで超前衛タイプの新キャラだった。


 ――そう、何を隠そうコイツのモデルは俺である。

 所有スキルの【ブルパワー】というのを見ても、完全に俺である。


「二次元の世界にバタローがいるのは不思議な感覚だぞホーホゥ!」

「だな。鎧の色とか、兜の奥で光る赤い目とか細かい点は違えが……ほぼバタローだな!」


 追加された新キャラを確認して、ズク坊とばるたんがテンション高く言う。


 そのズク坊……とばるたんにもこの前教えたが、

 実はこのゲーム、初期に選べるオリジナルを除くと、追加されるキャラは『実際の探索者』がモデルとなっているのだ。


 ……正直、探索者にとっての『ステータス』でもある。


 探索者の『格』で言うと、ある程度実力のある者がまず『特定探索者』となり、

 さらに活躍すると『異名』がつくという決まり? みたいなものがあるが……。


 そのさらに上。この超有名大人気ゲームに登場させてもらうというのが、何よりのステータスとなっている。


 つまりは人気・実力共にトップクラス――。そう判断された探索者だけが出ているというわけだ。


「何か嬉しくもあり恥ずかしくもあるな……。まあ自慢の一つにはなるけども」


 俺は俺で、自覚できるほどに頬が緩みっぱなしである。

 ゲーム好きな自分が、実際に楽しんでいるゲームの世界に採用されるとか、かなり嬉しい出来事だぞ。


『登場させてもよろしいでしょうか?』

 ゲーム会社から探索者ギルド経由で、そう許可を求められた時は……もちろん即行でオーケーしましたとも!


 これで白根さん達『単独亜竜撃破者』をはじめ、すでに出ている緑子さんや葵さん達にも仲間入りだ。

 俺はいつも以上にやる気満々で、コンティニュー画面から早速、ゲームを開始する。


「……さて、上手い事当たってくれるかね……?」


 コツコツ課金して溜めていたアイテムを使い、いざ自分を当てるために投入。

 慎重に(意味はないが)ガチャを回していくと、案の定一回目は外れてしまうも――。


「「「――おおッ!」」」


 まさかの『三回目』で大当たり。

 普通なら十回以上回しても当たるかどうかなのに……これも運命ってやつなのだろう!


 その結果を受けて、俺もズク坊もばるたんも鼻息荒く新キャラを見る。

 さすがは俺。レベル1時点でもHP・攻撃力・防御力が高く、素早さや回避の低さを補って余りある強さだぞ。


 だから俺は意気揚々とキャラ変更をした。

 愛用している魔法剣士から変えて、キャラ名はまんま本名の友葉太郎とする。


 よし、これで準備万端だ!

 俺は普通のレベル1キャラでは進むのが難しい、『火炎の迷宮』を選んで潜り始めた。


 ……が、しかし。

 俺はこの時、自分が登場した&引き当てた喜びで完全に見落としていた。


 所有スキルの【ブルパワー】。これに存在する、食問題ならぬ『過重体重』という設定(弱点)を。


 その結果――。


「ぎゃああああ!?」

「ホ、ホーホゥウウ!?」

「バタローが! バタローがぁああ!?」


 ステータスの数値以上の動きの遅さ、並びに絶望的な回避性能。

 おまけに焼き肉仕様(?)なのか、かなり火属性にも弱くて……。


 火炎系モンスターの群れ相手に燃える『闘牛重戦士』。

 ガチガチ鎧な友葉太郎さんが、あっという間に敵に囲まれて燃やされていく。


 いくら頑丈と言っても……こうなってしまうとどうしようもない。

 もはやすぐるの『火ダルマモード』並に燃え上がり、むなしく重すぎる足音が響くだけ。


 ……まさに集団リンチである。

 成す術なくこっちのHPゲージだけが減っていき、画面がほとんど真っ赤になってしまった。


 その十秒後。

 ゲームオーバーのおどろおどろしい音と共に――俺の絶叫がリビングに響く。


「いや動きノロすぎるだろこれッ!? いくら何でも使いづらすぎるぞ俺ェエエ!」

迷宮があるならこういうゲームもあるかな? なんて。


あとすいません。ここのところ微妙に筆が進まずに、3日での更新ができなくなっています(軽めの文章なのに……)。

投稿ペースを3~5日と書いていますが、ほぼ4~5日になると思われます。

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