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閑話六 ばるたんと猿吉の試食会

「お、こりゃ立派だな。形も色もよさそうじゃねえか!」


 太郎達が各地で奮闘していた頃。

 自宅警備員に任命されたばるたんは、一人で自宅――ではなく『別の場所』にいた。


「へへ、そうだっぺ? オラもこれを楽しみにしてたんだなあ」


 ばるたんの声に答えたのは、太郎達の飲み仲間であり、同じ探索者の種田猿吉だ。


 七階にある太郎の部屋のちょうど一つ上の階。

 同じメゾネットタイプのおしゃれなマンションの部屋に、喋るザリガニことばるたんを招待していた。


 そんな彼、太郎が唯一心を許した超イケメンの猿吉と、お邪魔しているばるたんの前には、開け放たれた『段ボール』が。


 中身は猿吉の実家から届いた野菜と果物だ。

 よく育って瑞々しそうな彩り豊かな作物(ネギ、ゴボウ、ニンジン、白菜、柿)が、新聞に包まれてぎっしりと入っている。


「おい猿吉。野菜は栄養が豊富だと聞いてるぞ。俺がロブスターサイズに成長するためにも……食っていいか?」

「もちろんいいど。新鮮だから何でも大丈夫だけど、どうやって食いたいけ?」


 ばるたんの声に、猿吉はイケメンなスマイルを浮かべて腕まくりをする。


「やっぱりまずは『生』だな。野菜そのものの味を味わうべきだと思うんだが」

「おおっ? これは驚いたっぺ。ばるたんはよぐ分かってるんだなあ」

「フッ、まあな。野菜は近頃高くなってるらしいし、何より自然の恵みなんだからその味を楽しまねえとな!」


 と、自慢げに仕入れた知識を披露するばるたん。


 そんなグルメでもあるばるたんの提案もあり、二人はまず生の野菜を食べる事に。

 猿吉は生でも食べられるネギ……はちょっと辛いので、

 ずっしりと身が詰まった白菜を取り出して、キッチンに向かうと葉を水でササッと洗う。


「……むむぅ」


 その作業を後ろから、正確には足元で見ていて。

 はやる気持ちを抑えきれなくなったばるたんは、猿吉の足から頭のてっぺんによじ登って待つ。


 ……ところで、なぜ猿吉の家に自宅警備員を放り出してばるたんがお邪魔しているのか? と言うと。


 実は太郎が、ずっと一人じゃ可哀そうだと思って猿吉に電話。

『ちょっと様子を見てほしい』と頼んで(生存確認ともいう)、ポストに入れていた鍵で会いに行ってもらったのだ。


 ――そして、会ってすぐに意気投合。


 特に猿吉の方は田舎育ちでザリガニに対して苦手意識がないため、快く引き受けたところ、

 思った以上に話も合ったので、じゃあウチに遊びに来るけ? と招待したというわけだった。


「ほら、ばるたん。洗ったから食ってみろー」

「おう悪いな。……むしゃむしゃ。――おっ、水っぽくて味がないかと思いきや、ほんのり甘みがあるじゃねえか!」

「むむ、味もよぐ分かるとは……。やっぱりばるたんはただのザリガニじゃないんだなあ」


 ばるたんの舌(?)に感心しつつ、猿吉もムシャムシャと両親が育てた白菜を試食する。


 肉厚の葉を奥歯で噛むと、たしかにほんのりとした野菜の甘みが口の中に広がっていく。


「うん、今年もよぐできてるんだなあ。これはうちで食べるために作ったやつだけど、十分に農協さんに出せるレベルだべ」

「……ほほう、なるほどな。農家ってのは自分達で食う分だけのものを作る事もあるのか」


 猿吉の言葉を聞き逃さず、また一つ人間(正確には農家だが)について勉強したばるたん。


 ……だが、この程度でばるたんは満足しない。


 赤きザリガニの知識欲は、同じ喋る動物のズク坊やクッキーの比にあらず。

 それこそアニメだろうが何だろうが、覚える優先順位こそあれど、最終的には全て頭に叩き込むつもりなのだ。


 そんなばるたんが一切の興味を持たず、カケラも覚えなかったのは……ただ一つだけ。


 皆で一緒に寝ているクイーンサイズの立派なベッドの下。そこに隠された、太郎が所有する大人な本やDVDくらいである。


「猿吉、俺は知ってるぞ? もっと知識を効率的に集めるには――ウィ○ペディアってのがいいんだろう!」

「え? ああ、アレけ。……うーん、たしかに役に立つとは思うけど、いっぺー間違った情報もあるし……。ばるたんは鋏でタイピングもしにくいから、普通にテレビや新聞でいいと思うんだなあ」

「む、そうなのか? たしかに、言われてみればキーボードってやつは打ちづれえな。んじゃ知識の方はそうするとして……とりあえず、他のやつも食おうじゃねえか!」


 まだまだある野菜を見て、ばるたんはリストバンドが巻かれた自分の腹をポンと叩く。


 その期待に答えるべく、猿吉は器用に調理をし始める。

 迷宮では【迷宮の住人】の効果で武器らしい武器は持たないが、キッチンでの包丁捌きは中々のものだ。


 ――トントン。

 ――コトコト。

 ――グツグツ。


 そうして、ササッと作り上げた男の料理は全部で三品。


 ニンジンとゴボウのきんぴら、白菜と豚肉の中華炒め、とろとろネギ焼き。

 そこへキレイに剥かれた柿も加われば、立派な農家メシの完成である。


「むっ、美味そうじゃねえか! すぐる以外にも料理ができる男探索者がいるとはな!」


 テーブルに並べられた作りたてホカホカな料理を見て、ばるたんのテンションは最高潮だ。


 太郎やズク坊と食べるガッツリ牛肉ステーキも美味しいが……ばるたんは約一週間の人間生活で、野菜の美味しさもすでに知っていた。


 付け合わせのパセリだって全部食べる。それが自宅警備員ばるたんなのだ。


 そのばるたんはイスに座って……は届かないので。

 テーブルの上に乗った皿の前に陣取り、鋏をカチカチ鳴らして宣言する。


「さあ食うぞ猿吉! 農家直送新鮮野菜――ベジタブル試食会の始まりだ!」

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