九十七話 一方その頃~盛岡&宇和島~
VS巨大石像。……の前に仲間の状況です。
太郎とズク坊が『北欧の戦乙女』と共に迷宮に潜っていた頃。
『迷宮サークル』の他の二人も、それぞれ目的の場所に到着、自分達に声をかけてくれた者達と会っていた――。
◆
「よ、よろしくお願いします! 僕の名前は木本すぐる、主に東京の上野で探索しております!」
先輩達と別行動を取る事になった僕は、遠路遥々、岩手の盛岡に来ている。
そして、ド緊張から直立不動で、目の前のソファに座る人達に挨拶をした。
一度、岐阜での作戦では会っているけど……こうして話すのは初めてだからね。
最初の挨拶が肝心。だから僕はしっかり頭を下げてから、彼らの方に目線を戻す。
「よく来てくれたね。同じ魔術師として、君の火ダルマには興味があったからとても嬉しいよ」
そう口を開いたのは、紺色のピンストライプのスーツでビシッと決めた男性。
目鼻立ちがキリッとして、かなり明るめの金髪を後ろで一本に束ねているイケメンだ。
――何を隠そう、この人こそ僕に声をかけてくれたパーティー、『黄昏の魔術団』の団長である。
名前は若林正史さん。
最強の魔術師軍団の最強の魔術師で、超一流の証、たった四人しかいない『単独亜竜撃破者』の一人だ。
そんなスゴイ人を前にして、現在、僕がいるのは『黄昏の魔術団』の拠点。
どこかの金持ちが手放して放置されていた大きな館を、隅々まで改装して拠点として利用しているらしい。
荘厳な扉からはじまり、赤絨毯に絵画、天使の彫刻に螺旋階段にシャンデリアなどなど……。
いわゆる洋館というやつで、映画のセットにも使えそうなほど立派だった。
こういう拠点をパーティー単位で持っているのは、せいぜい『黄昏の魔術団』と『遊撃の騎士団』くらい。
日本広しと言えど、規模・実力共に大きなこの二つだけだと思う。
「僕の方こそ嬉しいです。というか光栄です! まさかトップの魔術師パーティーで学ぶ機会が得られるとは……」
「ふむ、学ぶか。たしかにその通りだね。せっかくの機会だし、僕も木本君には美しき魔術というものをぜひ学んでもらいたい」
「は、はい! 精一杯学んで成長に繋げたいと思います!」
前髪をかき上げて、ニカッと白い歯を見せて笑う若林さん。
イケメン強者だからとても様になる――って、うん?
何か周りにいるメンバーの方々が、やれやれ……みたいな顔をしているぞ。
まるで僕や先輩が、花蓮の天然発言に困惑している時と同じような……何でだろう?
ま、まあとにかく頑張らねば!
ただ純粋にモンスターを狩りまくるのもいいけど、魔術師とはどうあるべきか、しっかり学ばせてもらおう。
別に僕はお客じゃないんだ。
だから……目の前のテーブルにある美味しそうな高級菓子には……絶対に手を出さないぞ!
「――よし、では木本君。早速、君の力を細かく見るべく潜ろうと思うんだが……。ちなみに我々のホーム、『盛岡の迷宮』がどういう迷宮かは知っているか?」
と、次に話しかけてきたのは、副団長を務める桐島匠さんだ。
この人も当然、凄腕の魔術師である。
彫りの深い顔で、サイドを刈り上げたワイルドな髪型が似合う、実力的にも立場的にも若林さんに次ぐナンバー2の存在。
その若林さんと同じく、真似できない唯一無二なスタイルを確立して、
『超合金の探索者』の異名でも知られる魔術師だ。
……同じ魔術師だからこそ分かる。
自分とは比べ物にならない、体に宿った圧倒的な魔力量。
ただソファに座っているだけでこれなら、魔術を発動する時は一体、どうなってしまうのか……。
「もちろんです。出現モンスターの強さと環境の過酷さ――。この二つの点を総合的に見て、文句なしに日本最難関の迷宮ですね」
そんなもう一人の怪物副団長に対して、僕は深くうなずいて答えた。
たしかに大変すぎる迷宮だけど……変にビビる必要はない。
三番目の難易度を誇る迷宮、『岐阜の迷宮』を経験はしているからね。
先輩とズク坊先輩だってかなりの強敵と戦うみたいだし、僕だって負けてられないぞ!
「オーケー、なら決まりだね」
僕の返事に、団長の若林さんがソファから立ち上がる。
そしてなぜか僕以上に、やる気満々な様子で髪をかき上げながら言う。
「君も同じジョブなら分かっていると思うが……改めて教えてあげよう。魔術師こそ最も美しい探索者だとね!」
◆
「――おおおっ、何と壮観な景色っ! ちょっとした動物園みたいですね!」
私は今、スラポンやフェリポンと一緒にとある場所に立っている。
愛媛県宇和島市に位置して、海岸沿いの砂浜にドン! とある『宇和島の迷宮』。
そのすぐ近くの浜辺で、私達と同じくズラリと並んだ従魔ちゃん達を見ていた。
――ザザァン、と心地良い波の音が響く。
そうして波が引いていくと同時。私達を呼んでくれたパーティー、『従魔列車軍』のリーダーさんが口を開く。
「ほう。嬢ちゃんも中々やるのう。枠はまだ二体だけじゃが、どちらも良い感じに育っておるわ」
うむうむ、とうなずきながら。
リーダーさんこと八重樫清隆さんは、スラポンとフェリポンを見て満足げな様子だ。
もう六十五歳を過ぎて、同世代と同じく年金をもらっているのに……、
ついた異名は『老将の探索者』。
若者に交じっていまだに迷宮に潜っている、日本一のスーパーおじいちゃんだ。
去年の『迷宮決壊』では大ケガをして、最終アタックってやつに参加できなかったみたいだけど、
今ではもう完治して、ケガをする前よりも元気じゃい! と言っていた。
んで、その八重樫じいちゃんを含めて、『従魔列車軍』六人のメンバーの従魔ちゃん達が並んでいる。
――ザザァン。
また一際大きな波の音が鳴ると、従魔ちゃん達が一歩前に出て、私達にペコリと頭を下げてきた。
「わあー。ちゃんと挨拶もできるんですね!」
「ほっほっほ。従魔は基本的に頭が良いからのう。【人語スキル】を得た動物との違いは、言葉を喋るか喋らないかくらいじゃよ」
八重樫じいちゃんは言うと、一番近くにいた自分の従魔、『エクスプロードリザード』の首筋を優しく撫でる。
さっき聞いたけど、この子がこのパーティーのエースアタッカーみたい。
ウチで言うところのバタローみたいな存在で、先陣を切って戦うのが得意なようだ。
体長は二メートル半くらいで、トカゲだけど二足歩行で亜人っぽい。
光沢のある黄土色の鱗の上に金属製の軽鎧を纏い、逞しい腕と鋭い爪、成人男性の胴より太い尻尾が特徴的で、
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ『火薬の臭い』がするモンスター戦士だ。
あの最弱と名高い、初心者向けの『横浜の迷宮』一層にいるパンクリザード。
その『最上位種』で、なんと『指名首』に指定されるまで登り詰めたモンスターなのだ。
つまりはモンスター界一番の出世頭!
高速出世という表現すら生温い、唯我独尊鬼出世ってやつだね!
「他の子も強そうだし……。同じ従魔師として尊敬しちゃうなあ」
八重樫じいちゃんの従魔は五体。
さすがは日本一の従魔師、【従魔秘術】の熟練度は最大まで上がっているみたい。
残り五人の皆も『四体連れ』で私の倍だ。
しかもきちんと育てられているから、戦った経験がある目ん玉ちゃん(エビルアイ)や蜂君(カタパルトホーネット)も、野性の子よりも全然強そうだよ。
――ザザァン。
心地良い波の音が重なって、壮観な景色をさらに引き立ててくれる。
従魔師六名、従魔二十五体の充実の戦力――。
多分、いや絶対かな? 私達『迷宮サークル』が彼らとガチンコやったら……うん、勝てないね。
「……さて嬢ちゃん、いや花蓮よ。これから我らがホーム、『宇和島の迷宮』に潜るわけじゃが……その前に」
八重樫じいちゃんは意味深に言うと、迷宮ではないある方向を指して皆に宣言する。
「召喚したばかりで悪いが、一旦、帰還させるぞい皆の者。近くに海の見えるオシャレな店があるでのう……まずはそこで皆でメシじゃ!」




