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花園で笑う  作者: 宮澤花
第2部 忍
98/211

4 自分で決めろ -1-

 次の日。校則違反者として、昇降口のところに自分の名前が張り出してあり、忍はとても恥ずかしかった。ひかりちゃんは『気にすることないよ』と言ってくれたが、やっぱりホメられた話ではない。


 古川さんと星野さんは、その日も刺すような目で忍を見ていたが前の日のように絡んでは来なかった。ただ、こちらを見る目が自分を責めているようで。忍はとても落ち着かなかった。

 自分は何も知らないのだから。何も出来ないのに。そんな風に見られても。何も返せない。だから、目をそらすことしか出来ない。

 二人に背を向けるように、こそこそして一日を過ごした。


 更に、その次の日。

「百花祭のテーマが変更になりました。『悼みと祈り』です。このテーマに合わせて出し物を変えるように、とのことです」

 帰りのホームルームの後、そう言われた。


 クラスがざわざわする。学院祭の出し物については、前期のホームルームで何度も何度も話し合ったが、なかなか結論が出なくて。二転三転して、ようやくお芝居に決まったのだ。

 聖書の中から、預言者ヨハネとサロメの話。嵯峨野先生は初めは困った顔をしたが。みんなで決めたことだし、聖書にあるお話だし、あんまり刺激的にならないようにするのなら、ということで了承してくれた。


 もう配役も決まって、練習も佳境に入っていて、背景や衣装も出来ているのに。

 今から新しい出し物を決めて、練習して、なんて。時間がなさすぎる。本番までもう、二週間ないのに。


「あの、合唱とかどうかと思うんですけど。讃美歌とか」

 実行委員の星野さんは、自信なさそうに言った。

 たちまちあちこちから反対の声が上がる。やっぱり『時間がない』とか、『今までの努力はどうなるのか』とか、そういう文句だ。


「でも」

 星野さんは、少し感情的な口ぶりになった。

「サロメは、新しいテーマに合わないと思うし。だいたい、夏希があんなことになったのに、サロメのお話なんて不謹慎すぎると思う」


 そう言われると確かにその通りなので、みんな一瞬黙る。

 でもすぐに。

「だからって讃美歌なんて」

「ひねりがないし」

「お祈りの時間じゃないんだから」

 誰かが挙手するわけでもなく。あちこちから、ひそひそ話にしては少し大きい声で、声が聞こえてくる。


 星野さんは真赤になった。

「私の案が気に食わないなら、誰かいい案を出して下さい! 私、これ以上考えられません」

 そう言って、自分の席に戻ってしまう。


 一瞬、沈黙した後。

 不満そうなおしゃべりだけが、教室の中に蔓延する。


「出店とか?」

「今からムリでしょ。いい場所はもう、お姉さま方に取られちゃってるし」

「劇、やりたかったなー。あの衣装、着たかったのに」

「今から変えろとか、横暴」

「悼みとか祈りとか、難しいよね。どうしろって言うの」

「せっかくの学院祭なのに、暗くなっちゃうよね」

「楽しくなさそう」

「ね」


 それで。古川さんがキレた。

「ちょっと! 今言ったヤツ、誰!?」

 立ち上がって、教室中をにらみつける。

「夏希、死んだんだよ? 殺されたんだよ? それなのに、その言い方ヒドイ。楽しんでる場合じゃないじゃない。百花祭なんて、中止してもいいくらいなのに」

 そのまま。古川さんは悔しげに泣き始めた。

「クラスメートなのに、みんな冷たすぎ。お通夜だって、私と志穂と、真理絵ちゃんしか来ないし」


「だってそれは」

「あんまり行くなって言われたし」

 古川さんが泣き出してしまったので。みんなの呟きが困ったような。弁解するようなものに変わる。

 星野さんが傍に付き添ったが、古川さんは泣きじゃくっている。


「誰よ。あんなこと言ったの」

「知らないよ」

 呟きが。犯人探しに変わる。


 古川さんが。涙にまみれた顔を上げた。

「雪ノ下。アンタじゃないの」

 

 突然の名ざしに。忍は戸惑う。

 古川さんは声を荒げた。

「アンタ、夏希のことキライだったもんね! 死んで良かったと思ってるんでしょ! ヒドイ。アンタなんか、この教室にいてほしくない」


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