表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花園で笑う  作者: 宮澤花
第2部 忍
95/211

3 距離 -2-

 信じてもらえるとは、思えなかった。

 それでも、嘘をつきたくなかったから。精一杯、話した。

 

 お祖母ちゃんと、お祖母ちゃんに教えてもらったいろいろなこと。

 小林さんの傍にいると感じた、厭な気持ち。

 それがだんだん強くなったこと。具合が悪くなるほどになったこと。

 そうして、嫌われるようになったこと。

 小林さんだけでなく、古川さんや星野さん、笹井さんにも何度も嫌がらせをされたこと。


 そうして。忍は話を終える。

「それだけか?」

 先生は、意外そうに言った。忍は下を向く。

 

 お祖母ちゃんの力でさえ、ママや、よその人は信じていない。パパやお姉ちゃんだって。お祖母ちゃんは信じても、忍に何かが出来るなんて思っていないだろう。

 それなのに。何も出来ない忍の話なんか、誰が信じてくれるだろう。

 

 こんな話をしたって、信じてもらえるわけがない。それどころか、大好きな先生に軽蔑されてしまうかもしれない。

 そう思うと、後悔が胸に渦巻く。黙ったままの先生の顔を、怖くて見ることが出来ない。


「君が言う、そのおかしな気配」

 先生が口を開いた。

「他にそういうものを発している人間は、いるのか?」

 忍は。パッと顔を上げた。


 先生は、今までと変わらない表情のまま、忍を見下ろしていた。

「昨日の風紀委員会の時も具合が悪そうにしていたな。あの中にも、いるのか?」


 忍は。ポカンと口を開けた。

「先生。信じて下さるんですか?」

「別に、信じたとは言っていない」

 先生は言った。


「君の言葉には、何の裏付けもないしな。だが、私はそういう力を持っている人間を一人、知っている。その男の力は信じざるを得ない。君がそれと同じような存在なのか、それともデタラメを言っているだけなのか。それは、これから判断することになるな。もちろん」

 先生は冷たく笑う。

「デタラメで大人を惑わそうとするような行為には、厳罰をもって処するが。今の話は嘘なのかね?」


 忍は。大慌てで、首を横に振った。


「では言いなさい。風紀委員会の中で、君が厭な雰囲気を感じるのは誰だ? 他にもそういう存在がいれば、全て名を上げろ」

 忍は、少しためらってから言った。

「三年生の、穂乃花お姉さま」

「大森穂乃花か」

 先生は少し意外そうに言い、少し考え込む。

「他には」


「いる、とは思います。でも、名前までは」

 顔と名前が一致しない人が、委員の中にもいる。

「クラスには」

「もういません。小林さんが、いなくなったので」


「寮や、部活はどうだ」

 忍は再びためらう。

「多分、います。でも、まだ名前を覚えていないお姉さまも多いし、どなたか特定するまでには」

「笹井や古川、星野は」

「普通です」


 先生はもう一度考えた。それから言った。

「分かった。大森から調べてみよう。それから、他にそういう人間を見つけたらすぐに私に報告するように。名前が分からなくても構わない。必ずだぞ」

「はい」

 忍は呆然と呟き。

 それから。


 こらえきれなくなって。大声で泣き始めた。

 信じてもらえるなんて。一瞬だって思っていなかった。


 ママも、パパも、お姉ちゃんも信じてくれていないのに。

 友達だって、この力のことを話すと離れていった。

 彩名のように、いじめてくるようになった。

 

 誰にも信じてもらえない。お祖母ちゃん以外には、誰にも。

 ずっとずっと、そう思っていたのに。

 

 信じてくれる人がいた。

 それが嬉しくて。

 忍はいつの間にか、先生にすがりついて泣きじゃくっていた。


「君。落ち着きなさい、どうした」

 先生は困ったようにそう言っていたが。

 

 どうやっても忍が泣き止まないので、諦めたように。

 落ち着くまでずっと、背中をさすってくれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ