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花園で笑う  作者: 宮澤花
第2部 忍
90/211

2 波紋 -2-

 談話室でも、食堂でも。みんな表だってその話はしなかったし。

 寮母さんも、寮長の紗那お姉さまも何も言わなかった。

 だけど、みんながそのことを気にしていることは表情で分かったし。

 トイレや廊下や互いの部屋で顔を合わせると、どうしてもその話ばかりになった。


 

 落ち着かない空気の中。夕食が終わってしばらく経って。もう一度、食堂に集まるよう放送が入った。

 そこで、寮母さんと紗那お姉さまから、抜き打ちの荷物検査があると発表された。

 みんな文句を言ったが、

「学校が決めたことで、どうしても必要だから」

 ということ以外、説明してもらえなかった。


「どうしよう」

 ひかりちゃんが青い顔をした。

「従姉のお姉さんから、口紅をもらったの。みんなに見せたくて、持ってきちゃった」

 化粧品は寮則で持ち込み禁止になっている。

「でも。今までだって、注意はされても没収されたことはないんだし」

 忍は半信半疑のまま慰めを口にしたが、結果的にそれは希望的観測だった。


 寮則に違反しているものは、容赦なく没収された。

 そしてそれ以外にも、アロマオイル、お香、お茶の類、匂い袋、化粧水など。雑多で、生活必需品まで含めたものが多く没収されたのである。

 もちろん、ひかりちゃんの口紅は没収。これは寮則違反なので、返却は卒業時になる。忍も、お祖母ちゃんが作ってくれた匂い袋を没収された。

 二人ともガックリして、その後は小林さんのことを話す気にもならずに眠りについた。



 翌朝、講堂で緊急集会が行われた。普段は生徒の前に出ない理事長先生が壇上に登り、事件について説明した。

 小林さんが繁華街で何をしていたのかは、まだ分かっていないらしい。

 ショッキングだったことに。小林さんは死んだ時、何かのドラッグを吸引していたという話だった。ドラッグに注意しよう、という話は時々聞かされるけれど。クラスメートがそんなことをしていたなんて、信じられない。


「もちろん、卑劣な犯人に無理やり吸わされたという可能性もあります。私はそれこそが真実だと信じております」

 理事長先生が言った。

「しかし、それとは別として、私たちは警察に身の証を立てねばなりません。そのために昨夜の所持品検査を実行しました」


 理事長先生は。没収されたものの大半は、警察で分析されること。問題がないと分かったものは順次返却されること、を説明した上で。これからもまた、あんな検査をすることがあるかもしれないと言った。


「皆さんが百花園生としての誇りを持ち、清らかに過ごすこと。それが世間の厳しい目と戦う唯一の道なのです」

 そして、犯人が一刻も早くつかまるよう、小林さんのために皆で祈ろう、と締めくくった。


 その後、十津見先生から。昨日の検査で寮則違反の物がたくさん見つかったことに対する注意があった。

 それから、風紀委員は放課後集まるように、ということも。


 教室に戻ると、担任の嵯峨野先生から話があった。

 小林さんと同じ寮、同じクラス、同じ部活のメンバーが順番に警察から話を聞かれることになること。

 何か知っていることがある人は、早めに先生方に申し出ること。

 

 それからみんなで小林さんの冥福を祈った。

 空っぽの、小林さんの机は。ただ、お休みしているだけのように見えたけれど。

 ホームルームの後、それが片付けられて。

 初めて、彼女はもう二度とこの場所に姿を見せることはないのだということが、目を背けることのできない現実として感じられた。


 小林さんと仲が良かった古川さん、星野さんの二人は。暗い表情をして、ほとんど口をきかなかった。



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