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花園で笑う  作者: 宮澤花
第1部 千草
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16 百花祭 -5-

 その時間帯より後は、本当は私は校内巡視の任務に就かなくてはいけないのだが。ごめんなさい委員の皆さん。私、職務放棄いたします。


「量が少ないですね」

 弁当箱を空にして、克己さんは言った。まあ、女の子向けだからね。

「そろそろ、講堂に行きましょうか」

 トレイを設置されたゴミ入れに捨てるため、私は立ち上がった。克己さんも後に続く。


「芝居ですか。妹さん、何をやるんですか」

「サロメです」

 と言うと。少し考えて、

「ああ。生首をお盆の上に乗せる話ですね」

 と返事がきた。すごい要約するな! まあ、そうなんだけどさ。


「よく、上演の許可が下りましたね」

 この人に言われるのだから、今の情勢下でサロメというのはやっぱり、過激なアイディアだったのか。と自省してみるが。

「皆で尽力しましたので」

 もう決まってしまったことなので、そう流した。

「本人たちの熱意も強かったですし」

「そうですか。堅苦しい学校かと思いましたが、意外に自由なんですね」

「まあ。やり方によります」

 という言葉で済ませたら、納得してくれた。私が言うのも何だが、それでいいのか?


 さて。講堂は昭和の建築で、ヨーロッパ風の外観をしている。

 まあ、中は普通に体育館だ。体育館と呼ばずに講堂と呼ぶのは何かこだわりがあるらしいが、別に興味はない。ちなみに、なぜか体育の時には体育館と言うから笑える。

 軽音楽部の発表が終わったところで、ちょうど観客が入れ替わる。そこを狙ってきたんだけど。

 忍たちの短いがちょっと重い劇が終わった後は、吹奏楽部に華々しく締めてもらう。そういうタイムスケジュールになっている。


 周囲を見ると、生徒やその家族らしき人たちの他に、先生方の姿が多く見えた。

 理事長先生や校長、教頭。十津見の姿も見える。校門はどうしたのかと一瞬思ったが、先生方も一日外に立ちっ放しというわけにもいかないから、交代でやっているのだろう。

 そして、この出し物は。やはり、先生方にかなり心配されているようだ。


 しばらく、舞台の幕の後ろでドタバタと音がした後、開演のブザーが鳴る。

「一年竹組。劇を発表します。タイトルは『洗礼者の殉教』です」

 アナウンスの声が響く。この声は間島美空だな。


 幕が開いて、ローマのトーガっぽい衣装を着た女の子たちがわらわらと走り出る。実際には男装らしきものをしている子もいるのだが、やはり女子の集団にしか見えない。

 そして、彼女たちの『洗礼者様』の声に迎えられて、主役ヨハネ登場。演じているのは背の高い子だ。白い長い衣装に、毛皮っぽいものをかけている。ラクダの毛皮のつもりらしい。で、聖書に出てくる言葉を長々と暗誦。はい、よく頑張りました。


 そこへ女の子が登場。おお、あれ私の妹? かわいいじゃん。

 上はレースの袖のついた黒い服。それに、ふんわりとした白いレースのスカート。レースの内側には黒いスカートが透けて見えるから、あの黒いのはワンピースなのかな? 後ろに大きなレースのリボンが付き、髪にも同じ衣装のリボンと造花。ちょっとゴスっぽくごてごてしているが、可愛くて目を引く。


 で、そのサロメは。みんなが洗礼と神の国への道を求めているところに入って行き。

「私が欲しいのは、洗礼ではなくあなたの手」

「神の国への道ではなく現世の愛」

 と、真っ向から信仰を否定する。

 妹は声が小さいから心配だったけど。結構ちゃんとセリフが言えてて、安心した。


 それはともかく。その言葉にヨハネは怒って、

「去れ、悪魔よ」

 という流れに。うん、まあ、何かいろいろ混ざってるけど。分かりやすいと言えば分かりやすい。


 いったん役者がはけて暗転し、次の場面。ヘロデ王と側近が、ヨハネが邪魔だと話をしている。

 そこにサロメが再登場。

 あれ、印象変わった。さっきまでは可愛かったのに、今は。なんか、エロい。あ、スカート。スカートが変わってる。

 

 レースのスカートがなくなって。割と体にぴったりした、黒のワンピースだけになっている。

 そのスカート部分には、太ももの上の方まで大きくスリットが入っていて。


 スリットは、黒いレースでふさがれているんだけれど。そのレースの間から、可愛いリボンのついたゴスいニーソ……いや、ガーターストッキングかな? が透けており。

 そのストッキングを留める。赤いガーターが。動くたびにチラチラ見える。


 その赤が。不吉で。それでいて挑戦的で、挑発するようにエロくて。

 つい、そこに目をやってしまう。


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