16 百花祭 -2-
「千草お姉さまに会いたくていらっしゃったんですね」
「仲がよろしいんですね」
などと言う下級生たちに囲まれて、満更でもなさそうな顔でニヤついてらっしゃるが。私は大変面白くなく、
「皆さん。真面目にお仕事をしてくださいな」
などとお小言を言う、ヤキモチ焼きのお局様みたいな立ち位置になっている。
「克己さん」
いい加減。役員顔でお茶請けまでもらって食べている人が目障りになって来て、ハッキリ言う。
「大変失礼だとは思いますが。邪魔です」
「ですが。離れると、君を守れません」
あっさり言う。周りの女の子たちがキャーッと嬌声を上げる。
ですから、やめてくれませんか。そういう周囲に誤解を与えるようなことを言うのは。
「大丈夫です。すぐ外に、吉住先生も十津見先生もいらっしゃいますから」
そう言うと。克己さんは、ぼんやりと首を校門の方に回した。
また、何か屁理屈をこねられるかと思ったら。
「そうか。大丈夫かなあ。それだったら、僕は中を見てきた方がいいかなあ」
と、首をかしげた。
あら意外。まあ、いいけど。ホント、ここにいられると邪魔だから。
下級生たちの気は散るし、お客さんは女の子に混じってお茶を飲んでいる異分子を『コレなんだろう』という目で見ながら通り過ぎるし。噂を聞きつけて、校舎の方からわざわざ彼を見に来る生徒までいて、非常に鬱陶しい状況なのである。
「だったら、ちょっとひと回りしてきます」
サッと立ち上がった。やっぱり、この人も退屈してたんじゃない。そう思うと、ムカつくのは何故だろう。自分で言い出したことなのに。
「あの。良かったらご案内します」
遠巻きに見ていた下級生たちが、ささっと寄って来た。アンタたち、動き速いな。ずいぶん抜け目ないね! どこの寮の何年生だ。後で撫子に聞いてやるー。
と。ちょうど坂を下りてくる一年生らしき小さめの影、二人に気付いた。
あれは。
「克己さん。ちょっとお待ちくださいな」
女の子たちと行きかけていた彼を止める。
ごめんなさいね、と受付を一緒にやっていた子たちにあやまって、持ち場を抜けた。
克己さんの横に立ち、坂の上で回れ右しようとしている影に声をかける。
「忍!」
そこにいるのは忍と、遠山ひかりだ。忍は引っ張られて、無理やり来たという感じだが。
どうやら私と顔を合わせたくなくて逃げようとしたところのようだが、そうはさせない。いいチャンスだし。
「こっち来て。ちゃんと挨拶して」
姉の権威で、しっかりとした声で言う。
忍は渋々という感じで顔を上げ。友だちから離れて、こちらにやって来た。
「ちゃんと紹介するのは初めてですね。克己さん、これが妹の忍です」
そう言って、妹を紹介する。
「忍。私と婚約した、北堀克己さん」
「ご、ごきげんよう」
忍は小さな声で絞り出すように言う。
克己さんは観察するような目で。私の妹を見下ろしている。
少しの間、二人の目が合った。すぐに忍が目をそらした。
「なるほど。千草さんとは似ていないかな。いや、似ているのかな。よろしく、北堀です」
克己さんはそう言って、忍に向けて右手を差し出した。
忍は恐る恐るその手を取って。形だけ握手すると、すぐに振りほどくように手を離した。
私はちょっとびっくりする。元々、人見知りな子だけど、ここまでだったかしら。女子校に入って、男性が苦手になった?
克己さんはうなずいた。
「僕たちはあまり一緒にいない方がいいようですね」
あっさりとした口調で呟き。興味を失ったように、妹から目を離す。
「じゃあ千草さん、くれぐれも気を付けて。お昼に迎えに来ます。さあ君たち、行きましょう」
そう言って。女の子たちを連れて、スタスタと行ってしまった。
なに、今の一幕。意味分からん。
忍が鋭い目で、去っていく克己さんの背中を見つめている。
「あの人。怖い人だね」
と。ポツリと、言った。




