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花園で笑う  作者: 宮澤花
第1部 千草
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16 百花祭 -1-

 明けて土曜日。いよいよ百花祭始まりである! 実行委員は朝食を食べ終わったら即、会議室に集合。

「いよいよ百花祭です。今日と明日、何事もなく無事に終わるよう、皆さま力を合わせて頑張りましょう!」

 三田村心の宣言と共に、みんなで気合を入れる。


 ゴメン、心さん。私、今日の夕方で姿くらまします。妹と薫を連れて。ちょびっと騒ぎになるし、私の分の仕事を誰かが肩代わりしなくちゃいけなくなるけど。人の命がかかっていることだから、許してね。

 やはり。『また血が流れる』なんて克己さんに言われてしまうと、私だって平常心ではいられないのだ。そんなことは起こってほしくない。それは、ここに集った実行委員のみんなのためでもあるのだ。

 せめて、今日一日は一所懸命がんばろう。そう、心に決めて受付に立つことにした。


 午前十時の開場の、三十分くらい前から人が集まり始める。そして。

「千草さん、おはようございます」

 来たよ。見た目だけなら落ち着いた三十代に見える人が。


「ここは開けないんですか?」

 鍵のかかった校門をガチャガチャ揺する克己さん。どうしてこの人は、ここに来ると不審者行動になるんだ。

「時間になるまでは開けられません。並んでしばらくお待ちください」

「どうしてですか」

「決まりですから」

「意味が分かりません」


 意味が分からんのはあなたですよ!

 真剣に、集団行動に向かない人なんだな、この人は!

 学生時代をどうやって切り抜けたのだろうか。ご家族に会う時が来たら、いつか聞いてみたい。


 運良く、吉住先生と一緒に外に並んだ客の整理のために校外に出て来た十津見が、不審者寸前の私の婚約者を引っ張って行ってくれた。

 まさか、十津見を頼もしいと思える日が来ようとは。私ではさすがに押えかねたので、同じくらい個性の強い人が出て来てくれて助かった。毒を以て毒を制する、というのはこういうことか、とことわざの意味をかみしめる私。


 午前十時に開門。

 例年よりは少ないが、お客様がなだれ込んでくる。

 吉住先生と十津見は校門の外でひとりひとりの招待券をチェックし、お持ちでない人にはなだめたりすかしたり脅したりしてお帰りいただくための要員である。紳士的なのと強面と、学校側も人材をうまく活用している。


 私たちは、小さい子供さんに風船をサービス。それと、ここではお菓子も配っている。

 学院祭をこの時期にやるのは、ハロウィンパーティも兼ねているからで。余裕のある学生はオバケに仮装して歩くのが昔からの習わしだ。

 といっても、みんながそんなことを出来るわけもなく、その辺りは実行委員がひっかぶることになる。受付でも下級生が魔女や妖精、アニメ映画のプリンセスの仮装などしている。そこへ子供さんが来て『トリック・オア・トリート!』と叫べば、お菓子がもらえますよ、という。


 将来の下級生を獲得するための下工作、いやたゆまざる努力に私たちも一役買っているというわけだ。

 もちろん、男の子がやって来た場合もさしあげますよ。学校の近所にお住まいの方のご子息もいらっしゃるので、その辺は愛想良くしておかなければならないという、大人の事情である。

 私は仮装とかしないけどね! もう、今までさんざんやって来たので、今年くらいは楽をさせてほしい。


 それに、今回は。

 魔女と、妖精。

 克己さんが言っていたキーワードが。何だか、ひどく気にかかる。


 連続した事件のせいで、吸血鬼など血を連想させるモンスター系や。ガイコツ、ゾンビなどの死体系の仮装は少ない。その分、魔女や妖精が例年よりも多い。そのことが。何か関係あるのだろうか。


 私もナーバスになっている。続けていろいろな人から身辺に気を付けるよう警告されて。何か起こるのではないかという、厭な予感が頭から離れない。


 で。注意してくれた一人である、脚の長い私の婚約者さんは。

 入場してすぐに、勝手に受付に居座ってしまった。


「中を見てらしていいんですよ。私はご一緒できませんけど、ここにいても退屈でしょう?」

 と言うと。

「後で案内してもらえばいいです。今日の僕は君の従順な番犬ですから」

 とかおっしゃる。


 周りの下級生たちが耳をそばだてるようなこと言うのヤメテ。

 そして、従順な番犬は十津見に校門前から引きはがされたりしないから。



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