15 放課後の挑戦 -2-
ドキッとする。思わず、周りを見回してしまう。誰もいなかった。あわてて、電話に出る。
「はい。千草です」
声を落として言う。
「千草さん。元気ですか」
克己さんの声が。耳元でした。
こちらから電話をかけたことはあっても、向こうからかかってくることなんて初めてで。
ドキドキしてしまう。
「出て来られませんか」
って。急に言われても。
私は、我が校は絶賛外出禁止中であり、許可を取るのには面倒くさい手続きがいることを説明した。
「そんな手続きの話はいいです」
克己さんは言った。
「僕は君に、出て来られないかと聞いてるんです」
それは。手続きとかどうでもいいから、出て来いと。そういう挑戦か?
「無理ならいいです」
そう言って、電話を切りそうになる気配。ちょっと待ったあ。
「無理ってわけじゃないですよ」
ああ。この、挑戦されたら受けてしまう性格。今まで長所だと思ってたんだけど。今、分かった。これは私の弱点だ。
「あの。短時間でしたら、うまくやればできます」
何を言ってんだ私。今朝、晒し場に名前を載せたばかりなのに。
六年にもなって、二日続けて晒し場に罪状を書かれるようなバカはいない。そんなマヌケにはなりたくないのに。
「分かりました。じゃあ上手くやってください」
と言われて。
「何時にどこへ行けばいいんですか?」
とか聞いてしまっている。ああー、停まれ私! 理性を持て!
「校門前にいます」
もういるのかい!
窓から外をのぞくと、校門の傍に赤い車が見えた。もしかしてアレか。派手だな。分かる気もするけど。
辺りを窺いつつ、校門前に行った。まあ、実行委員会のテントが張ってあるので、ここまで来るのは別に問題はない。ただ。
門の外に出るのは、話が別だ。
私は慎重に辺りの様子をうかがう。十津見でもいたらとんでもない大惨事になるし。撫子あたりがどこかから見張っていないとも限らない。
よくよく見定め、周囲に敵影なし、と見定めて。素早く校門を開け、外に滑り出る。
と。ぐい、と手を引かれた。
「よく来てくれました」
克己さんが立って、私の腕に腕を絡めていた。
「今日は、君を拉致しに来ました。これから結婚しましょう」
はい?
問い返す暇もなく。私は、車に押し込まれた。
スルリと運転席に座った克己さんが。アクセルをふかす。
車はあっという間に、猛スピードで走り出した。
「あの。これは、いったい、どういう」
一応、シートベルトを着けながら。私は、克己さんに質問する。
「状況が変わりました」
彼は、片手でハンドルを操りながら言った。
「もう、君をあそこには置いておけません」
「置いておけないって」
私は唖然とした。
「だって、学校は」
「休んでください。いっそ辞めても構いません」
アッサリ言われた。そんなこと言われても。
「あのですね。明日は百花祭で、急に私が休んだらみんなに迷惑が」
と言うと。
「でも。あそこにいると、君、死ぬかもしれないですよ」
そんな返事が来た。
はい?
「それは……どういう……」
私は。更に呆然とする。何言ってんの、この人。
それから。この人の職業を思い出した。
「まさか。占いですか」
その声に。不信がまじってしまったのだろう。克己さんは苦く笑った。
「信じられませんか。そうですね、僕も普段は信じません」
しまった。つい。ひと様の職業を、真向否定してしまった。
しかし、アンタが信じていないと言うのは問題があるのではないのか?
それはともかく。
「根拠がないのでしたら、従えません」
私は言った。
「学校に帰ります。車を戻してください」
「嫌です」
「警察を呼びますよ」
「そんなものは振り切ります」
ご冗談でしょう。
ダメだ、話にならない。
そもそも、この人と会話が成立すると思ってはいけなかった。




