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花園で笑う  作者: 宮澤花
第1部 千草
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12 買い物に行こう -3-

 放課後。お財布とナップザックを用意して、寮母さんのところでノートに外出届を書く。

 大勢の分の買い物をするとなれば、ナップザックは欠かせないアイテムだ。戦時下のドラマみたいだが、両手に荷物を持った上に背中にも物が背負えるというのは素晴らしい機能! 六年間の寮生活で、たびたび友人の分の買い出しをやらされてきた結果、私が行きついたマストアイテムである。

 外出先、予定帰寮時間、外出者の氏名及び部屋番号を記載し、山崎先生からいただいた外出許可証を提出したら手続き完了。


 そこへちょうど良く、小百合が階段を下りてきた。彼女も空っぽのナップザックを背負い、右手にはなぜか竹刀を持っている。

「小百合さん。どうするのよ、そんな物騒なもの」

 たずねると。

「物騒なのはアタシじゃなくて世間だろ。恐ろしい連続殺人犯がうちの生徒を狙ってるんだ。アタシたちだって狙われるかもしれないじゃん。武装しないと、怖くて外出なんかできないよ」

 と、かよわい子羊のようなことをおっしゃるが、小百合さん。

 

 そもそも、かよわい女の子は武装して街を出歩かない。そして、三つ編みポニーテールを揺らしながら竹刀を持って闊歩するあなたを見ると、他校の不良すら逃げ出すという現実をどう理解してらっしゃるのか。

 私の推理によれば、薬物も援交もやっていない私たち二人は連続殺傷犯に襲われる気遣いはないのだが。万一襲われたとしても、犯人の方がかわいそうなことになりそうな気がするのは、楽観的予想だろうか。



「あー、みんなが出かけられないのに、アタシたちだけ外を出られるのって、なんかいいなあ! 千草、角の鯛焼き屋でクリーム鯛焼き買って食べようよ」

 とか、ご機嫌マックスな小百合さん。まだまだ重い三日目のはずなのだが。出血多量すぎて脳に血が回らず、ハイになっているのだろうか。

 

 ちなみに、角の鯛焼き屋さんはどう若く見積もっても八十代後半、というお婆ちゃんがひとりでやっているお店で、昭和三十年代には既に営業していたらしいという伝説がまことしやかに語られる、百花園生御用達の店である。私は全体的にちょっと甘すぎる気がするのだが、小百合はお気に入りだ。

 結局、抗しきれずに鯛焼き屋さんで鯛焼きゲット。食べながら歩く、というお嬢様学校の生徒らしからぬ振舞いをしながらドラッグストアへ向かった。


 買い物リストはしぼりにしぼって、必要最小限に抑えたとはいえ。それでも十数人分の買い物である。

 内容も、シャンプーだのトリートメントだの歯みがきだの、私は敏感肌だから○○社の肌にやさしいシリーズじゃなきゃダメだとか、私は多いから夜用スーパーが二袋いるとか。自分でやると言ったことながら、面倒くさいことこの上ない。

 カートにいっぱいに商品を乗せてレジへ向かう。生理用品から始まっただけに、生理用品がやけに多い。


「一度にこんなに買うヤツいないよな。どれだけ出血するんだよって感じ。それとも着け心地比べてみるとかかな」

 とか、横で他人事のように言う小百合さん。ウルサイな、私だって恥ずかしいんだ。


 そうして、ありがちなことだが。こういう時に限ってレジ係に男性しかいなかったりするわけである。ものすごく気まずい。こっちだけかもしれないけど。

 中が透けない袋に生理用品を詰めてくれるのだが、これも微妙だよね。いかにもその手のモノを買ってきました、って感じになって。

 料金は結構な額になった。立て替えだから結構痛い。でも、ポイントカードのポイントだけは役得でいただいた。レシートは、後で各々からお金を徴収するのに使うから、お釣りと一緒にしっかりお財布にしまう。


 それから、買ったものを袋詰め。こういう場合、本来シャンプーなどの重いものを背中のナップザックに背負った方がいいのだが。私たちは率先して、他人に見られたくない生理用品をそちらに詰め込んだ。ああ、私たちって乙女。

 結果、手には重たいボトル類が残るのである。これを持って坂の上の百花園に帰るのか。まあ、ダイエットだと思って頑張ろう……。


 小百合は竹刀が邪魔になった様子で、竹刀袋を背中にかけた。余計なものを持って来るからそういうことになるのだ。

 コンピューターゲームの忍者と、終戦後の闇市で買い出しをして来た人をまぜて二で割ったような姿の女学生という、大変珍妙なものと一緒に道を歩く羽目になり、私も迷惑である。


「あー。アタシたちさあ。行商のオバちゃんみたいだよね、きっと」

 アンタはそれ以上のものだけどね。

「年頃の乙女としてヤバくねえ?」

 そう思うなら、その言葉遣いから何とかしろ。


 重たい荷物を持っててくてく歩く。

「そういえば、まあちゃんに彼氏いるって知ってる?」

 思いついたように小百合が言った。

 私はうなずいた。

「前に撫子が言ってたけど」

 小百合も知っているのか。そうなると、結構な人数が知っているのかもしれない。

 いや、まあちゃん先生は可愛いし。生徒ではなく職員なのだから、彼氏の一人くらいいても問題はないだろうし。


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