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花園で笑う  作者: 宮澤花
第1部 千草
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11 突然の来客 -2-

「雪ノ下千草。返事をしなさい」

 うながされて。自分が呆然としていたことに気付く。

「あ、あの」

「どうなんだ。本当に君の婚約者なのか?」

 私が困っていることなんか、表情で分かるだろうに。わざわざ同じことを何度も聞いてくる十津見、ホントに性格悪いっ!


「婚約者だ」

 北堀克己が私の代わりに答える。

 もちろん、十津見は首を横に振った。

「君は黙っていろ。私は彼女に質問している」

「どうして疑うんだ! 嘘を言って何になる」

 何だか怒り出したんですが。


「悪いが、女子校に無理やり侵入しようなどという不審者を、この学校の教師として放っておくわけにはいかなくてね。関係が証明され、正規の手続きを踏まなければ校内に入れることは出来ない」

 うん。悪いけど、今回に限っては薄ら笑いを浮かべている十津見の方が全面的に正しいと思う。オカシイとは思っていたが、自称私の婚約者のこの人、やっぱり相当オカシイ。


「形式主義だな。馬鹿馬鹿しい。僕は君に話があるんです、千草さん。いいから出て来なさい」

 柵の向こうから、私を説得しようとする北堀克己。いや、あのね。

「君、この牢獄みたいな鉄柵を開けて、彼女を出しなさい。それをしないなら、この扉を壊して入るぞ」

 今度は十津見に向けて厳しい口調で言う。それは脅迫では。

「そういうわけにはいかない。これ以上無理を言うなら、警察を呼ぶが。留置場に行くのがご希望か?」

 そして冷たく迎え撃つ十津見。ちょっと待て。

 

 オジサン二人で勝手に話を進めないでくれますか。というか、この組み合わせ最悪なのでは? なんか話が高速で物騒な方向へ進んでいるような。


「雪ノ下千草」

 と、そこで。十津見の冷たい視線が、再び私に向けられた。

「そういうわけで、君の言葉を待っているわけだが。いつになったら、返答する気になるのかね。早くしてほしいのだが」

 厭味たらしい。


 私は、ため息をついた。とにかく、この場を治めなくてはならない。このままでは確実に警察沙汰になる。

「婚約は、しました」

 早口に言う。確かに、した。それは別に、嘘じゃない。


「ほら。僕の言ったとおりじゃないか」

 なんか偉そうに言っている人がいますが。今はスルーしておこう。

「そうなのか?」

 十津見の目が、眼鏡の向こうで冷たく嗤う。ああもう、こっちはこっちで。

「交際届が提出されていないはずだが。校則違反だな、雪ノ下千草」

 ホントに何で、生徒の違反をあげつらう時にこんなに嬉しそうなのだコイツは。


「今日、提出しようと思っていたんです。母からやっと届いたので」

 サラリと嘘を言う。

 幸い、交際届はゴミ箱行きを免れた後、ポケットの中にそのまま入っていた。

「受理していただけますか」

 十津見に向かって差し出す。


 風紀委員顧問は、その用紙をチラリと見た後、乱暴に私の手から奪い取り。中を検めると、いまいましげな顔をした。

 何で用紙がきちんと記入してあるからって不機嫌になるかな。根本的に生徒に対する接し方が間違っていると思う。

「要件はそろっているようだな。それで? 君がこの、北堀克己本人かね」

 そう、冷笑と共に外の男に声をかける。

「運転免許証を見せなさい。本人確認をしておく必要がある」


「唾棄すべき旧弊さだな」

 相手は不機嫌にそういいつつ、懐から免許証入れを取り出した。

「バカバカしすぎる。意味がない」

「そうでもない。形式を満たすことが必要な場合もあるのでね」

 十津見は写真と目の前の人間の顔を見比べ、交際届に書かれた名前や生年月日を確認してから、もったいぶった態度で小さなカードを返した。


 それから。十津見は鍵を開け、門を開いた。

「では、入れ。わざわざ訪ねてきたのだから、特例として十分間だけ面会を認めよう」


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