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花園で笑う  作者: 宮澤花
第1部 千草
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11 突然の来客 -1-


 放課後は、相変わらず実行委員の仕事。本当、落ち着いて事件のことを考えるヒマもない。

 当日の講堂使用のタイムテーブルに見落としや間違いがないか確認している時、会議室の扉がノックされた。桜花寮の下級生が、とまどい顔でこちらをのぞいている。

「あのう。千草お姉さま」

「どうしたの。何かあったの?」

 

 トラブルか。そう思って席を立つ。

「いえ、あの」

 彼女は言いにくそうに口を開く。

「あの。十津見先生が、すぐに校門のところに来なさい、って。お姉さまに来客らしいんですけど。急げ、って」


「来客?」

 私はきょとんとした。

 そんな予定はないが。父や母なら、メールか何かで一報してから来るはずだし。

 だいたい、家族なら校門というのは変だ。急な訪問でも、保護者なら応接室か何かに通されるはずだけど。


「とにかく行ってみるわ」

 私はため息をついた。十津見が急げと言っているなら、急いで行かないと面倒くさいことになる。それだけは確実。

「ごめんなさい。ちょっと席をはずすわ」

 そう言うと、委員長の三田村心はうなずく。

「大丈夫です。ちゃんと進めておきますから。それより急いでください、十津見先生が待ってらっしゃるんでしょう? 早くしないと大変です」


 みんな認識は同じだなあ。薄ら笑いが浮かんでしまうよ。あの教師、本当にさあ。もうちょっとどうにかならないものかな。

 廊下は走らず、おしとやかに進み。昇降口でローファーに履き替えて、校門に向かう。

 前庭のバラ園を通り過ぎた辺りで、坂の下の校門の鉄柵の脇に十津見が立っているのが見えた。


「雪ノ下千草。遅いぞ。何をのろのろしていた」

 開口一番、そう言われる。

「申し訳ありません。大急ぎで参りましたが、何しろ廊下を走ってはいけないことになっていますので」

 厭味たっぷりに言ってやる。

「先生こそ、こんなところで何をなさっているんですか」

 こんな人気のない場所に呼び出すとか、やめてくれ。万一、告白とかされてもあなただけはゴメンです。


「門番というところだな」

 十津見はいつも通り、冷ややかな口調で答えた。

 ああ、それは先生にぴったりのお仕事ですね。背が高いし、いつも不機嫌そうでムダに威圧感あるし、態度も口調もぶっきらぼうで攻撃的だし。そこでずっと不審者対策をしていてくださると、学校も平和なのですが。


「前庭から、この鉄柵をよじ登って校内に侵入しようとしている不審者を発見してね」

 十津見は続ける。

「やめさせて訊問したところ、君の関係者だと言い張る。会わせなければ、無理やり入るの一点張りでこちらも迷惑している。雪ノ下千草、これは本当に君の知り合いか?」

 薄い唇が。厭味たらしく吊り上る。

「彼は、君の婚約者だと自称しているが。私の記憶では、君は交際届を学校に提出したことはないはずだが、どうなのだ?」


 雷に打たれた気がした。


 それを聞いて。初めて私は、鉄柵の向こう側に目を向ける。

 アンティークな鉄柵の向こうに。三つ揃いのスーツをスマートに着こなした、北堀克己がいた。

 いや、ズボンの太もものところに無惨な裂け目が出来てるな。真剣にこの鉄柵を乗り越えようとしたのか、この人。

 それは立派なヘンタイです。十津見が即座に通報しなかったことが奇跡だと思った。


「こんにちは、千草さん。元気そうですね」

 私と目が合ったソイツは、何事もなかったように。ごく当たり前に、挨拶した。


 頭がくらっとする。事態に、ついて行けない。


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