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花園で笑う  作者: 宮澤花
第1部 千草
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10 寮長のおつとめ -4-


 梅組に行き。藤花寮の寮長、平岡玲奈を探すと、案の定いなかった。楓葉寮の寮長である狭山里香と同じように、三時間目の途中で呼ばれて行ったきり、戻っていないらしい。

「ネタ明かしはないの」

 私を軽くにらむ紗那。

「そうね。時間がないから、また今度にしましょう。どうせ、すぐにハッキリすることだし」

 私は微笑んでおく。


 知識というのは、いろいろな使い方が出来るわけで。

 このように、知っているのに話さない、というのも自分を実際以上に賢く見せる有効な手立てである。特に、今のように持っているのが不確定な情報だったりする時は、この手に限る。


 まあ、花恋の話を元にすれば推測がつくというものだ。

 テニス部と同時に、小林夏希のいた楓葉寮、大森穂乃花のいた藤花寮にも警察の捜索が入るのだろう。警察の方も、そう何度もこの学校まで来るほどお暇ではないだろうし。

 でも、あくまで私の推測なので、ここは偉そうに知ったかぶっておく。


「それより、話というのはね」

 私は簡潔に、今朝のことを話した。

 今現在、緊急に生活必需品の補給に困っている者がいるだろうこと。それは外出禁止が長引くほど、増えていくだろうこと。

「だから、寮長全員で学校側に申し入れをしたいのよ。週一で買い出しに行かせてくれるか、あるいは注文して業者さんに来てもらえるように手配するとか、そういうことを」


「そうか。私もうっかりしてた。それは必要だね」

 紗那はうなずいた。

「里香が帰ってきたら私から言っておくよ」

「お願いするわ。私からも、二人にメールしておく」

 これで話は済んだ。もっとも、この件についても結論は明日になりそうだけど。


「じゃ、もうすぐ授業が始まるから」

「あ、紗那さん」

 教室に戻ろうとする彼女を、呼び止める。

「何? 他にも議題ある?」

 そういうわけじゃないのだが。


「あのね。私の妹……どうかな? 寮で、うまくやれている?」

 忍は、柊実寮の所属だ。


「ああ。雪ノ下妹」

 紗那はうなずいた。

「心配なことでもあるの?」

 逆に聞かれてしまう。


 まあ、あるから聞いているのだけれど。今の時点であまり細かく話しても仕方ないし、その時間もないし。

 だから私は、ううん、と言う。


「ただ、あの子、口下手だから。何か悩んでいても、周りにうまく相談できないかもしれないから。気を付けていてもらえると、助かると思って」

 紗那は、ふうん、と首をかしげる。

「そうか、そうだね。千草の妹とは思えないほど口数少ないよね、妹は」

 紗那さん! 前半余計。


「まあ、大丈夫だと思うよ」

 彼女は言った。

「多少はトラブルもあるみたいだけど、世話を焼いている人間も、いろいろといるし。それにさ、私、思うんだけど。あの子さ。誰かに付きっきりで守ってもらわなきゃいけないほど、頼りない子じゃないでしょ。やっぱり雪ノ下妹だと思うよ。一筋縄じゃいかないタイプだと私は見込んでるんだよね」

 ニヤリと笑う。


「何ソレ。どういう意味」

「だから、そういう意味。アンタの妹だよね。一見、ひとりじゃ何も出来なさそうだけど、ひと皮むけたらそんなもんじゃないと思うなあ」

 イヤ。どういう意味か分かりませんよ、紗那さん。


「まあ、寮長として責任があるから、もちろん様子には気を付けておくよ。うちの下級生が、他の寮の子からイジメに遭うとか許す気はないし。その点は安心しておいて」

 そう言って、紗那は竹組に戻った。

 同時に予鈴が鳴り、私もあわてて自分の教室に戻る。


 紗那とは三年と四年の時にクラスが一緒で、それなりに肝胆相照らした仲だ。

 アイツがああ言うなら、忍のことはしっかり看てくれるんだろうけど。


 紗那も、忍がイジメに遭っている、あるいは遭いそうだと感じている。それが分かって。

 安心することは出来なかった。


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