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花園で笑う  作者: 宮澤花
第1部 千草
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10 寮長のおつとめ -3-

 その間に。

「多くは言わないけど。その話、もうしないでやってくれ。千草はカワイソウなヤツなんだよ」

 とか言いやがりましたよ、私のルームメイト様は!


「あら」

 途端に撫子の目が輝く。誰か、コイツを何とかしてくれ。

「まあ、破談? もう、破談? いやだわ千草さん。どうして黙ってらしたの」

 そんな面白いことを。と、顔に書いてある。

 どうしてって、アンタのそんな顔を見るのがイヤだからに決まってる。他に理由はない。


「本当に、千草さんって面白いわね。付き合っていて飽きませんわ。血筋なのかしら、妹さんも話題にはことかかない方のようだし。もう、本当に面白いわ、千草さん」

 興奮した撫子の頬はキレイなピンクになっている。

 中味ゲスでも見た目はキレイ。そんなことわざを発明してしまった。


 あー、もう。これくらいの話で色めき立って。

 ホント女子校ってヤダ。

 何で女子って、他人の恋愛話が好きなのか。


 言っていることが首尾一貫してない? 知るか、そんなこと。

 坂田花恋に負けず劣らず。私は朝から、暗い気分になった。



 食事を終えた後はすぐに登校。昇降口で、晒し場に貼ってある名前を見直す。

 一年竹組、雪ノ下忍、柊実寮。

 それと並んで。一年竹組、古川弓香・星野志穂、藤花寮。一年梅組、笹井真理絵、楓葉寮。

 罪状、廊下等での私語。

 なるほど、コイツらですか。うちの妹を階段から突き落としてくれたのは。星野志穂さんもまじってらっしゃるな。よくも私の前で堂々としていられたモノだ。

 この名前は忘れないでおこう。卒業まで時間はないが、何らかの手は打たせていただく。


 ところで、その私の妹だが。昨日は気付かなかったが、よく見るとまた罪状が増えていた。

 一年竹組、雪ノ下忍、柊実寮。外出時の制服不着用。


 外出した時に、外で私服に着替えるという技を教えたのは私だが。忍、教師に見つかってしまったのか。よくよく運の悪い子だな。

 しかし、後期が始まってわずか一週間で校則やぶりが二回。ここに晒された違反については、いちいち保護者に連絡がいっているから。大森穂乃花の事件と合わせて、母が騒ぎ出すのも時間の問題。

 あー。そっちもメンドクサイな。


 頭をかく。髪の毛が乱れるが、まあいいか。どうせ、男がいるわけでもないし。

 女しかいないところで気取ったって仕方ないのである。



 ホームルームの後、すぐに担任に事情を話し、外出許可をもらいたいと申し出た。

「あー、そうだね。困るよね」

 担任の山崎孝子先生(生物担当)は、あっさりうなずいてくれた。教師も生徒も女だというのは、こういう時に話が早くていい。

 ああ、男性教師とか本当、いなくなってくれないかな。特に、十津見とか十津見とか十津見とか。


「申請用紙を書くことになっているから、後で持って来るね。それから悪いんだけど、学年会議にかけた後で校長か教頭の印をもらわなきゃいけないから、返事は明日になるよ。大丈夫?」

 そんなに面倒くさい手続きなのか、外出許可申請。絶対、十津見が考えたな。

 大丈夫です、とうなずく。当座の分くらいは手持ちがある。


 授業の合間に、山崎先生が用紙を持って来てくれたので、昼休みに昼食を食べた後、職員室に提出に行く。

 それから、急いで六年生の教室に戻る。渡り廊下を渡る途中で下を見ると、部室長屋や中庭を、紺の制服を着た男の人が何人も歩き回っていた。

 花恋が言っていた、警察の捜査とやらは進められているらしい。


 自分の教室には直接戻らず、隣りの竹組をのぞいた。

「紗那さん、里香さん、いる?」

 声をかけると、それを聞きつけて祖父江紗那がこちらへやって来た。彼女は、柊実寮の寮長である。

「里香はいないよ。三時間目の途中で、担任に呼ばれて行った」


 その言葉は想定の範囲内で、私はうなずく。

「そう。やっぱりね」

 紗那は軽く眉を上げた。

「何。思い当たることがあるの、千草。先生は何も言っていなかったけど」


 まあね、と肩をすくめる。

「寮長どうしで話したいことがあったんだけど。いないかもしれないけど、一応玲奈さんにも声をかけましょう」


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