10 寮長のおつとめ -1-
翌朝。おなかが重くて目が覚める。うー、この感じは。そろそろ、来るか。トイレで確認したが、まだその前兆はなし。だけど、一日二日のうちには確実に来る。女の子の、月に一度のおつとめが。
「あれ」
ふと、不安になり。自室に戻って、自分用のロッカーの中をかき回す。あー、やっぱり。そんな気はしたんだよね。
「何、朝からゴソゴソしてるの」
小百合が眠そうに聞いてきた。
「ナプキンがない。あと、袋半分しか残ってない」
うかつだった。途中に秋休みが入って、家に帰ったり。その後は事件が起きたりで。ゴタゴタしていて、買い出しに行くのを忘れていた。
「小百合、余ってない? 少し売って」
この量じゃ、絶対足りない。それなのに、百花園生は現在、校内に絶賛軟禁中である。
「ゴメン。アタシ、二日目。手持ちの分、自分の分くらいしかない」
お前もか。
「仕方ない」
私はため息をついた。
「外出許可申請をするわ。考えてみれば、急に外出禁止になって、困ってる子は私たちだけじゃないはずよ。ついでに、他の子の分も一緒に買ってくるわ」
それから。
ベッドの端から顔を出して、下をのぞきこむ。
「一緒に来る? 出るなと言われると、外に出たくならない?」
「んー。生理痛が来なかったら」
意外に生理痛が重いタイプの小百合さんは憂鬱そうに言った。
「じゃ、アンタの分も申請しておくわ」
私はあっさり言った。
申請するだけなら問題ない。体調悪くて行けなくなったら、それだけの話だし。しかし、申請しておかなければ体調が良かったとしても外出は出来ない。
「分かったー。やっといてー」
普段よりけだるそうな声。まあ、二日目なら仕方なかろう、その気持ちは分かる。
新聞を読もうと階下に下りると、共用ロビーで五年生の坂田花恋がだらしなくソファーに座っていた。彼女のお気に入りの、ピンクの地に三毛猫がいっぱいプリントされたホームウェアのままだ。
「花恋さん。だらしないわよ」
上級生として、注意しておく。
「早く着替えないと。朝食が終わったらすぐに登校しないと学校に間に合わないのに、いつまでもそんな恰好じゃダメよ」
「いーんです。いーんですよ、千草お姉さま」
坂田花恋はすねたような口調で言う。どうした、花恋さん。いつもはサッパリした性格なのに。
「私、今日は授業出なくていいんですー。だから、のんびりしてるんです」
わけがわからない。授業に出なくていいにしては、ちっとも楽しそうじゃないし。
「具合でも悪いの?」
と聞くと。
「元気いっぱいでーす。健康だったら売るほどあります」
と返ってくる。
「いったいどうしたのよ」
私は、少し厳しい口調になる。
「そんなんじゃ、何だかちっともわからないわよ」
花恋は大きくため息をついた。
「テニス部の部室に、警察が来るんですよ」
ガックリとした口調で言う。
「部員に二人も事件の被害者が出て。二人とも、ヤバい薬を持ってたって、十津見先生には叱られるし。昨日の朝から、鍵かけられちゃって部員も部室に入れないんです。今日、警察の人が来て捜査するんですって。テニス部全体で、ヤバいことやってるんじゃないかって疑われてるんです」
暗い声。
「私、部長だからそれに立ち会うんですって。やだなあ。これ以上、ヤバいものが出てきたら、うちの部、廃部になっちゃうかも。そうしたら、私、今までの歴代部員のお姉さま方に、何て言い訳したらいいのか」
なるほど。それは深刻だな。
「ねえ、花恋さん」
私は、新聞を諦めて。彼女の隣に座った。
「率直に聞くわよ。テニス部に、知られてまずいことはあるの?」
単刀直入が私のやり方だ。
撫子に言わせると「芸がな」く、小百合に言わせると「危なっかしい」そうだが。揺さぶったり、叩いたりしてみなければ、出るはずのホコリも出ないだろう。
「そんなことないです」
花恋は憤然と言った。それから。
「ない……と、思ってたんです、けど」
自信のなさそうな口調になってしまった。




