7 婚約者に会いに -3-
交際届に署名捺印をしてくれた後。
「外で食事をしてから、指輪を買いに行きましょうか」
克己さんが言った。
あー。そんなイベントもあったっけ。(もはや投げやりな私)
「一応、調べてみたんですが」
私は言うだけ言ってみる。
自分がもらうものだし、どうせなら趣味にあったものをいただきたい。可愛いジュエリーを扱っていて、それほどお値段が高くない店、いくつかネットで探してみたんだけど。(この人に高級店は期待できないと思うので)
スマホを取り出して、自分が探しておいた店の案内を見せてみる。
「そこがいいですか?」
克己さんは困ったように言う。ここでも高すぎたか? ううむ。どの程度ならいいんだ。
「実は、前に仕事で関わった店がありまして。安くしてくれるらしいから、そこへ連れていこうと思っていたんですが」
あっはっは。世の中そんなもんだよね。まあ、買ってもらう身として贅沢は言えないが。
「どちらのお店ですか?」
あんまりにもひどい店だったら。何とか、変えてもらうよう交渉してみよう……。
克己さんは店の名前を言った。
それは。想定外の、超高級店だった。
「はい?!」
意外すぎて聞き返してしまう私。
いや、待て。似たような名前の、違う店っていうこともある。むしろ、そういうオチの方がらしいというか。
「ここ……ではないですよね?」
それでも、ついホームページを検索して確認してしまう未練がましい私。ううむ、やはり宝石には女を引き付ける魔力が。
「ああ、そこです。ご存知でしたか」
この人、アッサリうなずきましたよー!
「い、いいんですか」
再確認してしまう私。
「何がですか」
不思議そうに聞き返す克己さん。
ちょっと。この人、大丈夫なのか。いや、確かに代議士さんちの坊ちゃんだけど。それにしても。
この商売、もうかってなさそうに見えて実はもうかってるのか? それとも単に、収入の範囲で支出が出来ない困ったちゃんなのか? 見極め出来ないぞ。
「じゃあ、出かけましょう。混みあう前に食事を済ませたい」
さっさと立ち上がり、連れ出される。ああ。出口の見えないジェットコースターに乗ってしまった気分。自分が進んで乗ったのだというところが、情けないが。
お昼はチェーンの牛丼屋だった。この人、セレブなのか貧乏なのかハッキリしてほしい。お気に入りのワンピで牛丼を食べる私は、明らかに店の中で浮いていた。
それを言えば、三つ揃いのスーツで大盛り牛丼を食べる克己さんの方がもっと浮いている気もしたけど。そういえば、このスーツ高そう。うちの父は着道楽で、いい服を買いたがるんだけど、それに負けない生地のような。
食事時間、十五分。早くて安くておなかいっぱいになるのが牛丼屋さんの売りだもんね。
ああ、何かが激しく違う。
「行きましょうか」
口許をふいていると、克己さんが言った。化粧を直したいんですが。ダメでしょうか。
それはともかく。
指輪をもらう前に、私にはハッキリさせておかなければいけないことがある。
「克己さん」
私は。まっすぐに彼を見て、言う。
「その前に、一緒に来ていただきたいところがあるんですけれど」
克己さんは、茶色っぽい目を瞬いて、不思議そうに言った。
「どこですか」
「行けばわかります」
私は言った。




