表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花園で笑う  作者: 宮澤花
第1部 千草
26/211

6 後手を踏む -2-

「こんなところで、何をなさってるんですか?」

 思いっきり不審そうな顔。そりゃそうだ。私たちはいつの間にか、三年生の教室近くまでたどり着いていた。用もないのに上級生がウロウロしているのは、大変不自然な場所である。


 小百合は一瞬黙ったが。すぐに胸を張った。

「アンタの得意顔を見てやろうと思ってさ! 提案、受け容れられたようだな。十津見のお気に入りになった気分はどうよ。気に入られると、あの陰険男、少しは便宜図ってくれんの? アタシだったら、死んでもゴメンだけどね!」


 よりによってこの女、ターゲットにケンカ売ったんだけど! 何考えてんだ、脳筋女! アホか!

 私はため息をついた。こうなったら仕方がない。肚をくくろう。


「小百合さん。いい加減になさい」

 私は。声を張り上げて、ぴしりと言った。

 小百合の目が真ん丸になる。私は構わずに、追い打ちをかけた。

「下級生に対して言いたい放題。それが最上級生のすることですか。友人として情けないわ。恥をお知りなさい」


「ちょ、ちょっと千草」

 小百合の口がポカンと開く。その顔は莫迦に見えるからやめろと、一年生の時から再三言ってやっているのに。物覚えの悪いヤツ。


「ごめんなさいね、大森さん」

 私は小百合を無視して、大森穂乃花に顔を向け、丁寧に頭を下げた。

「私が悪いの。この人が貴女に失礼なことを言ったと聞いて、何とか謝らせようと思ったのだけれど。余計に不快な思いをさせてしまったわね。ごめんなさい」


 必殺! 友を斬り捨て自分だけ前に進む技!

 すまぬ小百合。しかし大義のためだ、わきまえよ。甘んじて犠牲となってくれ。


 私は小百合を振り返り。思い切り、見下げた表情を作る。

「莫迦につける薬はありませんね。呆れ果てたわ」

 ここのところは、掛け値なしの本音だから演技の必要がなくて楽だ。


 小百合は愕然とした顔をして。

 それから。

「千草のバカやろおお~~! 冷酷非情女~!」

 とか叫びながら、走り去ってしまった。失礼な。私は野郎じゃない。まあ、後で何かエサを与えれば懐柔できるだろう。


 こうして私は、大森穂乃花と二人きりになった。

「あの。お姉さまは」

「昨日、保健室の前でお会いしましたわよね」

 私はニッコリ微笑む。

「雪ノ下千草です。お見知りおきくださいね」


 彼女はとまどった顔をする。

「私のこと、知ってらっしゃるんですか」

 それはもう。思いっきり挙動不審だったからね。

「とても可愛らしい方ですもの。記憶に残りますわ」

 そう言って、私は微笑み。


 次の瞬間、核心に切りこむ。

「貴女とはもっと、いろいろなことをお話したいわ。たとえば、『フェアリー』のこととか」


 相手の表情がこわばる。白い顔から、更に血の気が引く。

「どうして、それを……?」

 唇から。うわごとのように漏れる声。どうやら、ビンゴだ。

「どうして。どうして分かるの。分からないって言ったのに。守ってくれるって、言ったのに……」

 混乱した顔。怯えきった目。もう一押しで、彼女は落ちる。


 私は。彼女の方に一歩踏み出し。動揺した彼女を絡め取ろうと、手を伸ばす。

 それを。


「穂乃花さん。先生がお呼びよ」

 後ろからの声に邪魔された。


 何人かの三年生がやって来て。不思議そうに私と穂乃花を見ている。

 彼女はハッとしたように後ろを振り返り。そして、挨拶もせずに走り去ってしまった。

 残された三年生たちはその背中を呆れたように眺め。それから、

「お姉さま、御機嫌よう」

 と申し訳程度に挨拶して、立ち去った。


 私はひそかに歯噛みした。

 獲物を捕らえそこなった。分かったのは、彼女が「フェアリー」を知っていることだけ。

 

 しかし、逃してしまったものは仕方ない。

 とりあえず標的はハッキリした。近いうち、もう一度彼女を捕まえ、知っていることを吐かせよう。

 撫子に相談して、そのための罠を考えなくては。

 あー、小百合も何とかしなきゃ。コンビニの限定まんで、買収できるかな?


 そんなことを考えながら、三年生の教室に背を向けた私は。

 次の日に起きることを、まだ予想もしていなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ