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花園で笑う  作者: 宮澤花
第1部 千草
24/211

5 花園の祭典 -4-

 頭が固くて、真面目なタイプだけどなあ、と、小百合は首をかしげる。まあ、そういうタイプだからこそ裏の顔があったのかもしれないのだ。


「他には? 撫子」

 私は続きを促す。

「小林さんの親しかった方たちの名前が分かってよ。一番の仲良しは、ルームメイトの笹井真理絵さん。部活も同じテニス部。クラスでは、古川弓香さん、星野志穂さんと一緒にいることが多かったみたい。二人もテニス部で、寮は藤花。部活で仲良くなったようね」

 なるほど。まあ、よくある話だ。


「その三人は、どんな子なのかしら?」

 たずねる。それは要するに、フェアリーだの、掲示板だの、剣呑な言葉に関わりがありそうかということだ。そうであるなら、彼女たちに当たればいい。

「それがね。どうも、その子たちはお花屋さんには関係ないみたい。例の名前を知っているらしい子もいないのね。だから、私としては、どこから夏希さんがそこにたどり着いたのか。ぜひ、それを知りたいのだけれど」

 撫子の顔に、ちょっと不満そうな表情が浮かぶ。知りたい情報が手に入らないのだから、さぞ悔しいのに違いない。


 私も考える。

 普通、学生間では。薬物は友人・知人関係を通じて広がる。一人がやっていれば、その周囲を当たれば同じように薬をやっている者、そこまでいかなくても何らかの情報を持っている者に突き当たるはずなのだが。

 撫子が調べて、その形跡がないのなら、彼女たちは白なのだろう。


 でもだとしたら。小林夏希は誰から、どうやって薬を受け取っていたのか。援交掲示板はどう関係してくるのか。分からないことだらけだ。


 とりあえず、今のところ出来そうなことは一つだ。

「明日、大森さんに会ってみるわ。彼女と小林さんに何か接点があれば、見えてくるものもあるかもしれない」

「わかった」

 小百合がこちらに向き直った。

「穂乃花なら、アタシ、風紀委員会で面識がある。一緒に行くよ。それなら、不自然じゃないだろ?」

 ついて来たいらしい。

 ううむ。確かに、見知らぬ上級生がいきなり訪ねていくより、その方がマシか?


「いいわ、そうしましょう」

 私はうなずいた。

「よろしく頼むわ、小百合」

 公園の芝生から立ち上がる。スカートから枯草を払っている時に、撫子が言った。


「ところでね。本筋とは関わりないんだけれど」

 ねちゃっとした口調。うわ。すごく嫌な予感。

「何? 撫子」

「千草さんの妹さんのことなんだけど」

 自分の表情が険しくなるのが分かる。昨日のことで覚悟はしていたけれど、やっぱり忍の名前が出ると、落ち着かなくなる。


「夏希さんとはね。六月くらいから、急速に仲が悪くなったみたいなの」

 撫子はそう言いながら、いっそう嬉しそうに微笑んだ。この女、本当に性格悪いな!

「それまでは、まあ、気の合う方ではなかったけれど、普通のクラスメートだったのね。それが、突然」

「きっかけは? 意見の衝突? 趣味のかぶり? それとも」

 私は。一年生くらいの年ごろで、仲たがいの原因になりそうなことを思いつくまま上げてみる。

 

 後は、好きなタレントどうしが仲悪いとか、そんな下らない理由で決裂することもあるが。忍はそんなに、TV番組に興味がない方だ。だから、そういう理由はあまり当たらないような気がする。

 まあ逆に、知らなすぎて浮いてしまうということはあるかもしれないが。

 

 撫子は、首を横に振った。

「違うの。そういう、分かりやすい理由は何もなかったらしいのね。なのに、ある日を境に険悪になった」

「何、それ」

 私は。狐につままれたような気分だった。雲をつかむような話だ。


「わけがわからないでしょう?」

 撫子はなぜだか嬉しそうに言った。

「だから、私、思ったの。これはいよいよ、千草さんの出番だわ、って」

 渋面を作る。私は別に、名探偵ではないし。そんなことを言われても。

「ね。興味があるでしょう」

 撫子はにんまりと笑う。

「私、気になって気になってたまらないの」


 それは。もっと私の妹の身辺を探る、ということだ。

 大変不愉快だが。事件と関係があるかも、と言われてしまっては断る理由がない。


「忍とは、私も機会を見つけてまた話してみる」

 私はそう言って、撫子から目をそらす。


 あの子が何を知っていて、どう関わっているのか。きっと、知らないフリをしてはいけないのだろう。

 正面から立ち向かう。その覚悟がなくてはきっと、真実に迫ることなど出来ないのだから。


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