第四節 頂点に立つ者②...氷の国の王と出会った
「ここ、本当に南極じゃないの?」
聳え立つ氷の山を見下ろして、俺は感嘆な声をあげた。
「『夏休み』だからって行くような場所じゃないよ、ここは。」
見渡す限り雪原、雪原、雪原...山自体が薄く奥の方が見えて、本当に氷で出来ていた氷山。幻想的で美しく、光を反射したのか、時に虹色の氷をも見せてくれる。
最高だ!これ以上にないくらいに最高だ!
まさかこの様な場所が、この世にあるとは...氷の国、舐めていたわ。
「姉様姉様!ここはまだ『転移魔法陣』だよ。
まだ驚くには早い。」
雛枝は楽しそうに俺を見つめて、氷山の下に指差す。
「ここはただの入り口。感情を抑えて、この下に降りてからが本番だよ。」
「へ〜、そうなんた!
白い雪以外何も見えないけど、一杯人が住んでいるのかな?」
ヤバイ!本当に楽しみになってきた。
見るから寒そうな場所だけど、だからこそ住んでみたいと、冒険心が刺激される。
どんな人達が住んでいるのだろう?
厚い毛皮でできたコートを羽織って、朝は外でハンティング。夜は暖炉に囲み、蝋燭を灯して一日の出来事を語り合う。
ハーァ、ワクワクする!
「マオちゃん、早く降りて!早く色んな所に行きたい!私を降ろして!」
言いながら、俺はマオちゃんの体を揺らす。
「ちょ!揺らさないでください、お嬢様!あたしも降りたいが、まず降りれる場所を見つけないと...」
「そんな一杯あるじゃん!有り余ってるじゃん!
適当に広い場所を見つけて降りればいい。飛行機じゃないんだから、ヘリコプターはどこでも簡単に降りれるよ!」
「いや、他国の領土ですから、『適当』にできませんよ。
まずは旦那様が契約した場所を見つけて、そこに正しくヘリコプターを止めなきゃ。」
「はぁ?」
お父様が契約した場所?
他国の領土に勝手に降りられないって話、分からなくはない。だけど、降りれる場所が欲しいだけに、「場所」を買ったのか?
流石お金持ち、やる事なす事スケールが大きい。
「別にどこに停めても良いよ。
文句を言いに来たら、あたしが黙らせてあげるから。」
雛枝が言った。
「雛枝お嬢様、とても心強いですが、お嬢様を唆さないでください。
本当にもうすぐ着くから、後ちょっと我慢していてください。」
そう言って、マオちゃんは小声で「国際問題は懲り懲りだ」と呟いた。
過去に何があったのかな?
そして、ヘリが氷山の真上に着いた。
「お嬢様、下を見て、人がいるでしょう?」
そう言って、マオちゃんは氷山の上を指差した。
俺は言われた通りに下を見たか、氷山の崖辺りに、小さな人影が何人を見つけた。
よく見ると、手を振っているようにも見えた。
「流石『鷹の目』。あんな小さな人の姿も見えるのだね。」
「いいえいいえ、『鷹の目』はその程度なものではありませんよ。
マオちゃんは2時間前から見えてましたよ。だから『もうちょっと待って』と言いましたよ。」
2時間前...約2千キロメートルの先が見えるって事、「鷹の目」は?
ちょっとした望遠鏡だな。
「あれ?
マオちゃん、さっき『見つける』って言わなかった?」
「ちょっ、ちょっと見失っちゃって...へへっ。」
笑って誤魔化すマオちゃん。
こういう所がツメが甘いんだよな、マオちゃんは。自分の言葉に責任を取れないというか、調子に乗ると見栄を張るんだよ。
「姉様姉様。あたし、先に降りるね。」
そう言って、雛枝は俺の手を放した。
「え、何で?
一緒に降りれば良いじゃない?もうここまで来てるんだから。」
「ふふ〜ん、ちゃんと姉様をお迎えしたいの。
またね。」
手を振って俺に別れを告げる雛枝、ドアを開けずにヘリを出た。
違法で使用不可の筈の転移魔法を自由に使える、俺の双子の妹。そのフリーダムさに、俺は言葉を見つけずに、口をポカンと開けた。
ワザとです。このくらいに呆れていると人に教える為です。
「もうすぐで降りますね。
服のボタン、全部きちんと締めましたか、お嬢様?」
「私を何歳児だと思ってるの、マオちゃん?帽子だって、ちゃんと被っているよ。」
外の寒さがヘリの中まで伝わってきて、手袋まで今つけた。
上は服四枚と分厚いコート、下はストッキングだけでは到底足りずにズボン三着に防寒靴...まだまだ足りないと思えるくらいだが、もう着る服がない。
どうしよう?
外で燥ぎたいが、ヘリから出たくない気分だ。
「にゃ〜ぉ。」
膝のタマがようやく起きたか、大きな欠伸をした。
そしたら、何を思ったか、俺の服の中に入ってきた。
「え?タマ!?」
「ぅにぉ〜ん。」
タマは俺の服の中でもぞもぞして、最後は頭だけを襟から出し、「にゃ」と鳴った。
か、可愛い!
そして、暖かい!小さい暖炉だ。
タマ、最高!
「マオちゃん、猫にならない?」
「...いきなり、何を言うのですか、お嬢様?
『返り変幻』の話?だとしても、マオちゃんは鳥になるのですよ。」
「そうよねー、ファルコンだもんね。」
人は欲しい物が手に入ると、更に多く欲しくなる最低な生き物だな。
......
...
ヘリが氷の上に停まった。
「...エンジンを止めてっと。よし!
お嬢様、もう降りてもいいですよ。」
ヘリの羽が回転をやめた時、ようやくマオちゃんから出る許可を得た。
それを聞いた次の瞬間、俺はドアを横に引っ張り、ヘリから飛び降りた。
「あっ...」
足が氷の上に着き、気付いた時には、俺は既に背中で着地していた。
興奮しすぎて、氷が滑る事を忘れていた!
「だ、大丈夫、姉様!?」
一足先に降りた雛枝は俺に駆け寄ってきた。
氷の上で、走ってきた!
「溶けない千年氷でも、表面の方は少し溶けやすくて、滑るよ。
頭、ぶつかってない?一つのリンゴを二人に分けたら、それぞれリンゴ何個手に入る?」
「大丈夫、頭は。咄嗟に手で庇った。」
服をかなり着込んでいるから、背中もそれ程痛くない。
ただ、「恥」で頭痛がする。恥ずかしくて、今すぐここから逃げ出したい。
「姉様、あたしの手を掴んで。」
そう言って、雛枝は俺に手を伸ばしてきた。
その手を掴んで、俺は彼女の手伝いで立ち上がった。顔が凄く暑いのだが、足に力を入れて、逃げないように踏ん張った。
「改めて、姉様。ようこそ、氷の国へ。いらっしゃいませ!」
そう言って、雛枝は俺に向かって、両手を広げた。
「え?あぁ...
ありがとう。」
俺は言葉を忘れて、ぎこちない笑顔で返事した。
この事がしたくて、先にヘリを降りたのか。
可愛い事するじゃないか、妹よ!
「では、お嬢様。あたし達は一度、御屋敷に戻りますね。」
「え?」
「あたし達の長期滞在は許されていないんですよ。ですから、一度屋敷に戻りませんと...」
って事は、マオちゃんと紅葉先生は一緒に旅行しに来ない?
水着、女の子...また減った!
「えぇええええええええ?」
最大限の嫌がりを見せた。
「最近のお嬢様は優しくて、嬉しい」とマオちゃんは苦笑いして、それでも頭を横に振った。
「この太古の遺物を操れるのはあたししかいません。あたしがちゃんと責任を持って、持って帰らなきゃ...」
「それで、紅葉先生も行くのでしょう?」
「まぁ、燃料ですので。」
「えぇえええええええ?」
メイド隊、タマを除いて、誰も来てねぇじゃん!
お父様に完全に嵌められた!
ってか、マオちゃん、はっきりと紅葉先生を「燃料」と言った!勇気ある!
大丈夫なのかな、マオちゃん?帰りは紅葉先生と二人きりなんだよ。生きて帰れる?
隣の紅葉先生を見つめる。
「慣れてます。」
紅葉先生は俺に見つめ返して、頷いて一言だけ口にした。
まだ何も言っていないのに、俺の言いたい事が分かったのか?
本当に分かって、頷いてくれたのかな?何の勘違いも入っていない?本当に?
「マオちゃん、元気でね。」
今生の別れを告げるかのように、俺はマオちゃんを見つめた。
「はい!マオちゃん、元気でいますよ!」
嬉しそうに、マオちゃんはヘリのエンジンをまた入れた。
「では、お嬢様がお帰りになる時、また迎えに来ますので。
夏休み、楽しんどいて下さい!
バイバイ、お嬢様!」
ヘリを上空に浮かせたマオちゃんは、ヘリのドアを開けたまま、俺に手を振る。
羨ましい。
「紅葉先生、マオちゃん、バイバイ!
うっかりお父様を殴り飛ばしても、私はマオちゃんの味方だからね!」
だから、うっかり殴って来い、マオちゃん!君に期待しているよ!
「よく分かりませんが、分かりました!」
それだけを言って、マオちゃんはヘリのドアを閉めた。
紅葉先生の「バイバイ」がなかった。元々がクールだし、今は多分寝ているから、仕方ないかもしれないが、ちょっと寂しい。
「姉様姉様姉様!」
言いながら、雛枝は俺の手を掴んだ。
「早く入国手続きを済ませて来ましょう!連れて行きたい場所が沢山あるわ。」
「入国、手続き...」
ンなめんどくせぇ事しなきゃいけねぇの?
...異世界、仕事しろ!
そんな事を思いながら、俺は雛枝に引っ張られて、氷で出来た大きな建物に入った。
......
...
「パスポートをお願いします。」
「えっ」
入国審査官の言葉を聞いて、俺はその場に立ち尽くした。
パスポート?貰ってないんだけど!
「あの、その...」
「書類を貰ってなかったのですか?それは失礼しました。」
「あ、いやぁ...」
書類?入国申請の書類とか?
何も聞いてないんですけど!
「はい、どうぞ。」
そう言って、俺は審査官から一枚の紙を渡された。
紙だ。
真っ白い、ただの紙だ。
「え?」
これをどうしろっと?
「初めてですか?」
「え?あ、はい。」
初めて?
男にとって、「初めて」という単語は非常に魅惑的で、一瞬でヤラシイ想像を張り巡らせてしまうが...とりあえず落ち着こうか、俺!
「この紙の上に手を添えて、自分のパスポートを思い出しながら、『現』と口にするのです。そうすれば、貴女のパスポートはこの紙に現れて、私がそれに印鑑を押せば、手続きが終わります。
親しくない人に自分の『念話印』を教えると同じやり方ですね。」
そう言って、審査官は俺に微笑んだ。
優しく教えてくれて、ありがとうございます。でも、ごめんなさい。やはり分からない。
「どうしました?」
「え!?いや...」
首を伸ばして、先に向こうに行った雛枝を探す。
...いない。
「予約してくる」とか言って、雛枝は俺を一人に残して先に海関を通った、彼女が何を予約しようとしているのも分からないまま。
俺も「後は通るだけだろう?」と軽く考えて、彼女を引き止めなかった。今はその所為で困った状況に陥った。
「...すみません、パスポートを提供して頂けないと、私達は法に則り、貴女を自分の国に強制帰還させなければいけません。」
そう言って、優しかった審査官は真剣な表情で俺を睨んだ。
「パスポート、ありますよね?」
「いや...実は、魔法が使えないんだ。」
仕方なく、自分の事情を説明した。
だけど、審査官の顔が更に険しくなった。
「魔法が使えなかったら、出国時の手続きだってできないでしょう?そんな幼稚な言い訳が通ると思っています?」
いや、「言い訳」じゃなく真実だぞ。本当に俺だけが魔法を使えないんだ。
「偶に居るのです、貴女のような『不法入国者』。自分の可愛さが全世界に通用すると思っている勘違い女。」
「いや、思ってないけど...」
「平民の時代が始まり、もう何年過ぎていると思っています?
五百年以上過ぎているのですよ。
二百年前なら、まだ通れる海関はあったかもしれません。でも、今はあり得ません。
どれ程遅れている地域でも、他国に行き、出国の際に必ずパスポートを発行します。その時、必ず魔法を使う事になります。
魔法が使えないとか、パスポートが発行されなかったとか...もっとマシな言い訳を考えてから、来てください。」
「別に嘘じゃないんだが...」
「では、どうやってここに来れたのです?」
「えっと、ヘリコプターで。」
「へりこぷたー?」
「空を飛ぶ太古の遺物で来ました。」
「本当に不法入国じゃないですか!」
審査官は立ち上がって、俺を睨みつけた。
「にゃ?」
俺のピンチに察知したのか、タマは俺の服の中から頭を出して、俺の見つめた。
よりによって、このタイミングで...
「何ですか、それは?動物?」
「あー...」
「見た事のない動物ですか。まさか、ペットと言い張るつもりですか?」
「いや...」
もし、俺がいつまで経っても海関を通らなかったら、向こうの雛枝もきっと変と思って、確認しに来るはずだ。
ならば、俺がやるべきことは、出来るだけ時間を引き延ばす事。雛枝が来るまで、審査官と会話を続ける事のみ!
なんて、実はただこのピンチを楽しんでいるだけだけとな。後ろに待っている人もいないし、この審査官に思う存分、迷惑を掛けてあげよう。
「家族です!」
「は?」
「この子は私の家族です!ペットと呼ばないでください。」
俺の言葉を聞いた審査官は頭を抱えた。
「あのですね、『家族』と呼ぶのは飼い主さん達の勝手だが、ちゃんと予防接種はしましたね?
地上種みたいだけど、我が国の特殊な環境に耐えられる動物です?同意書書きました?
こんな見た事のない動物、そもそもどうやって出国出来たのです?」
「いや、一緒のヘリに乗って...」
「そうだった...」
審査官は両手で自分の顔に添えて、本当に頭を抱えた。
「申し訳ありませんが、貴女を強制的にご自身の国に帰らせなければいけません。」
「えぇええええ?」
「上司に報告しますので、まずはお名前と生年月日、出身国を教えてください。」
「嫌だ、めんどくさい。」
「『嫌』って...」
審査官は手で頭を押さえて、困った顔を見せて暫し、急に何かを思い出したかのように俺を見つめた。
「お嬢さん、歳はいくつです?」
「歳?」
そう来たか...
「じゅうよんさい。」
幼さを感じさせるような口調で、審査官に歳を教えた。
「十四か。」
「見た目より歳を取っている」とでも言いたげに俺を見つめる審査官、その視線が一瞬「胸」の方に向けたと感じたが、ただの俺の気のせいだと思いたい。
「ご両親は?」
「お母様に会いに来ました。」
「そうですか。
では、『お母様』を呼びますので、お名前を教えて頂けませんか、お嬢ちゃん?」
「守澄奈苗。」
「守澄ね。」
復唱しながら、俺の名前をメモ取る審査官、また何かを思い出したか、俺の苗字を何とも口にした。
「銀髪に『守澄』の苗字...『お母様に会いに来た』と...
お嬢ちゃん、出身国も教えて頂けませんか?」
「日の国。」
「『日の国』...」
ここまで言ったら、この審査官も流石に俺の正体が分かったようだ。
審査官は暫く俺を見つめてから、達観したような表情をした。
「私が扱える範疇を超えています。
守澄さん、別の担当者に代わりますので、ちょっと待ててください。」
「え?分かった。」
担当者を変える?上司を呼びに行くのかな?
と思ったら、普通に隣の審査官を呼びに行っただけだった。
そして、呼ばれてきた人は長身な男性で、憂いのある表情で俺に小さく微笑んだ。
「僕の国へようこそ、守澄奈苗さん、ご令尊から話を聞いています。」
「あ、ども。」
またイケメンだ...もうイケメンは懲り懲りだぞ!
何だろうこの、俺の運命って奴は?可愛い女の子を次々俺の側から離れさせ、イケメンをどんどん俺の近くにぶち込む!
神様は俺に何をさせたいんだ?メイド隊の皆さんを屋敷に残させて、わざわざイケメン男子を俺の審査官係に変えさせる。何の嫌がらせだ!
「その、パスポート何ですけど...」
「えぇ、聞いています。魔法が使えないんでしたね。
すみません。我が国の上層部に住む人の多くが白い髪の毛を持つ故、特定するのが遅くなりました。」
「あー、そうですか。」
よく見たら、この人も銀髪だった。「上層部」に銀髪が多いって事は、この人は偉い人?
「えっと、妹が向こうに行ってるので、出来れば早く会いに行きたいのですか。」
「はい、では。」
そう言って、この男性審査官が普通にドアを開けて、俺を通した。
「え、いいの?」
「はい。話は聞いています。」
「そう?」
あっさりと...やっぱ、この人は偉い人なのかな?
さっきの入国審査官と同僚だと思ったが、ただ人手不足で、現場に借り出された「中間管理職」?
...俺の後ろに誰もいなかったし、他の所も大して人はいない。全然「人手不足」じゃないんだか。
「いいの、本当に?」
「はい。
どうしてそんなに怯える?」
「だって、私は『不法入国』みたいだし、動物も『所持』しているし、見逃したら上司に怒られません?」
俺の心配を聞いた男性は「あぁ」と口にし、とても優しい微笑みを見せながら、上着のポケットから一枚の名刺を渡してくれた。
「伝えるのを忘れてました。
僕、麟 久人と言います。種族は麒麟。
現『氷の国』の国王でもあります。」
「はぁ...え?」
国王...氷の国の国王!?
「えぇ、王様!?」
「はい、一応。」
俺はポカンと口を開けて、目の前の「王様」を見つめた。
「姉様ぁああ!」
ようやく異状に気付いた雛枝は手を振って、俺達に駆け寄ってきた。
「どうしたの?何でこっちに来ない?」
「あ、あぁ...」
雛枝に言われるがままに、俺はとりあえずドアを通った。
しかし、ドアを通った後でも、俺は続けて「王様」を見つめた。
このイケメンが「王様」?何でここにいる?普通は「王宮」とかにいるんじゃないの?
「雛枝、この人、王様。」
あまりの驚きに、俺は片言喋りになった。
「えぇ、知ってるけど?」
「何かおかしかった?」とでも言っているように、雛枝は俺の顔を見た。
俺がおかしいのか?
いや、絶対、俺、おかしくない。
「あ、あの、王様?」
「はい、何でしょう?」
「あの、ちょっと、聞きたい事が...」
今から自分が訊こうとした事は、とてもデリケートな事で、万全な注意を払わなければいけない。
そう思うと、俺の胸中がざわつき、言葉が喉まで出かかっているのに、うまく口にできないでいる。
「こんな事を聞いていいかどうか、分かりませんが...その、失礼だと思いますが、やはりどうしても気になって...」
その王様の今の考えが知りたくて、その顔を見つめたが、すぐに怖くなって、顔を俯いた。
でも、もし聞いちゃういけないことだったら、言葉で怒られる前に、顔の表情から察して、自分から聞くのを辞めた方がいい。そう思うと、やはり表情を確認したく、チラッと覗くように上を向いた。
「その、王様。怒らないで聞いてほしいのですが...別に悪意はないので、勘違いしないでください!
ホント、ただちょっと気になっただけで、他意はなく、その...」
「いいよ。
大丈夫、なんでも訊いて。」
王様はとても優しい声で俺を慰めた。
それを聞いて、俺も覚悟を決めた。
「あの、王様。
............どうして王様が『門番』みたいな事してるの、です?」
「......」
「......」
無言~...
「あははははは!
なんた、そんな事か!きゃはははは!」
沈黙を打ち破ったのは失礼にも、俺の双子の妹の雛枝の方だった。
「雛枝!私の方がもう十分失礼な事をしたのに、君まで失礼な事をして、どうするの?
笑うのを止めなさい!」
「あはははは...あぁ、おかしい。もうホント、おかしい!
あはははははは!」
「もう、やめろ!
さ、一緒に王様に謝るんだ!さぁ!」
雛枝の肩を掴んで、強引に氷の国の王様と向き合わせた。
そして、俺達が一緒にその王様に謝ろうとする前に、王様の方が先に口を開いた。
「別に大した事じゃありません。僕の国を、僕自身が護っているようなものですよ。」
そう言って、彼は隣の審査官に「ちょっと離れます」と声を掛けた。
声を掛けられた審査官は嫌そうな顔をしながらも、「はぁ」と溜息を吐いて、だるそうに手を振った。
いいのか?君達の国王陛下だぞ!
「少し休憩室に寄らない?貴女達が本当に知りたいと思っている事、そこで答えましょう。」
「あ、うん。」
俺は頷いた。
「姉様、行きましょう。まだ結構長い道のりになるし、要らない寄り道はしないようにしよう。」
双子の妹は怖いもの知らずのようだ。
「いや、あのさ、雛枝...はぁ。」
溜息を吐き、俺は「正しいが無駄な説得」を止める事にした。
「長いヘリの移動、私はちょっと疲れているの。少し休憩がしたい。」
代わりに別の事を言って、「実は関係ないが、感情を揺さぶる説得」をする事にした。
「そうなのか!
ごめんなさい、姉様。あたし、ようやく姉様に会えて、感情が高ぶって周りが見えなくなっているようだね。」
そう言って、雛枝は可愛い笑顔を俺に見せた。
可愛い。そして、とてもお利口さんだ。
「来ます?」
王様が最後に一度俺達に確認を取る。
「...お邪魔します。」
俺は王様に上目で見つめ返して、会釈した。
そして、俺達は王様の後に続き、氷で出来ていて、しかし外から中の見えない部屋に入った。
......
...
「姉様姉様?」
「ん?」
「あたしはてっきり、姉様が国王様に恋したかと思ったわ。」
「はぁ...
いや、ない。それはない。」
「さっきの行動がとってもそれっぽかったよ。無意識ですか、姉様?」
「意識してやってはいないが...実際、あの時に訊ねた話って、結構デリケートなものでしょう?
しかも王様相手だから、恐縮はするよ。」
「あはははは。あの質問、面白かったね。
当たり前のようにずっとそこで働いていたから、忘れてたよ、『国王陛下は偉い人』だという事を。」
「忘れるものなのか?
お父様といい、雛枝といい。『王様』を無下にしすぎだよ。」
「そうかな?
...そうかもね。
喰鮫組と一応、敵対関係だからね。」
「ライバル?何かで競争してんの?」
「えぇ、権力争いだわ。
聞いている...いや、聞いていないかもしれないが、うち・喰鮫組はマフィアだよ。」
「へ~...
......
......
...へっ!!!!」
そういえば、今まで出てきた名前のあるキャラを合計したら、35という数字が出てきた。
多すぎ?




