第二節 新の旅路の始まり④...おかしな王様と偉そうなお父様
何故か「二学期」を「三学期」に間違って入力したので、修正しました。
「王様?我が国の王様?何で?何が用事あるの?」
心の中に妙な高揚感が沸き、俺はお父様から離れて、自分が自分じゃないみたいに燥ぎ始めた。
「っていうか、用事あるとしても、普通はお父様を紙切れで『謁見』させるのが常識でしょう。王様自らここに来るのはおかしい!全くの逆!」
俺って、こんな性格だったっけ?貴族とか王族とか、特に気にしない性格だと思っていた。
それとも、「王様」というキーワードに魅せられたのか?やっぱり「王」となると、耳にするだけで、人の性格が変わるのか?
兎に角、今の俺はとってもテンションが高い!
「お、おおお父様!私、お化粧は大丈夫ですか?変なところありませんか?
お、お化粧直しをしなきゃ!お化粧室はどこですか?鏡!
リップクリーム、フェイスパウダー...いいえ、昨日のシャンプーで大丈夫かしら?王様は苦手な匂いとかあります?
あぁ、どうしましょう?何も用意していません!」
今更、自分の顔が気に始めた。
女の子?俺、女の子?
いや、女の子だけど!でも、心が男...今はそんなのどうでもいい!
「速く...早く何かをしなければ!」
「奈苗!」
急に自分の肩が大きな手に鷲掴みにされた。
その事で恐怖を感じたのか、心が一瞬ドキッとなって、頭が空っぽになった。
「お、お父様?」
緊張と恐怖で心臓がトクトクと激しく動くが、目の前の人に意識が集中する。
そこにはいつになく真剣な表情をしたお父様が居た。
「奈苗、時間がないから、今日君を呼んだ理由を教える。とても大事な話だから、ちゃんと聞け。」
「...はい。」
お父様に気迫で圧倒されたのか、俺は何も考えられずにお父様の言葉に従った。
心が盗られたかのように、糸に繋がれた操り人形になった気分。
こんな状態になった俺を見て、気のせいかな――お父様が小さな声で「よし」と言った。
その後、お父様はゆっくりに顔を近づけて、俺の目を見つめながら、オデコを俺のオデコにくっつけた。
「夏休みの間、君に、君の母の実家で過ごして欲しい。約一か月、そこで見識を広めて欲しい。
ただし、体調が酷く崩した場合は帰って来る事を許す。良い?」
お母様の所に?どうして急にそんな話をして来た?
ま、俺としても、一度は「お母様」に会いたいと思っているし、お母様と一緒に住んでいる双子の妹も会ってみたいと思っている。断る理由はない。
それに...何故か「断りたくない」と、今は思っている。
「奈苗は良い子だから、『お父様』の言う事を聞いてくれるんよな。」
優しい笑みを浮かぶお父様。
そんなお父様に、俺は...
「...いや。」
「...え゛?」
意味もなく反抗したくなった。
「何故きかない!?実の娘だから!?血が繋がっているから!?」
俺の反抗を少しも予想もしなかったのか、お父様は初めて俺の前で狼狽した姿を見せる。
「こんなの初めてだ!しかも奈苗相手だ!ありえない!」
机を何度も叩くお父様。
その異常な行動を見て、俺の方が逆に気持ちが落ち着いた。
「お父様、落ち着いてください。娘の前ですよ、みっともないとは思いませんか?」
「君は何故何ともない?何故っ...」
急に口を閉じるお父様、まるで言っちゃういけない事をうっかり口にしたようだ。
俺に隠し事をしているのか?
「何でもない。ちょっと取り乱したようだ。」
そう言って、お父様は机に腰かけた。
「お父様が取り乱した姿も珍しいですね。記憶のない私にとって、これが初めてかもしれません。
どうしたのです?何故急に取り乱したの?」
「私もまた人の子、取り乱す事はある。」
「にしても、変なタイミングでパニックになったのですね。『珍しい』というより、『おかしい』です。
実は、私に何か隠し事しているとかですか、お父様?」
「我が国の王様が急に訪問して来た事で、予定が番狂わせにされたんだ。私の挙動が『おかしい』のなら、きっとその所為でしょ。」
「では、私の肩を掴んだのはどうしてですか?」
「別に深い理由はない。君が私の娘で、私が君の父親だから。」
「その後、オデコもくっつけて来ましたね。どうしてですか?」
「赤の他人ならできない事だ。『親子のスキンシップ』はそれ程おかしな事なのか?」
「おかしいわよ。だって、『お父様』でしょう?」
「君だって、私を見た途端、抱き着いて来たじゃないか。偶にも私に反撃をさせてくれ、な。」
だめだ、お父様は完全に冷静さを取り戻している。
人の秘密を暴くには、その人が取り乱している間が一番簡単。うまく感情を制御できないうちはぽろっと色んな秘密を漏らしやすい。
そうと知っていながら、俺はお父様が隠し事している事に気づいて、お父様が冷静になる前にそれを暴けなかった。
お父様は流石の一代で巨富を築いた男、頭の回転もその分速い。
そして、俺が隠し事されたのを気づいたタイミングが、丁度お父様がパニックっている最中。すぐにその隠し事を暴く事に頭が回れなかったのは仕方のない事。
チッ。
それでも悔しい!
誤魔化されたのがムカつく。
「はぁ...分かりました、お父様。これ以上追及しない事にします。
しかし、人を呼びつけておいて、命令だけ下して返すのは如何なものかと。
私はお父様の犬ではありません。私は犬にだって、ちゃんとモフモフしてから返します。」
「そうか。
私も元々ゆっくり説得する予定だったが、『国王様』の所為でダメになった。
それでも、私は君に、自分の母親を会いに行ってほしい。」
「どうしてですか?」
「奈苗は母に会いたくないのか?」
「私はその理由が知りたいのです。お父様は別にお母様と仲良くないのでしょう?」
「...流石、私の娘だ。
分かった。君がそこまで嫌がるとは予想外だが、君の意思を尊重しよう。
さぁ、もう帰りたまえ。」
きちんとした説明をせずに、俺を早く帰したかっている、か。
どうやら、本当に時間の余裕がないみたい。
その願いを叶えてあげたいが、俺は死を恐れぬ好奇心旺盛な猫だ、モヤモヤした気持ちで帰れない。
「いや、待って、お父様。
別にお母様に会いに行きたくないとは言ってません。
私はただお父様が私を行かせたがっている理由が知りたいだけです。」
「そうか。なら、明日また会おう。
少しくらいなら、時間を空けられる。」
「いや、自分の都合ばかり考えないで!私は明日に大事な予定があるの!」
「ふむ...
子供が、予定、か。」
「むっ、馬鹿にしました?」
「いや、親心って言うのだろうか?
君がいつまでも、私の可愛い娘だと思っていたが...もう高校生、か。」
お父様が勝手に遠い目をしている。
別に「お父様」と過去の記憶を共有していないが、子供扱いされるのはムカつく。
俺は大人だ!
「兎に角!今日でお話したい!王様だって、いつまでいる訳ではないでしょう?
その後にまた話しよう。」
「いや、奈苗はもう家に帰ってくれ。無理にしてするような話じゃない。
別にあの女に会わなくても、私は問題ない。」
「どうしてさっきと逆な事を言うの!?そんなに説明するのが面倒なの?」
「もうすぐ国王が来るからだ!
分かってくれ。君に会わせたくないんだ。」
「え?」
俺を王様に会わせたくない?
むーん...別に会いたい訳じゃないし、国王に会うのはやっぱ「権利」とか、必要かもしれない。
だから俺を早く屋敷に帰したいのか?理屈はあってはあるんだけど...
「私って、お父様にとって恥ずかしい娘?」
「は?」
「他人に見せたくない程...王様に見られたくない程、恥ずかしい娘?」
「...奈苗、面白がってる?」
ぎくっ!
え?もうばれた?早くない?
お父様の賢さが...ウザイ!
「じゃ、姿を見せなきゃ良いでしょう!
王様が帰るまで、私、隠れていればいいでしょう?」
「はぁ、奈苗...
ホントに、もう時間...」
その時、突然とことなく音楽が鳴り響いた。
その音楽を聞いたお父様は、慌てて自分のズボンのポケットに手を入れて、そこからはスマートフォンらしきものを取り出した。
そして、驚く事に...お父様はそのスマートフォンの形をしたものを自分の耳に当てた。
「着いた!?
うん。うん。分かった。」
スマホみたいなものに向かって何かをしゃべった後、お父様はまるでスマホを操作しているかのように、スマホらしきものを指で触って、そのスマホ状なアイテムをポケットに戻した。
ってか、スマホだ!!!
「お、お父様、い、今、今ぁ!」
「はぁ、奈苗。王様が着いたよ。
君はとうと、国王が着くまで粘りました。よく出来ました。」
お父様が皮肉を言っている。
いや、お父様。別に俺はお父様が嫌いで、嫌がらせをしている訳じゃないんだよ。
気になる事がどんどん増えていき、気になって、気になって...何もしないで帰ったら、今夜は眠れなくなる。
だから、お父様は「憎きイケメン」だけど、俺と王様に会わせたくないその願いを叶えてあげるよ。
「いいえ、お父様。今から、私は隠れますので、王様と会わないようにします。」
「君が普通のカメレオン族の人間なら、その言葉も信じられるが、魔法は使えないでしょう?」
「まさかお父様にそんな事を言われるとは。奈苗、とても悲しいです。」
嘘泣きする。
しかし、あまり時間がないので、すぐにやめた。
「魔法を使わなくても、隠れる方法はいくらでもあります。この何にもないように見える部屋でも、ちゃんと隠れる場所があります。」
そう言って、俺は四つん這いで這い、お父様の机の下に隠れた。
......
...
「よう、守澄。お飾りの王が会いに来たぞ。」
ドアが乱暴に開けられた音とともに、我が日の国の頂に君臨する王様がとんでもない事を口にして入ってきた。
それに対して、お父様はチェアに腰かけたまま、「ようこそ」の一言だけ。
我が父、国王より偉そうだ。
「国王が来たのに、立ち上がる事すらしねぇとはなぁ。流石守澄だ、かっはは!」
お父様が立ち上がらなかったのは、恐らく俺がお父様の机の下に隠れた所為だろう。実の娘を自分の机の下に隠していたんだ。きっとお父様は立ちたくても、立てなかったんだろう。
俺は床に直座っているからか、人の歩きによる床の揺れがよく分かる。
なので、お父様のオフィスに入ってきたのは国王一人だけじゃない事も、何となく分かった。
遠慮なく床を踏み鳴らす国王以外、少なくとも他に一人、国王と一緒に入って来たのだろう。
誰だろう?国王と一緒だから、ファンタジー世界でよくいる女近衛騎士とか?
若くて、綺麗で、凛々しくて...ヤバイ!机の外の様子が見えないから、妄想が一人歩きしている!
「護衛も付けずに王宮を出るのは危険な事だと思いますか?」
これはお父様の言葉だ。
「だ~れも気にしねぇよ。ワシが死んだところで、議員共は何とも思わん。さっさとワシの遺言書を公表して、何食わぬ顔で王血子を王座に就かせるだけ。何の混乱も起きん。」
これは王様の言葉だ。
あれ、予想が外れた。
王様が一人で入って来たじゃないから、てっきりもう一人は王様の護衛役だと思っていた。
しかし、お父様と王様の言葉から、国王は護衛を付き従わせていない事が分かった。だったら、国王以外に足音を出した人は誰?
めっちゃ気になる!
「それは言い過ぎかと。
王族の方々は我が国にとって、いなくてはならない存在。もっとご自身を大事にしていてください。」
お父様が分かりやすい媚びをした。全く意味のない「媚び」だと思う。
そんな「媚び」をする前に、せめて立って王様を迎えるべきだろう?
「かっ、王族の時代がとっくに終わった!
戦争が続いていた頃はまだ勝ったら称えられ、負けたら『ごめん』を言う事が出来るが、お前らのお陰で、今は平和の世。楽なもんだよ、王族は。
もう祭り事で『景色』を演じるくらいしかする事がない。何かの祭りがあれば、無理矢理に引っ張られ、参加させられる。何かする事があるのかと思ったら、民の顔が見えない遠く高い上に座らせるだけ。
『王族は国の顔であり、頭脳ではない』。」
王様が次々ととんでもない発言をする。
名言を言っているつもりなのか、声がちょっとキャラ作ってて、キザかった。
どんな顔してるだろう、王様は?
生憎、俺が隠れているお父様の机は、足を最後まで隠すタイプ。俺は相手に見つからない代わりに、相手の顔も、足すら見えない。
お父様の足しか見えない!チッ、足細ッ!
声からして、王様は間違いなく男だと分かる。
結構太い声だったから、太っているかもしれないが、ただ肺活量が多いだけの筋肉ムキムキな大男かもしれない。
太い男より、筋肉大男がいいなぁ。人は目でよく見る人に似せていくから、不細工を見続けると、自分も不細工になる。
喋り方がそれ程「王様!」って感じじゃないね。寧ろちょっと「平民」クサくて、好感を持てるかも。
でも「太い男」だったら最悪だ。声は似ていかないが、やはり目に入れたくない。
...モテなかったけど、俺は別にブサイクじゃないよ!偶々俺がタイプな女の子と出会えなかっただけ!
きっと!たぶん...
「陛下のご意思は了解した。では、早速本題に入りましょう。今日突然のご来訪、どのような御用で?」
「あれ、世間話もう終わり?ワシはまだ始まったばかりだか?」
「陛下は弊グループにとって大事な株主様ではありますが、生憎多忙な身、この後も予定が詰まっております。」
「なんか機嫌悪そうだな、お前。変なもの食って、腹を下した?」
王様相手なのに、お父様は意外に失礼な態度を取っている。俺も別に「地位」というものに特別な思い入れはないが、それでも、流石に国王陛下相手では恐縮すべきだと思うんだ。
それに対して、王様は特に気にした様子がない。完全に友達感覚で会話している感じ。いいのか、王様?失礼を働いていますよ、お父様が!
「雲雀、陛下がお帰りのようだ。」
そしてとうと、お父様が誰かの名前を呼んで、王様を追い返そうとした。
ちょっ、お父様!?向こうは王様だぞ!
「あぁ、待って!分かった、分かったよ。」
それに対して、王様の方が慌てて「待った!」を言った。
立ち場逆転しているよな、この二人。
「これだ。見てくれ。」
そう王様が言って、カサカサッと、紙が風を切る音がした。
何かの書類を取り出しているのか?
その後、小さな足音がした。
お父様はチェアから動いていないし、足音が小さくて、絶対王様の足音ではない。
やはり、俺の予想通り王様以外にも、他に誰かが一緒に入って来ている。
「旦那様。」
そして、高い声が響いた。高くて、しかし決して鋭くないまろやかな女の声だった。
ちょっと幼さが残る声っぽかったが、子供?
しかし、お父様を「旦那様」と呼んでいる。
そして、先ほど聞いたお父様が口にした人の名前、「雲雀」。俺が覚え間違っていなければ、それは確か...守澄メイド隊の一人の名前だったよな!
「うん。」
お父様の返事はそれだけだった!このイケメンめ!
聞こえてきた音から推測して、王様がまろやかな女の声の持ち主に何かの書類を渡して、その優しい女の人がその書類をお父様に渡したと考えられる。
書類を受け取ったお父様はその美しい心の女性に礼を言わず、「うん」だけで済ました。
何という失礼!何という無礼!
イケメン、マジ許すマジ!
「これは、今年の高等部の試験問題?しかも書き込んでいる。」
試験問題?「私」が俺になる前に受けた試験のか?
何故そんなもの...?
「腐ってもこの国の王だ。最難関のお前の学園でも、裏入学はできんが、その試験問題を入手する事はできるぞ。」
いや、国王陛下。それは自慢話に使えるネタじゃない。
「それで、誰かに答えさせたのか?」
「採点も大賢者にさせた。ちゃんと全問正解だろっ?」
大賢者!?
とんでもないキーワードが出てきたか...大賢者様に試験の採点!?
ちょっと待ってよ、ファンタジー世界観感!
魔法、国王、大賢者と、ファンタジー世界特有な単語を聞いて、俺、大興奮だが、やっている事が全然ファンタジーっぽくない!
どちらかというと、嫌なリアル世界っていうか...
「これを私に見せてどうしたい?」
「言わなくても分かる事だろう?その試験問題を答えた子を入学させて欲しいんだ。」
ふーん、新入生か。
しかし、何故この時期?
私立一研学園は殆どの学校と同じ二学期制で、明日でその一学期目が終わる。今年入学ならすでに遅く、来年入学なら早すぎる。
それを知らないで来たのか、王様?馬鹿なのか?
「ワシの娘でな。勉強好きで、魔法の適性もかなりのもの。そして、その娘がな、『魔道具作りたい』って言って来たんだよ。
なら、『一研目指してみな』って言ってやった。そしたらどうなったと思う?一年でお前の学園の試験問題を全問正解してやった。」
うんうん、天才王女ちゃんか。
きっと美少女に違いないな。楽しみだ。
「陛下。私の記憶が間違っていなければ、王女殿下は確かまだ十四、我が学園に入るとしても中等部。
しかし、この試験問題は『高等部』のもの。殿下が答えられたとしても...」
「そこだよ、そこ!守澄、お前の考えた通り、あの子を『高等部』に直接入れたいんだ。」
「飛び級、という事ですか?」
「お前が『特例』を開けたんだ。お前の娘がよくて、ワシの娘がダメって事はないだろう?」
特例...「裏口入学」に聞こえる。
そうか。
俺の「飛び級」はこの学園の初なのか。
そして、俺という「特例」ができた所為で、他の人も「特例」を欲しがるようになった。その最初の一人が我が国の王様。
...それ程に、この学園に価値があるのか?
「では、確認させてもらいます。」
お父様が大きなため息をして、静かになった。
......
静かだ。
......
誰も喋っていない。
話し声のいないこの空間で、カサカサとした紙の音だけが響く。
......
つまらない!
待つのがつまらない!
王様がまだ帰っていないので、机の下から出られない。
身体も窮屈で、欠伸がしたくてもできない。
静かになったこの場所で、大きな音も出せない。
時間が過ぎるのを待つだけ...
......
がぁあああ!耐えられない!
よし、悪戯しよう。
俺は目の前にあるお父様の足に手を伸ばした。
「!!!」
足を触られた瞬間、お父様の身体が小さく震えた。
「ん?何かおかしかった、守澄?」
「いいえ、まだ探しているところ。」
「ったく、大賢者の採点がそんなに信用できんのか?そこまでして、二回目の『特例』が嫌か?」
「えぇ。入試問題を更に難しくする事も考慮に入れている。」
「けっ!守澄守澄。」
王様がお父様の苗字を連呼している。まるで何かの代名詞として使っているようだ。
それを気にしない事にして、俺は更にお父様の靴を脱いだ。
「っ...」
お父様は嫌がって、足を抜こうとしたが、俺がしっかりとその足を掴んで、逃がさないようにした。
王様がいる事で、俺が外に出られないと同時に、お父様も俺の存在が王様にばれるような大きな動きができない。
それを利用して、俺は悪戯を続ける。
俺だけ窮屈な思いなんてごめんだ!道連れにしてやるよ、お父様!
お父様の足裏を...コチョコチョ!
「っ!」
トンとお父様の足が大きく跳ねて、膝が机にぶつけてしまった。
「何だ?先からどうした、守澄!」
「いいえ、失礼!嫌な虫を見えた気がしたが、勘違いだったようだ。」
ほほー、俺を「嫌な虫」と言ったか、お父様?
もっとかゆい目に遭いたいらしいな!
更に激しくくすぐる!
「ぁっ!」
お父様が力を入れて、俺の両手から足を抜き出した!
そして、そのままその足で俺の顔を踏んだ!
「むぅ!」
俺の顔に、足が!?
王様がいる為、俺も大きな声は出せないが、それで調子に乗って俺の顔を踏んだのか、お父様!?
俺の闘争心を燃やしたな、お父様!よろしい!ならば戦争だ!
「失礼。ペンを落としてしまったようです。」
そう言って、お父様はないペンを拾うフリして、身を屈めた。
そして、顔を机の下に覗いて、俺を思い切り睨んだ。
「ふん!ふん!ふん!」
声が出せないから、お父様は表情のみで怒りを示した。
指一本立てて、俺を睨みながらその指を何度も俺を指差す。「悪戯やめろ!」って表現しようとしている。
俺、手話は分からないが、お父様の「手話」は絶対正しくないと思う。
でも、自分でもやりすぎだと思っている。蹴られて当然だと思っている。
なので、俺は笑顔を作って、先に白旗を上げる事にした。
「守澄~、まだ~、お前の採点は?」
「あぁ、失礼。『採点』って程じゃないか。見たところ、問題ないと思います。」
「へ~、良いんだ。じゃ、あの娘、来学期からで良いんだな。」
「えぇ。まずはXクラスに入って貰って、学年末テストで二十位以上を取れば、Sクラスにクラス替えさせよう。」
「噂のXクラスか。教育水準を落としていないよな?」
「勿論です。学生を選ぶ学園ですから、先生にハズレはない。」
王様と会話をしながら、お父様の足はずっとうろちょろしている。
その動き、間違いなく靴を探しているのだろうが、生憎その靴は俺の手にあって、決して今は返したりしない。
顔に足を押し付けられたんだ!少しくらいそっちにも困ってもらわないと割に合わない。
「ですが、陛下?この事の為だけにいらっしゃった訳、ではありません。よな?」
「ワシは可愛い娘の為に、わざわざお前に会いに来ないと思う?」
「お互いは娘を持つ身、気持ちは分かります。それでも、陛下には他の用事もあるじゃないかと愚考しますか。」
「かっ!『守澄は無駄話が嫌い』。そうだ、もう一つ、お前にとっても良い話がある。」
お父様にとっての良い話?
国王陛下がわざわざお父様を訪ねたほどの重要な事?
「なぁ、守澄。お前の娘、ワシの息子に嫁がせねぇか?」
......え?
王子様との縁談話だ!!!




