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プロローグ...初めて「患者」として以外での看護院通い

新章開始、褒めてください!

「彩ねー!ご出産、おめでとう!」

 病室に入り次第、俺は看護院の寝台に横たわっている女の子に挨拶した。


「久しぶりね、ナナちゃん。わざわざ会いに来てくれて、嬉しいよ。」

 寝台の上で、女の子は俺を見て、嬉しそうに笑った。まだ体力が回復していないか、少し疲れた顔をしている。


 俺が「彩ねー」と呼んでいる女の子の名前は冴塚(さえづか) 彩音(あやね)、今もよく看護院にお世話する俺の担当ナースだ。

 種族は数少なく、そして今も減りずつである「クローン」、その特徴は「神と寸分違わぬ姿を持つ」というものである。

 初めて彼女から種族やら神やらの話を聞かされた時、正直混乱していた。何せ、俺にとっての「クローン」は...まぁ、「クローン」だから。「種族」というより、「研究成果」的な?

 その後、俺が自分自身の事を思い出した時、この食い違いを理解した。俺はそもそも違う世界の人間だったからだ。


 そして今日、彩ねーが子供を出産したと聞いて、急いで見舞いに来た。


「赤ちゃん、どこ?見せて!」俺は彩ねーを急かす。

「ふふ、慌てないの。」彩ねーが微笑んで、目線で俺の後ろを指す。「その前に、まずは早苗さん、でしょう?」


 彩ねーに言われて気づいた、殆どの重い物を持てない俺の代わりにフルーツバスケットを持って、一緒に来てくれたメイド長ちゃん。

 彼女はまだ重いフルーツバスケットを持ったまま立っている。


「ごめん、長ちゃん。バスケットをそこに置いといて。」俺は指で適当に、彩ねーの近くの床を指した。

「畏まりました。」

 俺の指の示した場所に、言われるかままにバスケットを下すメイド長ちゃん。


 最近の彼女はどうも俺に従順すぎているキライがある。頼み事をすれば必ずしてくれるし、文句や嫌味を聞いた事がない。

 こうなったのは、俺が偶にではあるが、「お父様の仕事」を手伝うようになってからだ。それでメイド長ちゃんの心に何か変化を与えたのかもしれないが、サトリではない俺には分からない。

 ただ、「言われるまでしない」レベルに近づいているっぽいのがちょっと心配だ...メイド長ちゃんに限って、それはないだろう。


「彩ねーは早苗と知り合いなの?」俺は気遣いゼロに彩ねーに尋ねた。

「あっ、えぇっと...」予想通りに彩ねーがちょっと吃った。「ナナちゃんがよくいらっしゃるじゃない?いつもこの方がナナちゃんを連れてくるのだよ。それで、ちょっと顔見知りに...」


 言いながら、彩ねーはメイド長ちゃんの顔を伺っている。

 比べてメイド長ちゃんは何食わぬ顔をしている。「自分は関係ないー」みたいに突っ立っている。


 何だ、この二人?友達に成り立てて、お互いとの距離感がまだ掴めていないカップルみたいだぞ。


「長ちゃん?すまんが、ちょっと外で待っててくれる?」

 空気が重くなる前に、俺はメイド長ちゃんに退室する事を頼んだ。

 それを聞いたメイド長ちゃんはロボットのように、無表情に一礼をして、「畏まりました。」と言って部屋を出た。


 最近気づいた事だが、実は、うちの早苗メイド長ちゃんは殆ど感情を人に見せない。

 モモ曰く「説教メイド長様」だから、感情がない訳じゃないが、それは基本屋敷内にいる時だけ、もしくは屋敷の人間に対してだけ。

 外にいる時のメイド長ちゃんは本当に大人しい。吠えないし、人に噛みつかない!まるで「人見知り」ちゃんのようだ。

 しかし、彼女は女の子だが、普通の男よりもクールでカッコいい見た目をしているから、表情を変えずに立ってるだけなのに、怒ってるようにも見えなくもない。

 その所為で、彩ねーをビビらせたのだろう。「気遣いゼロ」に訊いた俺も悪いだか...時々口が頭の回転より速くて、「一言多く」言ってしまうのだ。


「ごめんね、彩ねー。彩ねーの困っている顔が素敵だが、それが見たくて困らせてる訳じゃないの。許して。」可愛く「ニコッ」と笑顔を見せる。

「クスッ。許してほしいのか、ほしくないのか、どっちなの?」そう言って、彩ねーは口に手を当てて笑った。


「で、赤ちゃんは?」俺は彩ねーを催促する、「もう赤ちゃん見ても良いでしょう?ねぇ?」


 外に出されたメイド長ちゃんには悪いが、先に赤ちゃんが見たい。

 俺の彩ねーを娶って、子を孕ませて産ませた奴に微妙な怒りを持っているが、その男の子供に「罪」はない。逆に「彩ねーの子供」なので、会いたくはなる。


「はいはい、こっちだよ。」

 彩ねーは寝台の角を叩いて、部屋奥に隠れている小さな揺り籠を指差した。

「今は寝ているので、音を控えててね。」


 それなりに大声を出しまくった後だが、まだ寝ている赤ちゃんを起こせていないようだ。

「よく寝る」赤ちゃんだなぁっと思い、俺はその小さな揺り籠に近づき、中を覗き込んだ。


 赤ちゃんだ。

 小さな手足に丸いお腹、成人と比べてちょっと大きめな頭、薄っすら生えてる産毛のような髪の毛。

 愛らしさ満載な小さな命が、目を閉じてて静かに寝ている。


「かわいい」と言葉が口から漏れる。

 指で赤ちゃんの手を突くと、その手が俺の指を握ってくる。そうされた俺はまたも「ふふっ、かわいい」と言葉を漏らす。


「男の子?女の子?」

 俺は彩ねーに尋ねる。


「男の子。」

「男の子か〜。」


 残念!


「名前は?もう付けた?」

「えぇ。勇司(ゆうじ)って名前なんたぁ。」

「ゆうじ?」

「勇気の『勇』に(つかさ)で、勇司(ゆうじ)。」

「成る程。勇司(ゆうじ)くんか。」


 男でも、子供はかわいいな。

 軽く頬を突くと、寝ているのに、嫌そうに顔を背ける。


「じゃ、次が女の子といいね。」

「次...」


 俺の言葉を聞いて、なぜか彩ねーが元気のない声を出した。

 俺はそれに気づいて、頭を上げて、彩ねーを見つめて「どうした?」と訊いた。


 そしたら、彩ねーは真剣な表情で言う。

「もう、子供はいいかなぁ。歳も歳だし...」

「歳?」

「私、今年で二十三。そろそろ後の事も考えなくては。」

「あ!」


 言われて思い出した。「クローン」という種族は確か基本「30年以上に生きられない」だそうだ。


「次の子を産むにも、私はもう後が長くない。」

 そう言って、彩ねーが悲しい目つきで揺り籠の赤ちゃんを見つめる。

「この子とも、いつまで一緒に居られるのでしょうね。」


 微笑んでいるが、彩ねーの表情は明るくない。

 俺はそういう顔が一番嫌いで、見ているだけで心が痛む。


「『寿命なんとか委員会』は何とかしてくれないの?」

 俺はうっかり大声で言う。

「『寿命』を百年に設定したあの人達なら、人の寿命を伸ばせられないの?」


 俺の反応を見て、彩ねーは自分の口に指を当てて「シー」と言った。それを見た俺は自分の音量に気づき、慌てて手で口を塞いだ。


「仕方ないよ、私達『クローン』はそういう種族なんだから。10歳で体が成熟し、25を超えると急激に老化が始まる。ずっとそうだったから、寿命『なんとか』委員会もお手上げしているよ。」

「そう、か...」


 揺り籠の中の赤ちゃんを見つめる。


 クローンの子はクローン。性別が男だから、種族は父の方を引き継いたが、それでも年齢は三十を超えないだろう。

 父親より早く死ぬ運命の子供...なんたか嫌だな。

「寿命なんとか委員会」の奴ら、成人年齢を全種族一律にしたせいで、「クローン」族が自分の子と十年くらいしか一緒に居られなくなった事に、気にもしていないのかな?


 彩ねーが茶化して、単純に長い名称を覚えられなかった俺と一緒に「寿命『なんとか』委員会」と言ってくれたが、気分が晴れない。


「魔法が使えるのに、寿命を伸ばせないのか?」

「かなり研究が進んでいるけど、魔法はまだ万能じゃない。

 でも、悲しまないで、ナナちゃん。私達は諦めていないよ。

 知らないかもしれないが、私の母はまだ生きているよ。」

「うん。それ、知ってる。」


 彩ねーの母親は「クローン」ではあるが、四十歳を超えて今も生きている特殊な「クローン」だ。

 生きてはいるが、もう話も碌に出来ない上、殆どの時間は寝ている状態だ。

 それでも、ここまで長生きできた「クローン」は彩ねーの母親一人だけ。その理由を調べる為と世話する事を兼ねて、彩ねーはここの「看護院」でナースをやっている。


 でもね、彩ねー。俺はできれば、その「特殊なクローン」は彩ねーの母親ではなく、彩ねーであってほしいのだよ。

 そう思っても、それは言えない。偶に一言の多い俺でも、言って良い事と言っちゃういけない事の区別ができる。


「そ、そうだ!」

 彩ねーが急に両手をパッと合わせて、俺の注意を引く。

「折角ナナちゃんが来た事だし、いつものようにリンゴの皮を剥いてあげるね!」

 言いながら、フルーツバスケットに手を伸ばす彩ねー。


「い、いいよ!彩ねー。」

 俺は止めに入る。

「今は逆!彩ねーが病人!私が剥くよ。」


 俺はフルーツバスケットの中からリンゴを取り出して、そして机にあるナイフに手を伸ばした。


「ダメ、ナナちゃん。」

 彩ねーは素早く机のナイフを奪い、ナイフを俺から遠下げた。

「こんな危険な物、まだナナちゃんには早い。」


「早いって...」

 凄い舐められたな。

 確かに今は幼い女の子ではあるが、中身は彩ねーよりも年上の男だぞ!しかも、「幼い」と言っても、包丁を扱えられる年齢になった筈だ。


「分かった。じゃ、イチゴにする。」

俺はイチゴの葉っぱを抜いて、赤い実を彩ねーに差し出す。

「はい、『あー』して。」


「あー、む。」

 嬉しそうに頬張る彩ねー。

「ナナちゃんのイチゴ、甘〜い。」


「はい、()()()が甘いね!うん!」

 さりげなく「誰かの」という冠詞を入れないでくれる?中身は男だから、変な意味に捉えてしまうのだぞ。


「じゃ、次。ブドウね。」

「あー。」


 こうして、俺はナイフを使わない果物を彩ねーと一緒に食べた。

 ......

 ...


 彩ねーと他愛のない雑談をして、時々寝ている赤ちゃんで遊んでいる暫く、彩ねーが別の話を切り出した。


「ナナちゃん。メイドの募集、まだしてますか?」

「『してます』?」


 丁度俺が「勇司くん」のお腹にイタズラしている時、彩ねーが急に「転職希望」を俺に伝えた。

 メイドか...数だけならもう11人になってるよな。


「大分前に終わったよ、もう凄い人数になっているもの。」

「そう?それならいいわ。」


 彩ねーが元気のない声を出している。俺のメイドになれないと思って、凹んでいるのかな?


「どうしたの、いきなり?」

 俺は質問する。


「何でもないんだ!

 ちょっと聞いてみただけ、深い理由はないよ。」

 彩ねーは笑って誤魔化した。


「深い理由」、ねぇ。実は、この看護院はブラック企業(カンパニー)だったりして?

 ......

 どうしてだが、いつも悪い可能性を思いついてしまう。


「メイドといえば、彩ねー、今はどう?」

 俺は曖昧な質問をした。


「え?」


 もちろん、「サトリ」じゃない彩ねーはこれだけで俺の言いたい事が分かる訳もない。


「かなり前にお願いしたでしょう?ずっと私と一緒にいて欲しいって。」

 俺はここでようやく本題に入る。


 自分がどうしてこういう質問の仕方をするのかは分からない。ただ、この質問の仕方なら、相手の同意を得られ易いと、感覚でそう思った。


「メイドの募集がかけられていようかいまいか、私は彩ねーに私のメイドになって欲しい。ずっと一緒にいて欲しい。

 前はお父様が無理矢理だったから、諦めたけど、今も考えは変わってないのか?自分の意思で、私のメイドになってみないか?」


 言い方がアレだけど、もちろん普通の雇用契約だ。別に「奴隷契約」を結ぼうとしている訳じゃないし、この世界でも、俺の住んでた世界でも、「奴隷」は違法だ。


「でも、もういっぱい、メイドさんがいるでしょう?」彩ねーが渋る。


 人手が足りない訳でもないのに、無闇に従業員を増やすのはおかしい。「次世代の教育」としても、彩ねーはもう長く生きられない。

 なので、今の俺の誘いに裏があるんじゃないかと疑うのは当たり前。俺が彩ねーの考えを読んで、「優しいから」と、俺が彩ねーに「施し」をしようとしてるじゃないかって、彩ねーが考えてしまったのかも。


 実際はそうだが、そう気付かされたら、彩ねーは俺の誘いを蹴るのでしょう。

 なので、少し工夫をしなきゃ...


「ウチはイイよ、産休・育児休暇を自由に取りたい放題!

 しかも屋敷に子供を連れて来てくれたら、世話を代わりにする人手が一杯いる。

 望めば無料で高級部屋に暮らせるし、転移魔法陣があるから、実家通いもら〜く楽!


 最初の頃は子供の世話で手一杯でも大丈夫、適量した仕事を熟せばイイ。

 子供大きくなって手間かかっても最高!仲間が育児に手伝ってくれる!


 もちろん給料の事も心配なく、守澄のメイドは一社長より儲かる!

 一か月で高級マンションも買っちゃう!


 これ程にイイ条件もないでしょう?ね!」


 俺は熱く語った。もう怪しさ満載なセールスマンのように。


「ナナちゃん、逆に怖い。」

 予想通り、彩ねーが俺を警戒した。


「もう何で!?」

 俺は自分の見た目を利用して、駄々っ子のように拗ねる。

「彩ねーは赤ちゃんを連れて来てくれるだけでいいのに!どうして『はい』と言ってくれないの?

 赤ちゃん毎日見たい!」


「勇司目当て!?」

 彩ねーが驚いて、目をパチパチして俺を見つめる。

 そして、「ナナちゃんは子供好きだったのね。」という結論に達した。


「でもいいの?」

 それでも渋る彩ねー。

「私、大した役には立ちませんよ?」


 言葉遣いが変わっている事から、やる気があると考えられる。

 なので、最後の一押し。


「みんな、『魔法を使っちゃだめ』というルールに縛られて、かなり窮屈だと思うんだよ。だから、『癒し』が欲しい。

 赤ちゃんが来てくれれば、きっとみんなも喜ぶと思うよ。」


「あ、あはは。」

 俺の言葉を聞いて、彩ねーが安心したような笑い声を出した。

「それは嬉しいね。私も、実は最近、ナナちゃんと一緒に居たいと思ってた。」


「本当?じゃ、来てくれるよね?」

「えぇ、私で良ければ、ナナちゃん。」

「やった!彩ねー大好き!」


 俺は彩ねーに抱きついた。

 ......

 ...


「じゃねー、彩ねー。また赤ちゃんに会いに来るね。」

「またね、ナナちゃん。会いに来てくれて、ありがとうね。」

「私も赤ちゃんを見せてくれてありがとう。

 バイバイ。」

「バイバイ。」


 彩ねーと別れを告げて、俺は部屋を出た。

 部屋を出た先には、俺の命令に従い、先に部屋を出たメイド長ちゃんが立っている。

 彼女の事を忘れた訳じゃないが、俺は彩ねーを優先した。それで大分彼女を待たされる事になったし、彼女が律儀にずっと外で待っててくれる事も予想できていた。


 良い子だな。

 頭に犬の耳みたいな獣耳も付いているし、本当に――メイド長ちゃんに申し訳ないが――主人に一途な忠犬みたいだ。


 そんなメイド長ちゃんを見て、俺は指で彼女に、自分の近くに来いと指示した。

 それを見たメイド長ちゃんはすぐに俺の隣に来て、耳を寄って来た。


 気がよく利く()だよ、本当に。感動を憶えるくらいだ。


「この看護院の経営状況を教えてくれ。」

 俺は彼女に訊いた。


 メイド長ちゃんはすぐには返事しなかったが、「恐らく、お嬢様のご想像通りかと。」と短い間の後に言った。


「人と人の争いが殆どない今の時代、ここはよく続けられた看護院だと思います。

 治癒魔法で治せない大怪我を負う人は稀にしか見られません。魔力(マジック)枯渇(デプレッション)などによって引き起こした心の病気も、原因の方が少なくなった為、最近では見かけません。

 旦那様は多く出資していますが、ここの経営業績は年々下がって行き、赤字続きです。」


 この世界の「看護院」は俺の元居た世界の「病院」みたいなものだが、魔法の盛んだここでは人は殆ど病気にならない。みんな、空高く飛ばされても傷を負わない程の強靭な体つきで、負わされても、治癒魔法ですぐに治療できるから、誰も病院を必要としていない。


 ここの看護院は幸い、俺という「お得意様」がいるから、俺が生きている限り、お父様が何としてもここを生き残させるのだろう。

 しかし、それでここが稼ぎのいい場所になれる訳がない。多くの人に必要とされていない会社は人件費も安い。


 急に彩ねーから「メイドに転職したい」と言われた時、すぐに彩ねーが働いているこの看護院の事を考えた。何せ、この看護院で働いているのは彩ねーだけでなく、その夫もこの看護院で一医者をやっている。

 看護院の経営が悪ければ、いずれ人件費も下がる。人を削る事もあり得る。加えて、彩ねーは出産したばかりだ。仕事に入れない上に、法律上で有給休暇も取れる。この看護院にとっていい事はない。

 俺があまり入院しなくなった事も一因と考えられる。


 彩ねー自身も子供を産んだばかりで、体が弱っている。仕事に戻っても給料が低いし、旦那の方も一緒に低給料だ。子育てのできる環境ではない。

 なので、「メイドやりたい」と言い出したのだろう、しかも高給で有名な「守澄メイド隊」だ。口に実際していないが、態度から滲み出ている。


「コネを使って、怪しいアルバイトに手を出そうとしている人みたいだよ、彩ねーが。」


 そう考えると、すごく悲しい気持ちになった。


「どう致しました、お嬢様?」

 俺の独り言に反応するメイド長ちゃん。


「長ちゃん、メイドもう一人増やすぞ。」

 俺は「相談」ではなく、「結論」をメイド長ちゃんに伝えた。


 実際、彩ねーはかなり美人だ。

 お父様曰く、何一つ特徴のない容姿に、男を虜に出来る美貌(神からのギフト)

 切羽詰まった時に、彩ねーがこのギフトを使って、水商売するじゃないかって、心配で仕方がない。


 だから、俺は勝手にメイド一人増やす事に決定した。


「名前は冴塚(さえづか) 彩音(あやね)、クローンだ。子連れなので、あまり疲れるような仕事をさせないで。

 子供もまだ生まれたての赤ん坊だ、仕事場である私の屋敷に連れてくる許可をやれ。その赤ん坊の世話の為なら、メイドの皆がサボっても大目に見ておく事。

 分かった?」

「畏まりました、お嬢様。後程に手配致しますが、出勤の日程について、お嬢様はどのようなお考えでしょうか?」

「こことの契約が切れたすぐでいい。

 産休と育休が初出勤の前になっちまうのだが、それで困る守澄家(うち)でもないでしょう?」

「畏まりました。

 では、お嬢様がご帰宅次第、すぐに先方と連絡致します。」

「頼む。」


 これでメイドの数が十二人になったのか。十三にならないように気をつけなきゃなぁ。

 そんな事を考えながら、俺はメイド長ちゃんと一緒に近くの転移魔法陣に向かった。

勇司って名前をつけて暫く経ってから、「なんか『寿司』みたいな名前だな」と思った。

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