第十二節 意外な結末②...メイドショー
分厚い服を着させられて、俺はメイド長ちゃんに抱っこされた状態で、寒い氷の国の地上エリアに着いた。
まさか、お姫様抱っこで移動するとは思わなかった。
まさか、着いた場所に魔物で溢れているとは思わなかった。
そして、まさか本当にメイド隊の全員が来ているとは思わなかった。
「お待ちしておりました、奈苗お嬢様。」
「ヒバリィん、お久しぶり!相変わらず小さくて可愛いですね。どうしたの、わざわざ貴女様までが出張ってきて?」
「一言が多いお嬢様だな。最後の書類が用意できたので、お嬢様にお見せしようと。」
書類?何の書類だろう?
しかし、それは魔物一杯なこの場所でする事?柳玲子が結界張って頑張っているけど、申し訳ないぞ。
「ヒバリィは本当に可愛いわ!体が動けたら、絶対に抱きついちゃう。」
「無駄口を叩かない。これが書類です。」
「何ですか、これは?」
「お嬢様が守澄財閥の継承者になる為の最後の契約書です。」
「おーう!見つけましたか。」
俺が次期当主だとお父様が宣言したものの、それで「今日から次期当主だ!」となる訳にはいかなくて、今まで色んな書類にサインをしてきた上に、何か月も経った今日も俺はまだ正式な継承者ではない。
しかしそれも、今ヒバリィが持て来た書類にサインをすれば終わる。もはや継承者になりたくてサインをしているのか、早く手続き終わらせるためにサインしているのかが分からないが、この書類が最後のようだ。
「ちなみに、誰が私の後見人ですか?」
「私です。」
「ヒバリィが?それって、つまり結局後見人を見つけられなかったってこと?」
「安心して任せられる相手となると、ね?」
お父様的には別の人がいいけど、結局は奈苗の乳母をやってたヒバリィが後見人か。子供を甘やかしたくないけど、結局甘やかしてしまう親バカだな。
「あの男、あたしが奈苗を甘やかすんじゃないかって、なかなか首を縦に振ってくれなかったね。」
「でも、甘やかしてくれるでしょう?」
「しないわよ。私達二人が苦労して始めた会社だから、ビシバシする。」
「ほぇ~、お父様と二人で始めた会社か~。」
同級生にして仕事仲間、何でこの二人は夫婦じゃないだろう?余程好みのタイプが違うとか?
あっ、高村桃子が手を振っている。「やっほー」と手を振って返す。
「何で全員いるの?そして、何でみんなメイド服?」
冴塚彩音が勇司を背負っているし、竜ヶ峰紅葉までがメイド服を装備している。何なんだ一体?
「お嬢様が最後の署名を終える前に、是非我が財閥の一番稼げている仕事について知ってもらいたいからです。」
「急ですね。でも、それはメイド服と関係あるのですか?」
「いや、メイド服と関係ない。関係あるのはメイド隊の隊員です。」
ヒバリィが振り返って、メイド隊のみんなに「行ってきなさい」と言った。すると、紅葉先生と彩ねーを除いたメイド隊のみんなが「了解」と言って、魔物の群れに向かって行った。
「おーい、みんなー、私への挨拶を忘れているよー。」
小声で寂しさを訴えた。
大分仲良くなっていたと思ってたけど、俺の勘違いのようだ。モモ以外、誰も俺に挨拶して来なかった。
タマでさえ、引き攣った顔で俺を無視した。心に来るものがあるな。
「皆の事が心配、奈苗ちゃん?」
「あはっ、ヒバリィん。ヒバリィに『ちゃん付け』で呼ばれると、心がざわつきます。」
「なら、お嬢様?」
「いいえ、他人行儀の呼び方より、ちゃん付けで呼んで。プライベート多めでお願いしますわ。」
「じゃ、奈苗ちゃん。皆の事が心配か?」
「心配されるような行動をさせたのですか?」
「質問を質問で返事するのは良くないわ、お嬢様。それで返事ですか、守澄財閥の技術力をお伝えする為に、職員の皆さんに協力してもらいました。
お嬢様、伝音機をお持ちですよね?」
「でんおんき?なにそれ?」
「神の遺物で、球体の外見で手に乗るくらいの小さい形...紅葉さんからもらっていると聞いたか。」
スピーカーの事か。
「もらってませんよ。」
「そうなの?」
「紅葉さん、お嬢様の言っている事は事実か?」
俺の嘘を暴こうと、ヒバリィは残ってた紅葉先生に声を掛けた。
「お嬢様、私もそろそろ...」
代わりに俺の相手になったのはメイド長ちゃんだ。
「長ちゃんも行くの?」
「はい。私も一つ、太古の遺物を託されております故、その威力をお見せしないと。」
太古の遺物?ここは守澄財閥の技術力を見せる場じゃなかったのか?
「でも、私は?長ちゃんが行っちゃったら、私はどうすればいいの?氷の上に横たわればいいの?」
雪の下が土なので、雪原に身を委ねたくない。かといって、氷の上も冷たそうで嫌だな。
「私がいたします。」
もう一人残った彩ねーが俺に寄ってきた。
「彩ねーか?勇司ちゃんもいるのに、大丈夫?」
「ナナちゃんは軽いですから、ふふ。」
「それに、勇司がいても私が残らないといけない理由があるわ。分かるでしょう?ナナちゃんの体調の事が一番分かっているのは私なのだよ。」
言いながら、彩ねーは自分の物入れ結界から何かを取り出して、それを俺の指に嵌めた。
「貴女の願いが叶いますように。」
指輪だ...
「ずっとつけてなかったの?よく無事でいられたわね、私。」
「今までは魔力過剰な状態だったからね。でも、今からその魔力をナナちゃんの体を巡ってもらいます。少し眩暈がするかもしれません。」
「ん...」
ほけー...
「ナナちゃんが眠っている間に行いたかった。」と、彩ねーが小声で言ったような気がする。
いつの間にか、彩ねーに支えられながら、立たされていた。
気が付いたら、メイド長ちゃんが走って離れていた。
「カバーン...あっ、雪のうえ~...ふにゃーん。」
「ナナちゃん、大丈夫?」
「ん...だいじょーぶ。んー...」
なんだか、すごく心地がいい。嫌な気分が全くしなくて、温泉に浸かれた時に似た心地よさだ。
「眩暈ではなくて、恍惚でした。」
「そうなの?余程相性が良かったのかしら。」
「三人成虎...相性の話はもういいよ。」
相性が良いというより、麻薬だ。一生知らない方がいいに決まっている。
「足に力を入れられますか?」
「...無理。」
「やはりすぐには無理ね。どうして無茶をするのですか?」
「すんなり私の我儘を聞いてくれたから、『無茶』ではないのかと思ってたの。
でも、例え無茶でも来るわよ、雛枝がいるから。」
あき君も来ているけど、男の為に無茶する訳がない。
「体がまだ動けないのに...どうして旦那様がナナちゃんの命令に絶対服従の指示を出したのでしょう?
そして、どうしてメイド長も花立さんもナナちゃんの現状より、旦那様の指示を優先したの?」
彩ねーは俺がここにいる事を快く思ってないようだ。元ナースのプロ意識でも燃やしているのだろう。
「私に言わせれば、彩ねー達の方がおかしいのよ。吹雪は吹いていないけど、どうして雪原の上にメイド服なの?魔法、使っていないでしょう?寒くないの?」
「あっ!屋敷での作業服と同じ見た目だけど、今回のは寒さに強い材質で作られています。寒くありません。
これも宣伝の一つです。夏服の見た目をした冬服が作れる守澄の技術力~、だそうですよ。」
「水着のような潜水服が作れるって事!?」
「それは流石に...作れない、と思う。」
もし作れたら、魔法が使えない俺も氷の国の海で泳げる!是非、お父様には頑張って欲しい!
「お嬢様、紅葉さんが言うに、お嬢様が奪い取っただそうですか。お嬢様の言い分は?」
「ドラゴンに勝ったのだから、その秘宝は私の物でしょう?」
「つまり、伝音機はお持ちだと?」
「...『もらって』はいませんわ。おほほほっ!」
俺は雪の上の鞄に目を遣り、「0、1、4」と言った。
「何で意味もなく嘘を吐く、奈苗ちゃん?あの男に似てきたな。」
「お父様に?ワーイ!」
「喜ぶな!って、棒読みだった。やれやれ...
よいっしょっと、14番ね。」
花立雲雀は不慣れな手つきで俺の13番目のナナ八秘具・戦場用貯蔵箱に数字を入れて、14番目のスピーカーを取り出した。
...しゃがむ時に「よいしょ」はやめよぜ、ヒバリちゃん。お前のようなロリっ子体型人間が言うと、俺が悲しくなる。
「それ、どうやって使うのです?」
「同級生の誰かに使わせた事がなかった?」
「使い方が分かりませんでした。」
「お嬢様の神時代の知識が多かったから、知らない事がないと思っていました。
この遺物は魔力を原動力としています、魔力を遺物に注ぎ込めばいい。」
「...他力基本だわ。」
太古の遺物なのに、電力じゃなく魔力を要するのか?「遺物」もどきだ、絶対!
「皆はもう戦ってるな。お嬢様、あたしが今から伝音機を使って、皆さんに自分達の戦い方を述べさせるので、お聞きください。」
「戦いの、中継?それなら、どうして紅葉先生は行かなかったのですか?」
「私は研究者だ。」
急に会話に挟んできた紅葉先生は一言だけ言って、怠そうに手で尻を掻いた。外見は病み系の美人なのに、中身はオバサン以下だな。
けど、これはこれで...
「では、まずは藤林凛にしましょう。」
言いながら、リンの居場所を指で教えるヒバリィ。
「リンちゃん!」
「えっと、藤林凛、です。」
「ホントにリン子の声だ!」
ラジオを聞いている気分だ。
「オレ、が使う武器は『手榴弾』という、太古の遺物の模造品です。オレは足が速いから、こーして手榴弾を、こう!んで、逃げる!」
言葉の直後、リンのいた場所に大きな爆発がした。
「あっ、えっと...敵の体のどこかに手榴弾を仕掛けて、起爆の栓?を引いて、爆発する前に逃げる。魔力を使わず、爆破の魔法が使える、誰でも扱える魔道具、です。
あっ、基本は投げて使う、らしい。」
「ねぇ、ヒバリィ。リンの商品紹介ですが...」
「分かりにくくてすみません。帰ってから教育し直します。」
「いいえ、そうではなくて、手榴弾って...」
「既に量産できるように体制を整えています。ご心配なく。」
いや、その心配じゃなくて、手榴弾という武器を作っている事を問題視してるんだか。
「次、高村桃子。」
「あ、うん!」
「はい、モコでーす!お嬢様、聞こえてますか?」
「...うん、モモだね。」
とりあえず、最後まで聞こうか。
「あたしが~、使う魔道具は~、誰でも使える身体強化系統の戦衣です!あたしの場合はっ!」
突然、モモが高く跳び上がった。
「跳躍強化と聴力強化ですね。」
そして、着地するモモ...と思いきや、その着地点は魔物の上だった。
その後、また跳び上がったモモ。魔物の方が雪の下に埋まった。
「跳躍ね、かなり正確にできましたわ。踏み場への衝撃力もある程度変えられます。こうして...」
雪原に降りたモモ、今度はほぼまっすぐ前に跳んだ。その先の魔物に蹴りを入れて、その反動で元の場所に戻った。
「お嬢様は見えないでしょうけど、実は地面の方は殆ど凹んでませ~ん!魔物は遠くに飛んじゃったけどね。」
「魔法ですね。」
「魔道具なので。」
物理法則を無視するのが魔法だけど、なかなか受け入れがたい現象だ。
「聴力の方は強化し過ぎて、反射神経まで強化されちゃって、危険回避ができるようになっちゃったわ。けど、お嬢様がくれたカチューシャを外すのは...モコ、いやです~。」
「また可愛い子ぶっちゃって、モモったら。」
こういう子、女の子は厳しいだろうけど、男は弱いんだよな。
...俺対策?
「やればできるのに...
次はお嬢様のお気に入りの猫屋敷にしましょう。」
「タマの番?あの、勘違いしないで!私のお気に入りは猫のタマであって、女の子のタマはみんなと同じよ。」
「猫の子の方はあたしも好き。何でしょう、あの愛らしい姿。絶滅してた事が信じられない。」
ヒバリィの種族は確かハムスターだよな。齧歯目なのに、猫を好きになれるのか?
「ななえ、今聞える?独り言を言ってるみたいで、変な感じ。」
「タマの声だね、にゃーじゃなく。ね、ヒバリィ?」
「無駄口を叩かない。」
「はい...」
一緒におふざけしてくれない方のメイド様だ。お父様の同級生だから、そうなるか。
奈苗はどんな風にヒバリィと接してるんだろう?
「私、投槍です。何でもよかったけど、私は元日暮流拳法の門弟で、投擲技を開眼したせいで?あー、違うか。なんか、破門されたんで。けど、そういう経緯で、投げと受け流しが得意んです。それで投げやっ、り!」
声が止まって暫く、タマからかなり離れた場所に砂塵が舞った。タマと関係ないと思ったら...
「槍を敵に投げて、更にそれを回収する、ブーメランみたいな?これも違うか。つまり、投げ捨てた武器を回収する魔道具が開発中、です...ですよね?」
「私に聞かれても。ヒバリィ、どうです?」
「鋭意開発中です。猫屋敷も再教育だが、話を聞いてくれるかは怪しい。」
ヒバリィが「苦虫を噛んだ!」みたいな顔をしてる。
「まぁまぁ、タマは見逃してあげて。一時間しか人間で居られないから、教育しても、それを生かせる時間がほぼありません。」
「お嬢様は本当にあの猫メイドに甘いですね。」
「面目ないです。」
嫌味を言われた。確かに、俺はタマに若干甘いようだ。
「次、神月椎奈。この子もこの子で、ちょっと問題児なんだよな。」
「シイちゃんが?」
特別に問題視するような女の子とは思えないんだか。
「遂に私ですね。お嬢様、シイちゃんです。」
「『わたくし』とか言ってるわ。猫かぶりシイちゃんだ。」
「従順ではあるが、如何せん向上心が、な。」
「そういう事?シイちゃんに目を掛けてたの?」
「赤ちゃんの頃から知ってる子だから、多少なりと期待をしていた。後で従順すぎた事に気づいて、しかしもう...やれやれ。」
我が子のように思っていたのかな?奈苗として、嫉妬すべきか?
「今回、私が使うのは手袋と魔法銃の両形態に変換できる魔道具です。私はこれを『拳銃』名付けました。お嬢様にはお見せした事があると思います。」
拳銃って...拳と銃を分けた状態で思いついた名前じゃないぞ。
「見えるでしょうか?今、私は幾つの魔物を殴り飛ばしました。」
魔物が飛んでいるのが見えた。アレは飛ばされていたのか。
「そして、直後に銃!」
何匹の魔物が倒れていくのが見えた。
「このように、瞬時に形態の変換が可能の魔道具です。」
「『このように』と言われても、私は音声しか得られません。」
「映像の同時放映はまだ研究中です。未だに『記録』以外の方法で映像を残せない現状を考えると、改めて神々の時代の技術力が如何程高いモノだと思い知らされます。」
「魔法でそれができない事に、私的に意外な事なのだけれどね。」
幻惑系の魔法なら何とかなれると思うけど、魔法が使えない俺が何か言っても、釈迦に説法だろう。
「このように、個々人の特性に合わせて、複数の武器を操れる人に武器形状変換可能の魔道具が生産可能。申し込みはっ...あっ、今はいいのか。
お嬢様、ご検討をよろしくお願いいたします。」
「検討って、何の事ですか?」
「その話は最後にしましょう。次は矢野春香です。」
「改めて聞く話でもないけれど、あの痴女を私のメイドに雇うのは本当に大丈夫なのですか?」
「...今のメイド長は早苗、私は口出ししません。」
口惜しいと思っているのか?可愛い奴め。
「お嬢様ー?あー、お嬢様ー、あたしあたしー、エキドナの春香だよ~。」
「何でルカは喋る度に長く息を吐くの?」
声だけでドキドキする。
「あたしー、寒いのが苦手ー。だからー、あたしが使う武器ってぇ、すっごく熱いの。」
へー、そうなんだ。見えないから、わっかんないぜ!
「これー、長い時間使い続けると熱暴走するのですが、あたしは『贈湿』という名の水の呪いを受けててー、この遺物が超合うー。」
「そうしつって何?」
「とある呪いの名前です。」
「簡潔か、シンプルか。」
俺の相手をしたくないって事だろう、ヒバリィは。
分かった。後で早苗に聞こう。
「おー、まだ名前を言ってませんでした。これはー、火を噴く神の遺物、『火炎放射器』です。あたしにびったりな武器ー。」
「火炎放射器ですか。」
「やはりご存じですね。」
「むー、どうでしょう?私の知ってる火炎放射器と同じかどうか、怪しいですねー。」
「矢野さんの喋り方を真似しないでください。」
...ちょっとうつった。
「柳玲子。優秀の子だけど、柳家との関係を考えると、近すぎず遠すぎずの距離を保つ方がいいでしょう。」
「上品なオジョウの番か。楽しみですね。」
「おじょう?まぁいいでしょう。」
「お待ちしておりました、お嬢様。柳玲子でございます。」
俺の一番近くにいたオジョウが体を曲げて、こっちにお辞儀をしたように見えた。
「私がお使いする魔道具は魔法強化系統の戦具です。効能は単純ですが、魔法操者にとって有難い一品です。」
オジョウは何かを取り出して、それを優雅に撫でた。
「私は音楽が好きなので、竪琴にしてもらいました。そして、これから演奏する曲をどうかお聞きください。」
竪琴の音が聞こえる。柔らかの音色なのに、何故か心がドキドキする。
とてもいい曲で楽しんでいるのに、何故だろう、楽しまないといけないという念に駆られている気分だ。
「かつての『不滅の勝利の火』の伝説に与り、結界に火の輝きを与えます。響き渡りましょう、炎壁の旋律!」
俺達を囲む透明の結界が色を変えて、形を変えて、燃え盛る炎となった。これが魔法だと知らない人が見たら、森林火災でも起きてるじゃないかと疑うのだろう。
「雪の上に火を起こしてるわ、すげぇ。
ヒバリィ、なんかオジョウだけが他のみんなとスケール違くないかぃ?」
「あたし達の予定では桃子以外の四人にもこのような見栄えの良い演出をして頂きたいところだが、あたし達もその『良い演出』を模索中です。柳さんの品の見せ方はとても勉強になりました。」
嬉しそうに笑うヒバリィ...かと思えば、すぐに落胆した表情を見せる。
「柳玲子は私のメイドよ、お父様にあげたりしないんだからね。」
「ん?」
「ですから、お父様の他の会社に転職なんかさせないんだから、ヘッドハンティングしようとしないで。」
「ぷっ、はは...できません。柳家とは良い関係でいたいから。」
ヒバリィの為に我儘お嬢様を演じたが、オジョウは家柄に縛られているという嫌な情報を得てしまった。
「次は...赤羽家の真緒か。」
「マオちゃんも問題児?」
「協調性に問題があるな。けど、潜在力はまだ未知数。将来、大成するかもしれない。」
現在優秀のオジョウと将来優秀のマオちゃんか、マオちゃんの事を舐めていたようだ。
「お、あたし?忘れられたわけじゃないんですね。では、赤羽真緒、いきます!」
急に空にいるマオちゃんの下の雪原に爆発が起きた。
「ロケットランチャー!あたしに与えられた太古の遺物です。」
「そんなものまで掘り出したの、守澄家は!?」
流石に驚きだ。
そのうち、核弾頭をも掘り出せるじゃないかと心配になる。
「火の祝福を受けているあたしだから使いこなせる聖遺物!爆発魔法をほぼ無制限に出し続けられる、凶悪な武器。しかも、あたしの手によって改造されて、視界を遮れる煙幕弾や、火を放ち続けられる噴射攻撃までができます。」
その言葉の通りに、マオちゃんのところに黒い煙が昇ったり、高圧水のように伸びる火の線が地面に刺す。
距離が離れたお陰で、それをただのショーだと思えて、恐れを感じずに済んだ。
「あははははっ、気持ちいい!」
「マオちゃんは遊んでいません?」
「会社の備品を私物化しているとは、厳罰に処すべきだな。」
「よいっとー!」
スピーカーからマオちゃんの声が流れた後、一つの光が空高く上って行き、無数の光となって弾けた。
花火だ。この世界で目覚めてから初めて目にした花火であった。
「このロケットランチャーは武器としてだけじゃなく、娯楽道具として使う事も出来ます。全てはあたしが改造したお陰、他の誰にもできません!
お嬢様!マオちゃんにご期待ください!」
「将来は期待できても、今は全然だめだ。」
「そう、よね。あははっ...」
マオちゃん、俺のメイドだからって、何をしても良いという訳じゃないんだぞ。ヒバリィを怒らせたら、真の雇い主のお父様がお前を解雇するかもしれない。お前は性格に難があるが、イジメ甲斐のある可愛い女の子、お別れを告げたくない。ちゃんとルールを守ろうよ。
「早苗。この子の魔道具はあたし達が奈苗お嬢様に一番お見せしたいものかもしれません。」
「なんとなく、お父様が私に伝いたい事が分かったが、続きをお願いします。」
「お嬢様、長い時間、皆様のご発表をお聞きして、お疲れ様でした。恐れ入りますが、これからは私のお使いする神々の遺物について発表させて頂きます。もう少しお付き合いください。
私に与えられた神々の遺物の名は『ミニガン』、数秒の間に数千の魔弾を打ち出せる『兵器』です。」
「...ホント、罰当たりだよ、守澄家は。」
一体どれだけ多くの危険な物を見つければ気が済むんだ?
...遠くにいる早苗メイド長はミニガンを使っているのか、魔物がバッタバッタと倒れていき、地面の雪が舞い上がった。
「かなり反動の大きい遺物の為、持ち手は神月さんのような怪力特性を持つ人間の方がいいが、この遺物は同時に仲間に被害を及ぼす危険がある為、重力を操れる私が扱う事となりました。
自分の重量を増やして反動を押さえ、魔弾の重量を操作して同士討ちを避ける。
改良を重ねてここまでできるようになっているが、それでも使っている内は動けないという弱点が残っております。守澄グループはそれを今後の課題として、これからも研鑽を続けることを約束いたします。」
「生真面目なメイド長ちゃんにもそんな危険な物を持たせるとは、お父様は罪作りな男よの~。」
「使い方が間違っているけど、あいつは確かに罪作りな男だな。
次、内山千咲さんです。」
「いいえ、もう十分でしょう。言いたい事は十分に分かりました。」
「いいのですか?一人だけ何もないとなると、不公平になると思いますか。」
「確かに...」
後でオロちゃんが「なんでウチだけ!」と喚かれたら、面倒な慰め言葉を掛けなきゃいけない。それは面倒だ。
聞くフリだけでもしておこう。
「お嬢、様?あ、はい、千咲です。ウチ、身体強化系統の戦衣です。
ウチ、ゴブリンなんあけど...地味な奴は地味装備がお似合いって事あね。
モコ先輩は跳ぶけど、ウチ、避けうが上手くなった。なんだか、ケンタウロス族の人間になった気分。」
どうやら、オロちゃんは魔物達の群れの中で逃げ回っているようだ。遠すぎて見えないし、イマイチ凄さが伝わってこない。
とりあえず、オロちゃんの話を耳に通した。どのくらい脳に入ったか、神のみぞ知る。
「ねぇ、ヒバリィ。こんな嫌なものを私に見せて、お父様と君は本当に私に守澄の家業を継がせたいのですか?」
「あたしは奈苗ちゃんに継いで欲しいけど、ご当主様は...どうだろう?」
正直、お父様の事について、また分からなくなってきた。今まで自分の娘を次期当主に指名しなかったのは、本当に守澄財閥の為に、体の弱い奈苗に託せないと考えていたからなのだろうか。実のところ、奈苗の為なんじゃないのだろうか。
奈苗を次期当主に指名したのは、結局のところ、家業を継がせないとしても、「守澄の娘」という札が奈苗に張り付いているから無駄だと、そう諦めたからなんじゃないだろうか。
「最後のサインをするかしないか、その後の事は自己責任って事ですね。」
「はい。まだ幼いだとしても、甘やかしはしません。」
「酷いな、ヒバリィとお父様は。十五になったばかりの小娘に、自分の行動の責任は自分で取れとは。」
「それが守澄です。世界最大な財閥の当主になりたいなら、このくらいの覚悟は当たり前です。」
一代にして、世界最大な財閥、か。
もう何となくわかったけど、今一度聞いておこう。
「雲雀さん、守澄財閥は...なに?」
「守澄グループの事業は多岐に渡りますが、一番儲かっている事業は武器の開発と販売です。
私達は武器商人です。」




