表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/122

第八節 神々の墓④...秘かに隠れている蜜

「ごめんね、あき君。またあき君に辛い思いをさせちゃって。」

 あき君の後頭部を見ながら、彼に小声で話しかける。


「さっきも言ったけど、ななちゃんは軽いから、全然辛くないよ。」

 そう言って、少し体を動かして、体勢を調整するあき君。

「ま、あの時も状況が状況だから、俺の話を聞こえなかったのも仕方ないけどな。」


 いや、ばっちり聞こえていた。

 だから、俺が言いたいのは別の事なんだ。


「でもね、抱っこはともかく、私を負んぶするの、大変じゃない?

 ...男の子的には。」

「っ!」


 ダンジョン探検による興奮が冷めてから、俺はすぐに疲れを感じた。体力の限界が近い事に気づき、歩くのを辛くなっていた。

 普通なら、ここで休憩を挟むものなんだが、今疲れているのは俺だけで、あき君の方は全然余裕みたいだったから、俺からあき君へ一つの提案をした。


 それは、「私を背負って、戻りましょっ!」というものだった。


 この提案に対して、男の子のあき君は難色を示した。俺も別におバカ天然キャラじゃないから、自分のこの提案はあき君にとってどれほど悩ましい提案なのかは分かる。

 だが、体力の限界に近付いている事も確かな事。この提案が、ただの悪戯心から生まれたものではないんだ。


「身長に合わず、無駄に大きいもんね、私は。」

「...何の話か、ヨクワカラナイ、なー。」

「白々しい態度ね。もう少し上手い嘘のつき方を身に付かないとだめだよ、あき君。」


 悪戯心は確かに込みでの提案だった、それを認めよう。


「こうして女の子とくっ付けるのは初めてか?

 でも、あき君はモテるから、初めてじゃないのかもしれないね。」

 彼の耳元で囁いて、声で彼をイジメる。

「ねぇ、私が何人目か、教えてくれない?」


「下ろすよ!」

「それだと無駄に時間を浪費するし、あき君にとっての楽しみも減るじゃないかな?」

「分かってて訊いてくるのって...ホント性格悪いな、ななちゃん。」

「そんなの、とっくに知っていたじゃないか。

 それに、私の提案を受け入れた時点で、あき君も人の事が言えないよ。」

「うっ...」


 意図的に彼の背中に自分の上半身をくっつけさせた訳じゃない。けど、力を全部抜いた状態で彼に全てを預けると、自然と胸が彼の背中にくっつけてしまうんだ。

 揶揄ってはいるが、俺が彼だったったら、絶対自分の中の獣を抑えられないだろう。だから「辛い?」と訊いたのは、実は本心からなんた。


「例え下心も入っていても、人の好意に甘えている身。なのに、その人を揶揄うのは流石に人が悪すぎるよね。」

 胸の位置を少しずらして、頭もあき君の背中に乗せて、自分にとって一番リラックスな体勢をとった。

「ごめんね、あき君、背負ってくれてありがと。あき君も好きなように楽しんでいいから。」


「...それで『はい』って言える男はいねぇよ。」

「だよね~、ふふっ。」


 ほんのりと感じるあき君の体温。

 気分は悪くならないけど、やはり彼もそれなりの魔力を保有している。

 その魔力、彼の剣技と融合したら、どんな威力になるのだろう?


「...おかしい。」

 そう言って、何もない通路の真ん中で周りを見るあき君。

「ここにいた奴らはどこに消えた?」


「奴らって?」

「俺達が入った時に邪魔してきた連中の事だよ。

 確か、この辺に屯っていたはずなんた。」

「もうあの辺りに着いたのか。」


 まぁ、普通に起きて、上に戻ったとも考えられるか...


「『おかしい』と感じたのはなぜ?」

「...キレイすぎるんだ。」

「ボロ宿屋より薄汚れているように見えるけど?」

「俺が言いたいのは『人が残した痕跡』だよ。ついさっきまで誰かがいたような感じてはなかった。」

「そうね。」


 薄汚れているから、目の良いあき君に違和感を感じさせたのかもしれない。


「六人も屯っていた場所なのに、通路の他のところとほぼ変わらない。あき君が走った跡しかない。

 ねぇ、あき君。今、私は何を思いついたのか、想像できるか?」

「...悪い、俺はななちゃん程頭良くないから、今は『変だな』としか頭にないんだ。」

「そうね、すぐには何も思いつかないよね。」


 彼はまだ若い、今すぐ俺が想像したところまで思いつかないのは仕方のない事。

 きっと夜に一人になった時、ふっとソレに気がづくのだろう。


「私はね、あき君。先程見た『六人が屯っていた光景』も幻惑系の魔法じゃないかって、思ったんだぁ。」

「幻惑系...って事はあの人達、『幻影』だったのか!?

 でも、手の感触が凄くリアルで、倒しても消えなかったじゃないか。」

「大元は恐らくあの『空洞』なのでしょう。あの空洞内の『幻視』の魔法と連動して、人除け用に作られた幻像、奥に行かせない為の仕掛けかもしれない。」

「そう考えると、この事件の犯人は本当にとんでもない奴かもしれないな。園崎さんと知り合っていなければ、絶対に気づけない程の精巧な『幻影』だった。

 こっちの道、園崎さんが来た方がよかったのかもしれない。」

「...それはどうでしょうね。」


 魔法下手なのに、魔法を斬れるあき君がいなかったら、幻覚だと気づけても、その幻覚を解除できるとは限らない。

 特に空洞内の「幻視」魔法、千人も超えた子供がいるのに、今まで二ヶ月?その間にここへ遊びに来た探検家の誰一人も気づけなかった。蝶水さんも気づけないかもしれない。

 蝶水さん自身も、俺の中での疑いがまだ完全に晴れていない。

 道案内役(ナビゲーター)の望様も気づけなかったのかな?


「一応確認するか。ここにいる六人の事、望様はどういう風に見えていたの?」

「いつも通り。人と出会えば、その人達を赤い点として見える、いなかったら見えない。

 だから、本当に幻惑系魔法なら、俺達が気づけなくても、先生には気付けるはずだ。」

「つまり、『道案内役(ナビゲーター)』をも騙せる高レベルの幻惑系魔法。非常に優れた、しかも解呪専門の治癒師でないと、見破れる可能性が低い。」

「...ななちゃんの話を聞くと、俺達は本当に運が良かったなって思う。

 偶々ななちゃんの体質が魔力に耐性がないから...ん?」


 突然、あき君は足を止めた。


「ななちゃん、素直に答えて。もしかして、自分が怪我する事も予想してた?」

「むーまぁ...そうならない可能性も考えていたのよ。」

「賢いななちゃんなら、俺が何を言いたいのかなんて、とうに御見通しよね?誤魔化すな。

 あの時、わざと自分から何もないように見えた空洞の中に踏み入れた。違うか?」


 静かな、しかし確かに怒りの籠った声だった。

 あき君って、妙な時に敏感なんだな。


「...治癒魔法すらダメージを食らうこの体、魔法察知にびったりだと思わないか?」

「っ!」

「痛っ!」


 急に、あき君の手が力を抜き、支えられた俺はそのまま地面に落された。

 そして、すぐにあき君が振り返って、俺を睨んだ。


「自分の命を何だと思ってる!」

「あっ、いや、あき君...」

「うるさい!一歩間違えたら、死ぬかもしれない行為を、自分から行うバカはどこにいる!?」

「いや、ちゃんと覚悟していたから、すぐに跳んで離れた訳で...」

「そもそもしないという事が出来なかった!?頭いい癖に、何でバカな事を自分からする訳?あぁん!?」

「ごめん!分かったから、ごめんって!」


 利用できるなら、何でも利用した方がいいに決まっているのに。頭が固いな、あき君は。


「謝って済む事じゃないだろう。ななちゃんが吐血した時、俺がどれだけ心配した事か...心臓が鷲掴みされた感覚、初めて味わったぞ!」

「うん、ごめん。悪かったよ。」

「心から悪いと思ってない感じがする。本当に悪いと思ってる?」

「あはは...ねぇ、あき君。悪人が自分を『悪』だと思ってないのは、いけない事だと思わないか?」

「なに言ってるの?今はそんな話じゃ...」


 あき君の話が続く前に、俺は素早く彼の首に両腕を回した。それだけで、あき君が顔を真っ赤にして、困惑の表情を見せてくれた。

 それと同時に、俺の計算通りに、彼の口を閉ざす事ができた。


「私はね、酷い人間だよ。人を()として見るような、酷い人間。」

「...何で自分をそんな風に?っ!」

「本当の事だからね。

 全校生徒の名前だけじゃなく、その生徒が提出された情報をもできるだけ全部、記憶しているわ。

 そして、その中で自分の興味をそそった生徒に積極的に接触し、そうじゃない生徒も自分に害にならないように、気を付けている。

 もちろん、全員が全員、思い通りにはいかなかったけどね。」

「なぜその事を今、俺に話す?自分の事を悪く言うのも理解できない。」

「私は自分がそういう人間だと、早いうちにそれに気づいたから。人を駒として見て、交流すべき相手を傍に残した。

 あき君、いくら考古学部が部長しかないからって、私が君を部員として受け入れた理由は、『部員がいなく、仕方ないから』だけだと思っているの?」

「っ、その時から、もう!?」

「そうよ。君が私の幼馴染で、Xクラスの生徒だから、君に興味が沸いて、自分の傍に残したの。

 いつか使える()として、ね。」

「っ!!!」


 ショックを受けた顔をしてるな。

 無理もない。はっきりと「駒」だと言われたら、誰だってショックだよ。


「俺はお前にとって、ただの駒?」

「うん、駒。でも、大事な駒ね。」

「一人の人間ではなく?」

「私は人を駒として見ているから、ね。」

「......」


 悲しそうな表情をしてる。

 でも、今回は別に告白されて、振った訳じゃないから、俺は何も悪くない。

 自分に言い訳をしながら、俺はあき君の首に絡めた腕を外して、彼を放した。


「...待て。」

「うん?」

「それとななちゃんが自分から怪我を負う事と、どう関係するんだ?」

「あちゃー、誤魔化せなかったか。」


 やっぱ時々敏感だよね、あき君って。


「ななちゃんにとって、俺はただの駒に過ぎないんだと分かった。

 んで、それとななちゃんが自分を傷つける理由とどう関係する?」

「むまー、さっきも言ったか、私は人を駒として見てる訳でしょう?」

「そうだな。」

「その人の中に、()も含まれているでしょう?」

「...はァ!?」

「私自身も駒の一つだよ。使える時が来たら、使わない手はないでしょう?」

「自分自身も駒として見て、使うべき時に、使う?」

「悪人には『悪』である自覚があるべきと同じ。人を駒として見るのなら、自分も駒として見ないと、不公平でしょう。」

「......

 はぁ...」


 長いため息に呆れ顔...あき君は自分の頭を掻き、また俺を睨んだ。


「ななちゃんって、ホント性格悪いな。」

「天邪鬼ですよ~。」

「自分の事を悪く言って、結局優しいんだから。」


 男に優しさを振り撒くつもりはないけどな。


「だけど頼むから、今後は別の方法を見つけてくれ。

 ななちゃんに傷が増えるの、俺はやっぱ見たくない。」

「それは、私も辛い思いをするから、一応...善処します。」

「玉虫色の回答だな。」


 俺の考えを曲げられないと諦めたみたいで、あき君は背中を見せて、俺に手招きをした。


「ななちゃんがそんなに自分の事を大事にしないなら、俺もななちゃんを大事にしない。存分とななちゃんの体を楽しませてもらう。

 さぁ、さっきのように全身を俺に預けるように乗って。思い切り揉んでやる。」

「...むっつりスケベの開き直りは結構怖いな。」


 そう言いながらも、俺はあき君の背中に乗った。

 ...けど、やっぱり予防線を張っておこう。


「本番は絶対なしよ!絶対!」

「『本番』の定義にもよるなー。」

「そっちも玉虫色の回答!」


 一応7番のスタンガンを取り出しておこうかな?

 あっいや、13番は地面に接触していないと発動しないんだっけ!

 となると、万一の為に、今は何かの話題で彼の気を逸らしておこう!



「そういえば、あき君はなぜこのダンジョンを薦めてきたの?

 あき君が初めてのオススメ、しかも結構積極的だったね。理由はなに?」

「え?あー...まぁ、ななちゃんなら、言っても良いかな?」

「何々?何か秘密でもあるの?」

「うん。別に大した秘密でもないけど、ちょっと人に説明しても、殆ど信じてもらえないっていうか。」


 この世界で?何でもありの魔法あり世界で!?


「俺さぁ、ちょっと特殊な力を持ってるんだ。」

「特殊な力?奇形児(きけいじ)の血統融合特性?」

「いや、俺は奇形児ではなかった。この力は本当に、俺だけが使える力。遺伝の可能性はない。」

「ふーん。

 ねぇ、あき君。私、こう見えても学年一位なのよね。」

「『こう見えて』って何だよ?学年一位は知ってるから。」

「だからね、結構博識であると自負しているのよ。『魔理』の授業だけじゃなく、実は『理系』の総合点数に関係ない『文系』の『種族』も満点を取れてたよ。」

「...『文系』の試験もしたの?」

「『文系』の中で『種族』だけは実技がないでしょう?空いた時間で先生に読んでもらった。」


 種族の授業は主に色んな種族の種族魔法(カインドマジック)種族特性キャラクタリスティックを教えるが、所詮は高校生レベルで、「基本」程度の知識だ。

 だから、奈苗の知識を引き継いだ俺も点が取れるかなと思って、遊び半分で受けてみたんだ。


「え、ななちゃん!?お前の一位って、確か五百点満点の一位だったよな。『空いた時間』って何?」

「回答終了後の残り時間の事だよ。その残り時間で追加問題を答え、追加点を取るのもよかったけど、私はそれを使って『種族』の試験を受けてみた。」

「はぁあああ!?」


 振り向いたあき君の顔があり得ないモノを見た時の表情をしていた。


「回答終了後に残り時間?あの問題量と難易度は時間内で答えられるようなもの?世界最難関の一研(いちげん)の試験に、『追加問題』!?」

「...Xクラスでは知られてないのか?」

「初耳!初耳すぎるよ!『追加問題』はあるの?」

「えっと、Sクラスに入りたいなら、五百点満点ではだめなんだよ。追加点を取って、五百点を超える気概がないと、すぐに普通クラス落ちだよ。」

「でも、ななちゃんは五百点で一位だろう?他に五百点を取った生徒はいなかったぞ。」

「みんな、一年生の初めての試験だからね。説明を聞いても、『追加点を取る』発想がなかったのかもしれない。

 上級生達の点数を見た?Sクラスは全員五百点超えしてるし、それ以外の普通クラスにも何人、五百超えした生徒はいたわ。」

「上級生達の成績まで確認したのか?

 あー!ななちゃんは全校生徒の名前も覚えるくらい、全員チェックしてたよなー!そりゃ点数位、普通に確認するよな!!!」


 ガクッと項垂れるあき君。

 いやいや、あき君。今は自慢したいから成績の話を振った訳じゃないんで。


「あき君、落ち込まないで、私の話を聞いて。」

「何でしょうか、学年一位様?」

「いや、『学年一位』は私の二つ名じゃないからね。

 私が言いたいのはね、私は結構の量な知識を持っているけれど、誰かだけが使える魔法はあるのはあるが、絶対遺伝できない証拠がない事を知っている。

 だから、あき君の『自分だけが使える、遺伝の可能性ない』という言葉に疑いを掛けている。これが言いたかったのよ。」

「何でも仰ってください、学年一位様。」

「もう!」


 パッとあき君の両頬を叩いた、自分の全力で。


「あき君達を怒らせるから、言わないように我慢してたけど、私も自分の秘密一つ、教えてあげるよ!」

「はい...」

「実は、事件が解決した事に対して、私は...かなり落胆している。」

「......え?」


 ようやく正気に戻ったか、あき君は今回驚きの表情で振り向いてきた。


「嬉しくなかった?」

「喜ばしい事だと思うわ。子供達も救えたし、その親御さん達も喜ばせる事が出来たのでしょう。」

「なのに、落胆?」

「えぇ、落胆。もう少し手こずるかと思っていたからね。」

「何で?人助けは良い事だよ。

 何で人を助けられたのに、逆に落胆したんだ?何で手こずって欲しいと思う?」

「だって、つまらなくない?解決不可能と思われるような事件をあっさり解決した事、楽しくなくない?」

「人の命が掛かっているのに、楽しいか楽しくないかって思える?自分が何を言っているのか、ななちゃん、ちゃんと分かってるんか?」

「分かってる。

 でも、人の命が掛かっているのに、解決した事に対して、『拍子抜け』を超えて落胆した。

 私はそういう人間だよ。」

「......」


 意外な事に、俺の告白を聞いたあき君は怒る事なく、冷静な態度を見せた。何かを考えているような顔だった。

 それを見て、俺は自分が「人を駒扱いする」発言した事を思い出した。どうやらその時、あき君は何かを学んだようだな。


「詳しい説明を聞かせてくれ。」

 そう言って、あき君は自分の顔を見せないようにしたいのか、前を向いた。

「ななちゃんの秘密、まだ終わってないんだろう?」


 あき君は気づいたのだな。「事件の解決」がイコール「問題の解決」ではない。

 いや、例えそこまでの事に気づいていないとしても、自分が浮かれて、何かを見落としている事には気付いていたのだろう。

 せめてそのくらいに賢くなってもらわないとな。


「退屈だったの。」

「......」


 どうやら、俺が語り終わるまで、何も言わないつもりのようだ。

 無反応。

 相槌も打たないのは良くないが、今この瞬間、これが俺的には一番望ましい。


「氷の国を支配している二大勢力である政府と喰鮫組両方を悩まされた大事件、過去に類を見ない異種な大規模犯罪行為。それ程な事件なら、きっと私の脳みそを絞り尽しても、解決に至らないかもしれない。

 だから、ワクワクしていたんだ。自分が今まで聞いた推理小説の主人公のようになり、事件解決に向けて手掛かりを探し、犯人を見つける為、直向(ひたむ)きになるのでしょう。

 ...そう思っていた。


 だけど、結果はどうだ?昨日で事件を知り、今日で被害者を見つけた。

 犯人の目的や犯行の手段とか、伏線を一杯残して、急に数行で全部終わらせた三流推理小説のようだ!いきなり結末をネタバレされた気分だ!

 分からない事がまだ沢山あるのに、終わり良ければ総て良し?そんな訳ないでしょう!今回解決しても、結局何一つ判明していないから、またすぐに『再犯』が起きるよ。


 モヤモヤする。ムカムカする。つまらない。つまらないわ!」

「......」


 まだ無言。俺がいつ全部言い終わるかが分からないって感じかな?

 けれど、俺が真に伝いたい事が分からないという可能性もある。

 少し試してみよう。


「あき君はどう思う?

 何も分からないまま、全て終わらせていいと思うのか?」

「...俺は、沢山の人を助けられて、それに喜んでいた。

 けど、ななちゃんにとって、それでは足りない。」

「えぇ、そうよ。すんなり解決できて、すんなり過ぎて、つまらないわ。」

「全ての謎が解き明かされていないから、不機嫌になっている。」

「落胆してるわね。簡単すぎて、面白くない。楽しくない。」

「人を助けられたが、まだ犯人を捕まえていない、見つかってはいない。

 今も牢獄の外でのうのうと生きている、罪の償いをしていない。」

「今回の事で身を隠すかもしれない。全ての謎を残したまま、蒸発するかもしれない。

 そんなの、こっちが頑張った甲斐が全くないのではないか。」

「...よく分かったよ、ななちゃん。

 どうやら、俺がななちゃんの邪魔をしたようだ。」


 ようやくまた振り向いてくれたあき君、何故か少し疲れたような笑顔を見せた。


「邪魔?あぁ、最初にダンジョンを選んだ時の事ね。

 安心して、あき君。実はあの時、私も最初はここ、この『神々の墓』というダンジョンを選ぶつもりだったよ。

 あき君が先に提案しただけで、別に私の邪魔などしていないわ。」

「ななちゃんも最初にここを選んだの?何でここを選んだ?」

「それは私の方こそ先に訊きたいのだか。あはは、一歩遅れたね。

 ここが私が考えた犯人が隠れ住む候補の中で、一番可能性の高い場所だったからだよ。」

「そうなの?何故そう思った?」

「だって、ここは第一区じゃないか。」


 ダンジョン「神々の墓」は福本区にあるダンジョン。そして、福本区は氷の国四十七区の中で最初の区であり、氷の国の国王が住む区でもある。

 国王の目の下が一番危険。そう思わせるような区だからこそ、逆に隠れ(みの)として一番ふさわしい。

 加えて他の国との行き来ができる唯一の海関のある場所、人の出入りが激しい。人が急に増えても、怪しく思うようになりにくい。


 だから、このダンジョンは誘拐された子供を隠すのに最も可能性の高い場所だと思い、最初に探索するつもりでいた。都合よくここで子供達を見つけられるとは思っていなかったから、探検しながら、候補の中から「次」を選んでいた。


「灯台下暗し、理由はそれだけ。

 ここじゃなかったら、また次のダンジョンで探すつもりだったのよ。」

「ただの勘ではなく、きちんと理由があったんだね。」

「勿論だよ。

 組み分け後の道選びだって、ちゃんと考えて選んだんだからね。」

「マジで?道選びすら適当ではなかったんか!」

「昨日と今日で私が運任せにした事は一つだけ、ペアを組む時のくじ引きだけだよ。

 それ以外、ちゃんと頭を使ってるんだ。」

「じゃ、何でこっちの道を選んだ?これはマジで分からないぞ。」

「そんな大した事ではないよ。適当ではないものの、軽い気持ちではあった。

 こっちの道を選んだ理由は、単にこっちが汚かったからだ。」

「ふぇ?汚いから、選んだ?」

「攻略済みのダンジョンにしては、汚れが多かった。単純に遊ぶために、一番下まで来るのが嫌とか、という理由も考えられるか。それでも、他の二つと比べると汚れ具合が半端ないくらい酷かった。

 そんな汚い道、普通は歩きたくないでしょう?」

「そうだな。埃もいやだし、靴が汚れるのもいやだな。

 今考えると、さっき通り過ぎた場所で屯っていた探検家達もおかしかったな。こんな汚い場所、なぜ屯っていたのだろうって、すぐにおかしいと思うべきだった。」


 言われてみれば、確かにそうだな。

 軽い気持ちではあったが、きちんと考えて選んだこの道。一番汚れているから選んだのに、そんな汚れた道の真ん中に屯っているのは確かにおかしい。

 ...やはり、誰かが意図的に人をあの空洞までいかないようにしている。そうとしか考えられない。


「さてと、あき君。そろそろ私の質問タイムだと思うのだが、いい?」

「いいけど、俺はななちゃん程、引き出しは多くないぞ。」

「引き出しが多くても、中身がないと意味がないでしょう?

 あき君の引き出しには、私の興味をそそる中身が入っている。それを見せてもらいたいね。」

「...大体の人が笑い飛ばすような話だか。

 まっ、ななちゃんになら、別に笑い飛ばしても構わないか。」

「おお!笑い飛ばしてもいいのか。

 では、思い切り大笑い声が出せるように、準備しておこう。」


 喉を揉んで、咳払いをする。


「いや、笑わせたい訳じゃないんだか。ななちゃん。」

「笑える話なら、ちゃんと大笑いしてあげないと、芸人さんに失礼でしょう。」

「だからさぁ...俺は別に芸人ではないんだし、今から笑わせようとしている訳ではないんだぞ。」

「それで、そのジョークを聞かせてくれ。」

「ジョークじゃないっつに。はぁ...

 ななちゃん。実は、俺にはこの世で唯一無二の力を持っている。」

「ほうほう、唯一無二、ねー。」


 結局「唯一無二」となった魔法は沢山あるし、全然珍しい事ではないが、今はこの高校一年生男子のノリに合わせておこう。


「この力、魔法ではないし、俺が学んだ剣技でもない。もちろん、他の武術の類でもない。」

「...ふーん。」


 魔法ではない...


「説明するには難しい力だ。と言っても、見せる事の出来る力でもない。

 だから、口頭で説明するしかない。信じるか、信じないか、ななちゃんの自由だ。」

「......」


 この世界には不可解な事が沢山ある。

 だから、どんなありえない事でも、あり得ると考えるべき。


「名前はない。その効果に合わせて、俺はとりあえずこの力の事を


 『正解を知る力』


 と呼んでいる。

 神様から授けられた、俺だけが使える、独占スキルだ。」

ナナエ百八(予定)の秘密道具

7番 スタンガン

13番 宝物庫と直結したレディーズバック(戦場用貯蔵箱)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ