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***


「これ、噛まれませんよねえ……?」

「そうなったらお小遣いに色をつけてあげる」

「メリルさんの乳が血の色に染まらないといいですね……」


「割と他人事気分ですよねえ、ジョゼフさん!変わりますか!?」

「あの……俺は男なんですが」

「もう男でもなんでもいいー!!その服はいで……」


アキラさんから丁度通信が入った。


「……すみません。お断りします」

「すみませんじゃ済みません!もうこの小サイズドラゴン抱える腕も限界なんですう!なんか質量が……多いんですよぉ!」

「メリルさんを無視する形になってごめんなさい!ワトソンさん……遮断結界の用意を!」


「何事?メルファさん。防護結界はあるけど……」

「敵襲です……この洞窟を、黒ずくめの集団が襲撃したとの連絡が今入りました!」


場の空気が変わる。


「まさか洞窟が崩落とかしませんよね?!」

「それを防ぐための防護結界です……敵の数は数十名程ですが、所有している武器が問題なんです」

「…………まさか、火器?」


「ええ……爆発を起こし、洞窟崩壊に導きかねないものも中にはある可能性も否定できません」

「い、急いで下さいよ先輩!!地質学の研究対象になるのは私達じゃなくてもいいですよね!?」


「分かった。けどジョゼフさん、その集団について質問いいかな。その集団について何か分かってることは?」

「いえ……アキラさんはジグラットの応援を要請しているようですが、現状はアキラさん一名で戦闘を継続しています。誰かの命が脅かされる程の激しい戦闘では無いようですが……先ほど地上のアキラさんとの通信が遮断されました」


「通信妨害……?まさか……」

「先輩早く結界張りましょうよ――!私まだ動けないんですけどーー!?」


「黒ずくめの集団……ねえジョゼフさん、あなたも戦闘に参加するの?」

「はい。非戦闘のお二人はそこで待機をお願いします。彼らの目的は一体……こんな森の洞窟に、通りすがりのチンピラが襲ってくる訳はないですし……」

「少なくとも、明らかな意思がある。私達に向けられたそれがあることは分かる……無理な頼みかもしれないけど、メルファさん。地上に出た時、その集団がもし組織だったら、私達にその名前を伝えてほしい」


「分かりました。しかしそれは……」


「うん。私達に竜殺しを依頼した、やくざもの集団『冬蝶風節』。私達が裏切ったと誤解……いや事実に近いけど、勘違いされていたらいけないから」


ただ……今私には、これだけははっきりと分かる。

ドタバタ劇はあと少しで終演を迎える、その筈なのだと。竜の少女もアーちゃんの献身によって、もうすぐ人へ戻れる筈。


そのはずだった。


***


「ジョゼフさん、地上に行っちゃいましたね」

「ここは私達に任されたってことだよ。……アーリアさんとマリアちゃんのケアを続行しよう」


魂が抜けた様に動かないアーリアにワトソンは視線を送る。

その顔に、冷や汗が背に伝う様な感覚をワトソンは覚えた。


「本気で魂が抜けてるんだろうね……そんな患者は初めてだ」

「…………先輩、怖いんですか?」

「まあね。結界はさっき貼ったけど、もし本当に洞窟が崩れてしまえば一貫の終わり。アーリアさん、ジョゼフさんの持つ、超人的な力が今は借りれない。……そう思うと、急に恐ろしくなってくるよ」


メリルはそれを聞いて頷いた。


「ああいう人間って、ほんっっとたまに出会いますよね。超人というか……私は頭脳方面の天才ですが、フィジカル方面の才能持ちはどんな奴から産まれるんでしょうね」


『頭脳方面の天才(笑)』に同意し、その疑問にワトソンは共感する。確かにあの才能は特異なものだ。アーリアの勇者の素質は、【七つの技能】を手放してさえ、表にはっきりと現れている。


彼女に残された魔力探知、千里眼、理解・実行のスキル……その他にも未だスキルを隠しているのだから、その力は文字通りに計り知れない。



だがジョゼフはどうだろう?


勇者を受け継いだアーリアの方がまだ人には理解できる。アーリアの力をRPGゲームで例えるなら受け継がれし伝説の剣。大抵のゲームならそこには魔王を撃ち倒す程の力があるものだ。それに異を唱える者は僅かだろう。



しかし価値5ゴールドの鉄の剣に、万能の力が宿っていたらどうだろう。旅をはじめたばかりの武器屋に立ち寄ったら、勇者さえ凌駕する力を手に入れてしまうなんて正にあり得ない。


理解も出来ないだろう。


――スキル【コンセントレイト】

彼、ジョゼフ・マツリが一つだけ持つスキルの仮称。


治療の合間にワトソンはアーリアに話を聞いていた。それでも聞けば聞くほどに、そのスキルについての謎はますます深まるばかりだった。


アーリア曰く、ジョゼフは贋作のようなものとはいえ勇者を撃ち倒していたとさえワトソンは聞いた。他人がこれを聞いて信じるものなどいる訳もないが、ジョゼフはワトソン達に既に信じられるだけの力を見せていた。


彼女がして見せた結界の破壊は、油を水で落とすようなもの。



時間をかければ誰にでも成し遂げられるだろう。


だが彼女は一瞬にしてそこに到達した。どんな奇跡の助けがあれば、自分のような凡人が真似できるだろうかとワトソンは思案する。


「……まあ、凡才には凡才なりにできることをしよう」

「先輩努力大好きですもんねー。今だって研究のためにここにいるんでしょ?天才の私にゃ理解できませんが」

「この生意気な後輩は……」


ついつい後輩に手が出そうになるのを抑えてアーリア達を見守る。


才能ある人物を羨ましいと思うことは無い。

むしろ先ず恐怖が湧いて出てくる。


彼女達は、理解できないがために天才なのだから。


それでもワトソンは理解しようとした。


自分のような脇役は、才能ある人物を支えて然るべき。

とワトソンは考えている。


そうすれば、きっと天才を理解できると信じている。

いつかは理解できる、そのはずだから。


そうやって、ワトソンは信じている。


***


「………………?」

「あれ、先輩。マリアさんのバイタルチェックをしたんですが……放出される魔力に妙な乱れがありますよ」

「アーリアさんが意識に介入した影響かな?」


「いや、放出魔力だけにブレがあるなんて妙です!まるで他の誰が、マリアさんにとって毒みたいな魔力を混ぜられてるみたいな……そんな感じなんですよ!アレルギー反応みたいな……」


「……それはつまり、どういうこと?」

「先輩…………この空間。私達の他に、誰かって居ますか?」


ワトソンは信じている。

そしてまた、彼女の才能も。


「……………………まさか」



先ほどのジョゼフが受け取ったという、地上からのメッセージ。アキラから受け取ったと話されたそれの話。


その直後にアキラとは通信ができなくなった。通信妨害か何かか……だが、誰かの意思がそうさせたのは間違いない。


………………だが、それは()()()()なのか?



勇者の力は竜化解除に裂かれて既に使えない。

先の通信でジョゼフは地上に向かった。

ワトソンとメリルは、ただの研究者に過ぎず、自衛の戦闘能力など無いに等しい。


少女マリアの両親の行動の不気味。彼のものの動機は以前分からない。


この状況を()()喜ぶだろうか?




――少女マリアの両親、かの者たちはどうだ。

()()()()の不気味極める、かの容疑者は。


かの者たちはどこへ行ったんだろう?

曰く犯人は現場へ戻る――どこかで知った言葉。


ワトソンは違和感を抱くべきだった。



「その答えは……この空間に、取るに足らない人物だけを残しておくため?」


「肯定。ただしいとだけいっておく」


幼い少女の声が聞こえてきた。

存在するのは、残された二人だけのはずのここで。

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