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結界殺し


「私は最悪……この竜とメリルを置き去りに逃げようかなと思ってさえいたよ。ジェイムズ研究所のことを嗅ぎ回ってるのかと思ってたし」

「えっ」


「本当に初めてだよ。ジグラットを目の前にしても寸分も動揺せず、その上ある種の気持ちが良いほどの誠実さを持つ者を見たのは。……やはり、いつの時代も研究者というのは……面白い人種だな」

「……私達はただのろくでなし集団なだけだよ」


ジェイムズ研究所――彼女らは、自身らを研究者と呼ぶ。


彼女から、自嘲の笑みに漏れる声が聞こえた。なんとも力の無い声だった。しかし同時に、ワトソンからメリルへの親しみのような暖かさも感じられた。


「ワトソン……その口調ならば、気が変わったとでも言いたいのだろう?」


「うん。貴女以外のその二人……紹介してもらった通り、本当にジグラットではなさそうだし、私達を拘束しにきた様子でもない。けど一つ、ジョゼフさんについて」

「……?」


「どうやって竜の少女を助けるつもり?本来人の手足のように制御できるはずのユニークスキルが暴走したっていう事実も興味深いけど、暴走状態にある個人が発動しているユニークスキルを他者が解除する方法なんて全く想像がつかない。そんなことができるのなら、私たちにとってはそれこそ奇跡だよ」

「えぇと、要するに……?」


「誤解を恐れずに表現すれば……つまりメルファさんに興味があるってこと」

「……どうしてこう……研究者ってのはいつもこうなのかしね……?」


***


「無論ですが。少女を救う為に、私が竜のすぐそばに近寄らないといけないんですよね」


「しかし……我のことながらこの結界は厄介だね。竜を殺すために威力を増したのが不運だった……どう迂回する、か」


「先輩。防御魔法で突っ込みますか?」

「肌がゾンビ色になりたいのならそうしたら?人間が……竜に効くレベルの結界を無視して正面突破なんて無理」

「けど、方法なんてそれしか無いじゃないですか?迂回といっても……」


「そうだな、この結界が簡易式なのが厄介だ。展開が素早い分解除への融通がきかない。結界内のエネルギーが大きい分それにまた拍車がかかっている。解除まで時間を待つしかないだろうが……」

「ですよ!流石ジグラット諜報員。兎に角、普通なら結界の解除なんて無理ですね。だから強行突破しかないんですよ!!」

「じゃあメリル、いってらっしゃい」


殺意滲む満面の笑顔を浮かべ、ワトソンさんはメリルを洞窟の入り口方向に押している。


ちなみに、鳥の死体はもう骨にだけになっていた。この有様なので、常人が境界線を越せばどうなるのかは想像に固くない。


「ごめんなさい突破方法考えますから押さないで!」

「でも、確かにもう時間なんて……その竜って傷だらけじゃないの?だったら竜に残された魔力も……結界の迂回策を考えてる暇はあるの?」


アーちゃんの示す様に、竜の魔力が尽きれば少女は死ぬ。


時間はもう残されていない。

この結界は構造が単純故にあまりに強力。


それこそ竜の力を封じ込めてしまう程には。

結界を無視して洞窟を進むのは不可能と考えるべき


……ならば。


「ひとつ方法はあります」

「聞こうか、ジョゼフさん」


私は自分の持つ杖を握りしめた。魔法使いの私にしかできないことを成す為に。


「結界を解除するんです」

「どうやって?」

「はん!!そんなの私でも出来ませんて。賭けましょう!出来たら逆立ちで裸で街を歩きましょうか」

「後輩よ……それはフラグでは…………」


「……私もそのくらいの覚悟でやりますよ」


境界線ギリギリに立ち、杖の一部分を結界の中へ入れる。

杖を中継し、結界と自分との繋がりを作る。


父から受け継いだこの杖には、いつも温もりを感じる。何かかたくましさを感じるようなそれは、自分にいつも勇気をくれた。


「――【コンセントレイト】」


スキルを発動させる。

意識を削り、ただ一つの命令を遂行せんと不要を捨てる。


結界の構造はひどく単純だ。だからこそ解除に手間がかかる。結界の展開する際消費した量と同等のエネルギーで相殺しなければならないから。


だがそのエネルギーを発電してしまえば問題は無い。

体内の魔力を回し、最高の効率で魔力を変換させる。


今できる最高の理論を、最低の出力により叶える。

故に人一人の僅かな魔力でも事足りる。


「……………………!」



「……………………うっそ、マジ、ですか……?!」

「こんなにあっさりと……うん。もっと興味が湧いてきたよ」


「……………………ふー」


散らばった残骸が太陽の恵みを受け輝く。洞窟のカーテンのように光を遮っていた結界は崩壊し、真昼の森の洞穴は森の緑に照らされた。


もはや、先の怪異的な不気味さは薄れていた。


「ジョゼフさん、あなたのその力は……」

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