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ジェームズ研究所


「…………何よ、これ」


洞窟の入り口には結界が展開されていた。それは魔力を吸収するタイプのものらしく、生物が中に入れば、その殆どは五分足らずで命を落とすだろう。



魔力は身体を支える重要なリソースである。


この世界の大気には数々の毒性を持つ物質が含まれている。それは鉄を腐らせるものから豚の死体を貪るものまで様々らしいのだが、皆無意識に魔力を使って無意識に外敵から身を守るのだ。


植物、動物、細菌から、人間の区別なく。

常に一定の魔力を保持することが生物を生物とする。


偶然入り込んだのだろう、向こう側の黒いツバメがそれを証明している。だらりと羽根を下げ眠るように横たわっているあの哀れなツバメが。



魔力を絶やせば待つのは、冷たい死のみだということを。


こんなとんでもないものは、もちろん自然に形成されたものではない筈。何かただならぬことが起こっていることだけはたしかだ。


「まさか竜が結界を張った?」

「こんな密閉空間でそれは自殺行為よ。そもそも、そんな魔力を残しているとは思えない。竜を殺そうとする誰かだろうけど、一体……」


「全容がはっきりとしなくなって来ましたね……このまま動く訳にも……違法狩猟家の仕業……?」

「いやどうだろう。私の勘が言ってるのだよ、これは……ただ単純なものではない、と」


アキラ・ムラカミが銃を手にした。


安全装置を解除して弾丸を装填する一連の手つきは素早く行われた。言葉と裏腹に、その仕草は丁寧かつ冷静だった。



「アーちゃん、【気配探知】って使える?」

「……!了解」


不遇の才児アーちゃんに宿るスキルは多い。アーちゃん本人が何を持っていたか忘れるほどに。気配探知もまたその一つ。


全く羨ましいものだ。

そして俺の愛しい親友はもちろん、何より頼もしい!


「そうなのか」

「変わらないわね、あんたほんと……」

「恥ずかしがり屋さんなのもかわ……」


「いいかげんにしろっ、緊急事態でしょうが――!」


弱点のすねを蹴られ悶える俺を不思議そうにアキラ・ムラカミが見る。


俺は横目にアーちゃんを見た。スキルの発動のために、長い木製の杖を構えて空へ向けていた。杖はアーちゃんの身長と同じくらい長いものだった。


クレトリア家にいた時に持っていた杖なのだろう。装飾が施され、華美だが、どこにも下品さのない美しい姿をしている。


まさにアーちゃんの好きそうなセンスだ。


「【気配探知】……流れ落ちる波、石を形とせん」


アーちゃんは探知を終わらせたらしい。


「そこ!洞窟入り口右斜め上方向……草むらの影に人間二名!」

「警告する!!身分を明かせ!対応によっては撃つ!」


アキラ・ムラカミは俺が準備していた杖を構えるよりはるかに素早く、その草むらに標準を合わせていた。


緊張の走る一瞬二秒……返答を静かに待つ。


「さっきあんたが言った……違法狩猟家……まあ違法なのは確かね」

「そんな小物共と一緒にしないでくれます?」


聞こえたのは二つの声。

どこか冷徹さのある高い声と、敵意丸出しの鋭さ含む声。


「どうする。蜂の巣になりたいか?」

「…………はん!身分ね。私達は……」


そうして草むらから降りて来たのは、敵意を隠さない金髪の少女。


「ジェイムズ研究所といえば、おわかりですかぁ?」


そう自らを名乗ったのだった。


***



「いっつーう…………」

「ねえ。私達はケンカしに来たんじゃないんだけど」

「……け、けど。舐められるのも……」


先ほど声高らかに名乗りを上げた金髪の少女を叱りつけ、少女のその相方らしき女は続ける。


「面子の為に死にたいなら、マフィアにでもなってれば?いっつも後先を考えないよね……あんたは」


「うぅ………………」

「……はあ………………」


説教の声の主は大きなため息を吐く。この二人俺達の目の前に出て来たかと思えば……いきなり片方がいきなり相方を殴りつけたのだ。


ジェイムズ研究所……聞いたことはある。たしか二年ほど前この国のこのあたりの地方で興った製薬企業らしいが……違法な治験実験を繰り返し繰り返し、廃業の通告をつい1ヶ月ほど前出されていたはず。


「その研究所が……竜に何の用件だ?」

「何ですかその目は!別に実験なんてしませんよ。竜なんて何の利用価値もないし――てか、何です?警察ごっこですか?まあ?こんな所までやって来る暇なオマワリなんていないだろうけど」


「私は警察だが」

「…………………………」


驚愕に口が閉じないらしい顔をして絶句する金髪の少女に、項垂れて呆れる青髪の女性。


その二人に姿勢を揺るがすことなくしっかりと銃を向ける。それでもこの光景をアキラ・ムラカミは目を丸くして見ていた。


「絶対こいつら大物よ……」


アーちゃんの言葉に同調するアキラ・ムラカミ。


「ああ…………銃を向けられてこの度胸。今まで一度だって見た事もない……」

「この娘が馬鹿なだけよ。知なき勇気は蛮勇なりってね」

「はあ?馬鹿っていった方が馬鹿なんですけど!?」


「うるさい…………」

「ひどいー!ひどいですよ先輩ー!!」


「あ、あの……横から失礼なんですがね……私はジョゼフ・マツリです。何故竜を狩ろうとしてるかって言う理由を知りたいのですけど……」

「私はアーリア。……あんたらには色々言いたいけど、今はこらえとく」

「私はジグラット諜報員のアキラ・ムラカミ。今の質問に答えて貰えると、助かるのだがね」


すると、答えて言う。


「失礼したねジョゼフさんにアーリアさん、そしてアキラさん。私はワトソン・デューイ」

「………………メリル・ジョーダンです。て言うか!理由?そんなの言う訳ないじゃないですか!こっちだって機密が……」


ワトソンと名乗った女性は即答した。


「ジェイムズ研究所にもう予算なんて無いし、まあ研究費欲しさだよ。私達は、とある組織から依頼を受けてね。どうもこの竜の死体が欲しいんだと」

「先輩何で言っちゃうんですか――!!!」


メリルはワトソンに突っかかる。メリルは暴走っ子で、それを止めるワトソン…………その様子から、この二人の普段の関係が想像できる。青混じるショートの髪に、長い金髪。


見た目だけだが、年齢はどちらもそう大差は無いだろう。


「やっぱおっぱいでかいからアホなんですか!?先輩はFですよね?あ、話し変わりますけど……どうしたらそんだけでかくなるんです?私Cしかないのに……歳なんて三歳くらいしか離れて」

「ぶち殺すぞべらべらとぁぁぁ!!こんのアホガキ!!」

「ご、ごめんなさぃぃぃぃ………………」


勝手に色々とバラされて、メリルの胸ぐら掴んで叱りつけるワトソン。………………不憫だ。当のメリルはオチたらしい。絞りかすの声をあげて白目をむいている。「きゅう」と言うようにオチていた。



しかし………竜の死体を欲しがる組織……?



「こっちの胸を見て何かなー、ジョゼフさん?」


アーちゃんが俺に問うてきた。


「……見てないです」


本当に見てない、考えていたのは別のこと。


「ん?私が自意識過剰とでも言いたいのかしらね?ねえメルファさん」


構わずアーちゃんは続ける。………けどあえてその話をするとしたら、アーちゃんは無いからこそ可愛いのに。


「何か?」

「何も?」

「何だ?何の話しだ?」


「関係なーい。んで?アキラ?聞きたいことがあるんじゃなくて?」

「ああ、あんたらのカップ数には興味は無いが……その組織というのには興味がある。それは何処の誰だ?」


「どんな訳でこんな僻地にサツが捜査に来たのかは知らないけど、ジグラットに目をつけられちゃもうどっちもどっちか……いいよ教えてあげる。ただ交換条件でどう?」

「…………何だ?それ次第だがな」


アキラ・ムラカミは銃をより前に突きつける。


「私達だって仕事だし、そうやすやすとあの組織からの信用を失いたくはない。今ここに居ないんだけど……リーダーから叱られるのも面倒くさいしね。ただ捕まりたくはない。だから私が要点を話す前に、あんたらに逆に質問したいんだ――貴方達は、この竜に一体全体何がしたいの?」

「……本来は極秘情報だが、それで面倒ごとを避けれるのであれば致し方ない。時間も無いからな……あい分かった話そう」


「……ジグラットって極秘情報話す、ノリ軽いわよね」


***


「なるほど……人の竜。確かに他の竜とは知性の面で挙動が明かに違うタイプだったけど……スキルの暴走、とは」

「救出せねばならんからな。その竜を殺すことは、その少女を殺すことに等しい」


「スキルの暴走なんて前例が無いですよね?本当にそんなことがあれば面白いけど」

「……ただ。もう一ついい?それをどうやって助けるつもり?スキルの暴走なんて解除の方法……検討も付かないけど」


「それについては俺が」


「何です?この陰湿丸メガネ?どうせトーシローが知ったかしてるんでしょう、ねえ先輩?」

「へーえ?まだ殴り足られないか後輩。その煽り癖が治るまで殴るのに私の人生の何時間消費すればいいかなー?」


「ひっ」

「いいですよ、陰湿でもなんでも。それよりも方法はあります。研究者ですか。……俺も実は似た様なものなんです」


「……へえ」

「魔法使いなんです!……まあ、見習いみたいなものですが」

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