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【最終章開始】悪役令嬢ですが、回復魔法しか使えないので平和に生きます!  作者: 九葉(くずは)
第1章

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第9話 氷解、そして独占欲

 勝利の歓声が洞窟内に響く中、入り口の方から多数の足音が近づいてきた。

 金属の擦れ合う音。

 騎士団だ。


「セレス!」


 切羽詰まった声が轟く。

 先頭を切って飛び込んできたのは、剣を抜いたルーカス様だった。

 普段は冷静な彼が、髪を乱し、肩で息をしている。

 その後ろには近衛騎士たちが続いているが、どう見ても殿下の足が速すぎたようだ。


「ルーカス様! ご無事でしたか!」


 わたくしはリリアの肩から離れ、手を振った。

 救援感謝です、と笑顔を向ける。

 しかし。

 彼はこちらを見た瞬間、ぴたりと足を止めた。


 安堵の表情ではない。

 その碧眼は、わたくしと――隣にいるリリアを交互に見つめ、凍りついたように動かない。


「……終わった、のか」


 低く、地を這うような声。


「はい! リリアさんが大活躍で、全員無事ですわ!」

「そうか。君たちは、協力して……魔物を倒したのか」

「ええ、最高の連携でした!」


 わたくしは誇らしげにリリアの背中を叩く。

 リリアも照れくさそうに笑った。

 だが、次の瞬間。


 パキッ。


 乾いた音が響いた。

 足元の地面に、白い霜が走る。

 急激に気温が下がった。

 吐く息が白くなる。


「ひっ……!?」


 近くにいた生徒が悲鳴を上げた。

 見れば、ルーカス様の足元から氷が侵食し、洞窟の壁を覆い尽くそうとしている。

 彼の瞳から光が消え、どす黒い魔力が渦巻いていた。


(まずい、発作ですわ!)


 感情の制御が効かなくなっている。

 このままでは、助かった生徒たちが凍死してしまう。


「リリアさん、ここは任せます!」

「えっ、セレスティーナ様!?」


 わたくしは泥だらけのドレスも気にせず、ルーカス様へと全力疾走した。

 吹雪のような冷気が肌を刺す。

 構うものか。

 わたくしは勢いのまま、彼の胸に飛び込んだ。


「殿下、鎮まって!」


 氷のように冷たい体に腕を回し、ぎゅっと抱きしめる。

 同時に、ありったけの「温もり」の魔力を流し込んだ。

 心臓の鼓動が、痛いほど速い。


「……離せ」

「離しません!」

「私は、遅かった……君を守ることすら、できずに……」

「守られました! 貴方が来てくれたから、皆ほっとしているのです!」


 背中をさすり、凝り固まった筋肉をほぐすように魔力を巡らせる。

 大丈夫。

 わたくしはここにいます。

 言葉の代わりに、体温と魔力で必死に訴えかけた。


 次第に、荒れ狂っていた冷気が凪いでいく。

 凍りつきそうだった壁の氷が溶け、水となって滴り落ちた。


「……はぁ……っ」


 ルーカス様が崩れ落ちるように膝をつく。

 わたくしも一緒に座り込んだ。

 彼はわたくしの肩に顔を埋め、震える手で背中に腕を回してきた。

 痛いほど強い力だ。


「どうして……」


 耳元で、掠れた声が囁く。


「どうして、私ではないんだ」

「はい?」

「君の隣で戦うのも、君に治してもらうのも……私だけの特権ではなかったのか」


 子供のような言い分に、わたくしは目を瞬いた。

 もしかして、拗ねているのだろうか。

 自分が活躍できなかったことを。


「殿下は指揮官ですから。前線に出るのは騎士の役目ですわ」

「違う、そうじゃない……」


 彼は顔を上げ、濡れた瞳でわたくしを射抜いた。

 その視線の熱さに、心臓が跳ねる。


「もう誰にも触れるな。君の治癒魔法も、その手も……私だけのものだと言ってくれ」


 懇願するような、それでいて命令するような響き。

 わたくしは言葉に詰まった。

 ただの主治医に対する独占欲にしては、あまりにも必死すぎる。


 遠くで、リリアが複雑そうな顔でこちらを見ているのが見えた。

 洞窟の冷気は消えたはずなのに、わたくしの顔だけが、なぜかカッと熱くなっていた。

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