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【最終章開始】悪役令嬢ですが、回復魔法しか使えないので平和に生きます!  作者: 九葉(くずは)
第1章

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第8話 野戦病院と、無限リリアシステム

 警報音が洞窟内に鳴り響く。

 低級ダンジョンでの実習中、事態は急変した。


「嘘だろ、数が多すぎる!」

「入り口が塞がれたぞ! 戻れない!」


 男子生徒の悲鳴が上がる。

 本来ならスライムやコウモリ程度の魔物しかいないはずの洞窟が、今はオークやゴブリンの群れで埋め尽くされていた。

 明らかな異常事態だ。


(パニックは伝染しますわ)


 わたくしは広場の中央にある岩の上に登った。

 息を吸い込む。


「落ち着きなさい!」


 凛とした声を響かせる。

 騒然としていた生徒たちが、ハッとしてこちらを見た。


「重傷者はこの岩陰へ! 動ける者は円陣を組んで迎撃! 決して単独行動はしないこと!」

「で、でもアルヴァレス嬢、武器が……」

「わたくしがいます。貴方たちが腕を一本失おうと、その場で繋げて差し上げますわ。ですから、死ぬ気で守りなさい」


 極上の微笑みで告げる。

 生徒たちの目に理性の光が戻った。

 恐怖が「頼もしさ」へと変わる瞬間だ。


「……うおおお! やってやる!」

「アルヴァレス嬢を守れ!」


 前衛がラインを押し上げる。

 わたくしは即座に「臨時救護所」を開いた。


「次! どこが痛みますか!」

「腕を噛まれました!」

「はい、治りました。次!」


 流れるような作業で、運ばれてくる負傷者を治療する。

 傷を塞ぎ、減った魔力をチャージし、背中を叩いて戦線へ送り返す。

 回転率は最高だ。


 その中でも、一際異彩を放っているのがリリアだった。


「はあぁぁッ!」


 彼女は風魔法を纏わせた剣で、オークの群れに突っ込んでいく。

 凄まじい速さだが、その分被弾も多い。

 吹き飛ばされ、泥だらけになってこちらへ走ってくる。


「セレスティーナ様! 肩をやられました!」

「おかえりなさい、リリアさん」


 わたくしは彼女の肩に触れ、一瞬で骨のヒビを修復する。

 ついでに身体強化の補助魔法(プラシーボ効果付き)も乗せておく。


「ありがとうございます! 行ってきます!」

「行ってらっしゃい。無理はなさいませんよう」


 言うが早いか、リリアは弾丸のように飛び出していく。

 そして数分後。


「足首を捻りました!」

「はい、治しました」

「魔力切れです!」

「充填完了です」


 傷つく→戻る→治る→突撃する。

 このループが完成してから、戦況は一変した。

 死を恐れない(即座に治るから)バーサーカーと化したリリアが、魔物の群れを次々と薙ぎ倒していく。


(……頼もしいですが、少々張り切りすぎではありませんこと?)


 ふと、洞窟の奥から重低音が響いた。

 巨大な棍棒を持ったオークキングが現れる。

 ボスクラスの魔物だ。

 生徒たちが怯んで後退る。


「リリアさん!」


 わたくしは叫んだ。

 彼女はこちらを振り返り、力強く頷く。

 最後の補給のために、わたくしの元へ駆け込んできた。


「セレスティーナ様、全部の魔力をください!」

「任せなさい!」


 わたくしは両手で彼女の手を握り、体内の魔力をありったけ注ぎ込んだ。

 白光がリリアの身体を包む。


「いっけぇぇぇ!」


 わたくしの声援を背に、リリアが跳んだ。

 光を纏った剣が一閃。

 オークキングの巨体が、スローモーションのように両断され、崩れ落ちた。


 一瞬の静寂。

 そして、爆発的な歓声が上がった。


「やったぁぁ!」

「勝ったぞ!」


 リリアがふらつきながら戻ってくる。

 顔もドレスも泥と血で汚れているが、その表情は晴れやかだ。


「やりました……セレスティーナ様……」

「ええ、お見事です」


 わたくしは彼女を抱き留めた。

 自分のドレスが汚れるのも構わず、二人で笑い合う。

 攻撃魔法ゼロの悪役令嬢と、平民出身のヒロイン。

 本来なら敵対するはずの二人が、今、最強のバディとしてここに立っていた。

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