Side 勇者 4
「いらない…ですと? この美しいアンリエール姫を?」
おじさんが信じられないという表情で、訊いてくる。
動物的交わりで子を産むから、自分の娘はかわいく見えるよう本能が設定されているのだろうか。
おじさんは心から、その子を美人だと思っているみたいだった。
でも、その子、俺のツガイじゃないし。
っていうか、マザーパールが産む子どもより小さい気がする。
子どもじゃん。
それが嫁って……、ないわー。
ドンビキの俺をよそに、おじさんが顔を赤くする。
女の子は目から涙をぽろぽろ零す。
「勇者は……、我が娘を愚弄するか!」
「わたくしでは、あなたの妻にはなれませんか?」
妻?
このちっちゃい子が?
ないわー。
というか、いちおう俺、この星を救った「勇者」なんだよね?
報酬は、世界一の美女、すなわち俺のツガイだったはず。
なのに、なんでこんな不要なお子様を押し付けようとされてるんだろ。
あ、だんだん腹がたってきた。
「どういうこと?」
ひっくーい声で訊いて、周囲をぐるっと見回す。
「報酬は、世界一の美女だといったはずだ。それなのに、俺にそれで我慢しろってこと? 俺には、その程度の子どもがお似合いだと?」
舐められたものだな、と吐き捨てるように言う。
するとおじさんと女の子は、へたへたと足元に崩れ落ちた。
周囲の人も、びくびくしてる。
……っていうか、ツガイまで怖がってる!
待って。
俺、怖い人じゃないから!
ツガイには、超優しくするから!
でもこのままじゃ、ツガイをお嫁さんにできないみたいだから、怒って見せてるだけで。
「確かに、あのような美女を、俺のような異星人にみすみす渡したくない、という気持ちはわかる。俺だって、彼女を誰かほかのやつに……なんてことがあれば、平静ではいられない。なんとしても、他の誰にも渡したくないと思うと思うよ。けどさ、さっき約束しただろ?」
「し、しかし勇者様……。アンリエール姫をよくご覧ください。こんなに美しい姫は、そうそうおりませんよ」
びーびー泣いている女の子の肩をささえて、おじさんがまだ謎のプッシュをかけてくる。
しつこい。
「あのさ。どうしても、約束を破りたい感じ? 俺のこと、そんなに舐めてる? この建物、一瞬で消し去ったりするパフォーマンスが必要な感じ?」
「ひぃっ……!」
おじさんは慌てて、女の子の手を退いて、後ろに下がった。
その様子を見ていた群衆の中から、白髪のおじさんが一人、こちらへ歩いてきた。
そして、俺に頭を下げて、言う。
「申し訳ございません、勇者様。分をわきまえない愚か者が混ざっておりましたこと、深くお詫び申し上げます。彼らには後程厳罰を与えますので、どうかご容赦ください。そして、改めて申し上げます。我らは貴方様との約束を破るつもりなどなく、世界一の美女は、もちろん貴方様へ差し上げます」
「ふぅん……。その言葉、守ってくれるよね」
「もちろんでございます」
白髪のおじさんが言うと、他の人たちもぱらぱらと頭を下げ、同意を示した。
ふぅ。よかった。
一時はどうなるかと思ったよ。
自分たちではどうしようもないからって他の星の人間を呼び出したんだ、報酬はきちっと守ってほしい。
それとも、ツガイが俺の嫁になるのを嫌がったとかなのかな。
あんな美女に嫌がられたら、そりゃ逆らえなくて、つい他の女の子を代わりにしようと思っても仕方ないかもしれない。
にしても、代役としても、もうちょっとマシな子を用意しそうなもんだけど。
問題は、そこじゃない。
ツガイ的に、俺ってそんな駄目なのかな?
めちゃくちゃ大事にするし、苦労はさせないつもりなんですけど……。
会う前からツガイにそこまで嫌われていたら、せつない。
もしかすると、他に好きな男がいる、とか……?
これまで見つかった「ツガイ」が他の男と結婚していたとか、つきあっていたとかいうことはなかったようだ。
それは「ツガイ」もまた、俺たちのことを待ち焦がれているからだ、なんてh2@;k-ではいわれていた。
けど、あれって俗説で、間違っていたのだろうか。
だったら、ツガイのことを思えば、俺が身をひくべき?
でも、俺的に、ツガイを諦めるなんてできないんで。
「よかった。俺が欲しいのは、彼女だけなんで」
ぶっちゃけ、ツガイさえいなかったら、この星が滅んでも興味ないっていうか。
俺以外にこの星に「ツガイ」がいるやつっていなかったから、俺がここに来なかったら、普通に星ごと滅んでいたと思うんだよね。
だから、ツガイみたいな美女を手放すことも、諦めてほしい。
ツガイも、俺のことを好きになってほしい。
どうしても、どうしても他の男がいいっていうなら、諦めるかもしれないけど。
とりあえず、俺と一緒の可能性も考えてみてほしい、と思う。
白髪のおじさんにきっぱりと宣言すると、愛しのツガイのところまで歩く。
呆然と俺たちのほうを見ていた彼女の手をとって、一世一代の告白をした。
「一目見たときから、心を奪われていました。一生をかけて愛し、大切にすると誓います。どうか俺と生涯を共にしてください」
「え」
銀色に輝く鎧を身に着けた彼女は、ひざまづいて愛を乞う俺を綺麗な緑の目で見下ろしてきた。
そして、驚きの声をあげ、息をのんだ。




