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Side サイラス 9

 サイラスがすっかり賭けトランプに飽きたころ、上官は上機嫌で帰っていった。


「ちょっと俺は、お母上の様子見てくるわ」


 上官が帰ると、カッシモがいそいそと部屋を出た。

サイラスはすこし眉をあげると、カッシモの後姿を見送った。


「物好きめ」


 だが、女たらしのカッシモなら、うまく母をなだめるだろう。

その方法が、どんなものであろうとも、サイラスの知ったことではない。


 サイラスは、母に無駄な哀願をされるのはうんざりだった。

どうせ何と言われようと、サイラスがすべきことは変わらない。

サイラスは、自分が騎士として身をたてていくべきだということはわかっていた。

それ以外、自分たち親子が食べていくすべはないのだから。


 せっかくカミーユが気を利かせて、この右足を治せる神官を用意すると言っているのだ。

必ず、もとのように足は戻る。

そうしたら、騎士として、また活躍するときもすぐに来るだろう。


 だが、それもすべて騎士でいられたら、の話だ。

ここで騎士団を退団するはめになれば、もう二度と騎士にはもどれないかもしれない。


 母親なんだから、息子のために、すこしは我慢してもいいはずだ。

そう思って、サイラスはすこし仮眠をとることにした。


 夜がとっぷり暮れるころ、カッシモはサイラスに顔を見せて帰っていった。


「お母上のことは、まぁ、もう心配いらないと思うよ」


「そうか」


「じゃ、次は明後日に来るな。そろそろサイラスの婚約者も帰ってきそうだし、予約もいったん閉じなくちゃだな」


「任せる」


 やたら元気に仕切るカッシモに、サイラスは苦笑いした。

この友人は、頼りになる。

だが、いくらなんでも守備範囲が広すぎだろう。


 それ以来、母はサイラスの元を訪れなくなった。

これまでは右足が欠損した息子の部屋を、毎日見舞いに訪れていたのに、看病もすべてメイドに任せ、顔もださなくなった。


 サイラスも、まだ右足が欠損したままで、病床からそう簡単に動けなかった。

そのため、母と顔を合わせることはなくなった。


 けれどカッシモがうまく取り計らってくれたようで、その後もカミーユが魔獣狩りに出る合間を縫って、母を上官たちに会わせることはあった。

 母は、なにも言わなかった。


 いくつか季節が廻り、怪我のために退職におわれた騎士がいた中で、サイラスは騎士団に残れることが確定した。

そう、サイラスは、カッシモから聞いた。


 母がいっときの平安を得ていたころ、サイラスは母のもとを訪れていた上官のひとりから、耳寄りな話を持ち掛けられていた。


 さる高貴な貴族が、サイラスの妹に興味を抱いている、と。

その方は高齢のため、男女の交わりができるお体ではなく、妹の貞操が危ぶまれることはない。

ただ一夜、若い娘と寝台を共にしたいだけだ、と。


 サイラスは迷ったが、積まれた金は多額だった。

その貴族が、90歳を超える高齢だったため、まちがいもおこらないだろう、とサイラスは考えた。


 そして、数日後、その貴族が屋敷に泊まった。

サイラスは、母と妹たちにあの眠り薬を飲ませ、上の妹の部屋にその貴族を案内し、便宜を図った。


 翌朝、貴族は満足して帰った。

直後、上の妹はベランダから身を投げ、命を絶った。


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