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Side サイラス 8

 数時間後。

サイラスの母の寝室から出てきた上官は、ご機嫌で帰っていった。

サイラスは、弱みを握っているメイドに、母の寝室で「片付け」をするように命じた。


 戻ってきたメイドの話では、母はなにが起こったのかも気づかず、眠ったままらしい。

メイドが母のからだを清め、寝台を整えて、再度その寝台に横たえても、すやすやと眠っているだけだという。


 この強力な眠り薬は、先ほどの上官に渡されたものだが、よいものを手にいれたと、サイラスは思った。

これがあれば、母はなにも知らないままでいられ、サイラスも母の泣き言を聞かずに済むかもしれない、と。


 けれど、次の時は、そううまくはいかなかった。


 数日後カッシモが連れてきたのは、別の上官だった。

その上官は眠り薬のことを聞くと、使用は許可してくれた。

しかし量はかなり減らすように命じられた。


 嫌な予感がしたが、サイラスは上官に従うしかなかった。

彼らの機嫌を損ねてしまえば、サイラスは騎士ではいられなくなるかもしれない。


 サイラスは、母が気づかないまま、すべてが終わるようにと祈った。

母の心の安寧のためにも。


 けれど、その祈りは、神に届かなかった。


 今日の上官が母の寝室を訪れてから、1時間ほどたったころだろうか。

サイラスとカッシモが賭けトランプをしていると、母の悲鳴が小さく聞こえた。


「参ったな。ここまで声が聞こえるなんて。使用人たちの口をふせげるか?」


 カッシモは、どこか興奮した声で、サイラスに尋ねた。

サイラスは、当たり前だ、とうなずいた。


「いまこの屋敷にいるのは、弱みを握っているメイドと従僕1人ずつだけだ。あいつらは秘密をばらされたくないから、めったなことでは口をわらない」


「へぇ。さすが用意周到なサイラスだな。にしても、やっぱり心が痛むか? お父上への愛に生きる母を、別の男に売った息子としては」


 カッシモは、トランプの札をにらみながら、挑発するように言う。

サイラスは答えず、ただトランプを一枚放り投げた。


「チェックメイトだ。そっちの掛け金をぜんぶ寄こせ」


「嘘だろ? ここでハートのエースって、ツキすぎだろ。あーあ、サイラス。お前はほんとツイてる男だよ」


「ふん。まぁ、そうだろうな」


 サイラスが自信たっぷりに言うと、カッシモは肩をすくめた。

あの上官は、先日の上官とは違い、眠っている女を犯したうえ、それを相手に知らしめるように、途中で目が覚めるように睡眠薬を調整するクソ野郎だ。


 さっきの悲鳴は、サイラスの母が目を覚まし、自分の身に起きたことに気づいた悲鳴だろう。

あるいは、いま自分の身に起こっていることを、か。


 とぎれとぎれに、サイラスの母の悲鳴が聞こえる。

今頃彼女は、自分がこんなめにあっているのが、自分がお腹を痛めて産み、大切に育てた息子のせいだと気づいているころだろう。

 そうしたら、上官を連れてきたカッシモも、グルであることにも、気づいてしまうだろう。


 ここに来られるのは、今日が最後かもしれないな。

カッシモはそう思い、楽しそうにトランプに興じるサイラスの罪悪感のなさに、恐ろしさを感じ始めた。

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