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Side サイラス 7

 カッシモは一瞬眉をしかめたが、すぐに笑顔をつくりなおした。


「へぇ、そうか。母上を愛人に売るつもりだったのか。なら、ちょうどよかったな。お母上も、かわいい息子の役に立てて、さぞお喜びだろうよ」


 カッシモが言うと、サイラスは大きくうなずいた。


「まったくだ。売った後でその話を聞いていたらと思うと、ぞっとする。さすが俺は、運までいいようだ」


 カッシモは、乾いた笑みを浮かべた。


「俺もたいがいクズだと思っていたが、上には上がいるもんだな」


「ん? なんだカッシモ? 聞こえなかった」


「いや、なんでもない。サイラス、お前がすげぇやつだって、改めて気づかされたってだけだよ」


 サイラスは、胸をはった。

カッシモは、サイラスにとって人生の師匠のようなものだった。

遊び慣れたカッシモの余裕のある態度は、サイラスの憧れだ。

その師匠に褒められたのだから、嬉しくないはずがなかった。


「そうかな、照れるな」


 カッシモの皮肉を真に受けて、サイラスはにやりと笑う。

こちらを疑う知恵も、人間なら持つべき罪悪感のかけらも、サイラスはもっていなかった。

カッシモは、いっそ感心さえさせられた。


「で、サイラス。いつならいけそうだ? こういうことは、はやいほうがいいだろうが」


「そうだな。母上を差し出す前に、俺が騎士団を退団させられたら意味がない。……そうだ、5日後から1週間のうちならいつでもいいぞ。妹たちは心の傷を癒すためだとか言って、しばらく田舎の叔母の家に行く。俺の婚約者も、その日から魔獣狩りのために遠征にでているから、うるさく目を光らせる人間がいなくなる」


「なるほど、ね。じゃぁ、6日後と、10日後だな。その日が上官たちの休養日だ。日数が増えたり変更する必要があったら、また連絡する」


 カッシモはそういうと、足早に部屋を出た。

サイラスは、この危機を乗り越えられて安堵した。


 まったく、カッシモといういい友人がいなければ、知らぬ間に騎士を退団させられるところだった。

あぶないところだった、と。


 そして、6日後。

カッシモは、上官だという男を伴って、屋敷にやってきた。


 サイラスは、上官が見舞いに来てくれたといって、母を部屋に呼んだ。

そして、母の隙を見て茶に強い睡眠薬を混ぜ、母に飲ませた。


 母は、すぐに薬がきいて、眠ってしまった。

上官だという男は、母を抱き上げて、寝室へと引き上げた。

そして彼は数時間、そこから出てこなかった。


 待つのにあきたサイラスとカッシモは、ふたりでカードゲームをしていた。

サイラスのトランプは、今日は妙にいい札ばかりが集まった。


「残念だな。なにか賭けていればよかった」


 サイラスが言うと、カッシモは笑った。


「いやだね、ついてるときってのは誰でもつきまくるもんだからな。みすみすお前を勝たせるために、かけ事なんてしないさ。むしろ俺が、おこぼれをほしいぐらいだ」


「はは。おこぼれでいいなら、くれてやるさ」


 カッシモは、遠くで悲鳴を聞いた気がした。

それはいつもカッシモがこの館を訪れると、穏やかな笑顔で迎えてくれたサイラスの母の悲鳴のように思えた。

 あの上官は、夫に操をたてた貞淑な妻を、彼女が寝ている最中に犯すのが趣味なので、それは気のせいにすぎないだろうが。


 俺もおこぼれをもらっていいかな。

サイラスが持つトランプを見つめながら、カッシモは舌なめずりをした。

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