Side サイラス 6
カミーユは、約束を守った。
というか、カミーユの両親も、想像以上にカミーユに甘かった。
数日後、サイラスは神殿からきた治癒師の治療を受け始めていた。
どれだけ金を積んだのか、治癒師は噂できいたことがある以上の術を見せてくれた。
まだ数日しか経っていないが、わずかにサイラスの足は切り落とされたところよりも伸びてきていた。
足が、治るかもしれない……!
サイラスは、絶望の中で光を見出した。
カミーユは相変わらず婚約者面で視界をうろちょろして、うっとうしい。
が、こんな素晴らしい治癒師を連れてきてくれたことと、家の維持や食事などにかかる金を支払ってくれたので、最近ではときおりあまい笑みを浮かべてやることもあった。
それだけでカミーユは感激して、せっせとサイラスたちに貢ぐ。
ほんとうにいいカモと婚約したものだ、とサイラスは自画自賛していた。
このまま足が治れば、また騎士に戻れるだろう。
そうすれば騎士として活躍し、とりたてられるだろう。
治療のあいまに妄想しては、サイラスはにやにや笑っていた。
そんなある日、カッシモがサイラスを見舞いに尋ねてきた。
「よぉ、サイラス。元気かよ」
「足が切られたんだぞ。元気なわけがあるか。それくらいわかるだろ」
「そうツンツンするなよ。耳寄りな情報を持ってきてやったのに」
「耳寄りな情報? はん、じゃぁ言ってみろよ」
土産のひとつも持ってこなかったカッシモをにらんで、サイラスが言う。
カッシモは、サイラスの目をじっと見つめながら、言った。
「いいニュースと悪いニュース、どっちから聞きたい?」
「いいニュースだけでいい」
明らかに上機嫌なカッシモが、自分をからかう気満々だと気づいて、なげやりに言う。
案の定、カッシモはにやにや笑ったまま、
「じゃぁ、悪いニュースから教えてあげるよ。お前、もうすぐ騎士団を除籍になるみたいだよ」
「なぜだ……! 俺ほどの騎士を、足だって治りつつあるのに……!」
「治るって言ったって、足が生えそろうのにどれくらいかかるんだよ。1年? 2年? まさか数か月ってことはないだろ。そこからリハビリをして、歩いたりするところからやり直すんだ。魔獣狩りの最中にけがをして退団になれば、退職金に多少の色はつく。手続きにこないお前のためを思った対処だそうだぜ?」
「俺のためなどであるはずかっ! 俺は、騎士だ。こんな脚くらいすぐに治し、また騎士として力をふるって見せる!」
サイラスは激高し、悔し涙で目を光らせた。
カッシモは、サイラスが相変わらず自分のことばかりを考えるクズのままだと確信した。
ひっそりと笑いながら、カッシモは今日の訪問の本当の目的を、サイラスに囁いた。
「まぁな。お前は、騎士としてわりと優秀だし、このまま辞めさせるのはもったいないって言ってる上官もいるさ。その人たちに頼んで、休職扱いにしてもらうってことは可能だと思うよ」
「それを先に言え……! 俺は、このまま騎士を続ける。お前から伝言してくれるのか?」
サイラスは、すがるようにカッシモを見た。
かかったな、とカッシモは冷めた目で判断した。
そして、言いにくそうに言葉を濁す。
「ああ、そりゃ友人であるお前のためだから、伝言くらいするさ。だけど、こういうことには賄賂がつきものってのはわかるだろ? 今回も、条件があるんだけど、それがちょっとひどくてさ……」
「なんだ? 金なら、カミーユに用意させる!」
「金じゃないんだよ、サイラス。名前はまだ明かせないけど、彼らが要求してるのは、君のお母上だ。彼女を、その、わかるだろ? 思うようにさせてくれれば、お前が騎士団に残れるよう手を回してくれるってさ」
「なんだ、そんなことか」
サイラスは、心底ほっとして答えた。
「どっちにしても、母は金持ちの愛人にでも売るつもりなんだ。その前に息子のために役に立てるなら、喜ぶだろう」




