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Side サイラス 5

 あまりにも自分がかわいそうで、サイラスははらはらと涙をこぼした。


「サイラス様……」


 カミーユは、サイラスが横たわる寝台に近づき、サイラスの手を握った。


「私がお助けします。私が、なんとかしますから……」


 よし!

計画通りだ、とサイラスはほくそ笑んだ。

あとは、カミーユにどうやって金を貢がせるかだが……。


「父は、神殿にも顔が利きます。お金を積めば、サイラス様の足も治せると思います」


「足が……? 治るというのか?」


 サイラスの右足は損傷が激しく、魔獣の毒を警戒して、根元から切られてしまっていた。

王都までの帰り道も日数がかかっており、一般的に神殿の治療でも治るとは考えられない。

サイラスも、カミーユの言葉を聞くまで、考えたこともなかった。


 ぼうぜんと尋ねるサイラスの手を握り、カミーユは涙をうかべた目でうなずいた。


「私が父に頼みます。ぜったいにサイラス様の足は、治ります」


「だが……、我が家では治療に支払える金などない。それに、母や妹たちの生活費のこともある。すこしでも金は大切にしないと……」


 あぁ、母と妹たちを、いますぐ売ることができれば!

この脚が治るかもしれないのに……!


「私の持参金を使ってください。あれなら治療費も、サイラス様が治られるまでのお母様たちの生活費も足りると思います」


「だが、俺はこんな脚だ。きみと今すぐ結婚するというのは……」


「結婚は、いますぐでなくてもかまいません。先に持参金が仕えるよう、父に相談いたします」


 カミーユは決然としてそういうと、サイラスの家を出た。

その背を見送って、サイラスはしばしぼうぜんとし、そして腹から笑った。


「なんてことだ……! さすがカミーユだ……!」


 結婚もしないうちに、相手の家に持参金を使わせるとは、お笑い草だ。

 そもそも持参金は、相手の家で娘が肩身の狭い思いをしなくてすむよう、そして万が一離婚などになれば、娘のその後の生活がやっていけるよう娘に渡すものだ。

 それが表面的な意味しかもたない家もあるが、カミーユの両親は、心底カミーユの将来を思ってその金を用意したのだろうに。


 思っていた以上の大金が、手に入りそうだ。

カミーユが結婚前に持参金をこちらに渡したなら、それはそっくり使ってやろう。

なに、カミーユから言い出したことだ、文句など言わないだろう。


 で、いざ結婚という時に、娘の持参金がすこしも残ってないと知れば、あの両親なら、それなりの持参金をさらにカミーユにもたせるだろう。

 平時なら結婚前の持参金を使い込んだりすれば俺の評判はがた落ちだが、騎士に戻るための治療費と、家族の生活費として使ったといえば、それ以上陰口をたたける人間は少ない。

騎士である以上、誰だって一家の父がとつぜん亡くなる可能性も、自身が治らない大きな傷を負う可能性も、平等にあるのだから。

 そうなったとき、婚約者がよせてくれた麗しい気遣いまではねのけられる騎士が、どれほどいるだろう?

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