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Side サイラス 3

 出る杭は打たれる、これがこの世の習いだ。


 サイラスは、すべてにおいて優秀なゆえに、周囲からは嫌われることになった。

周囲がサイラスのことをあれこれいうのは、嫉妬しているからだ。

敏いサイラスはそのことにすぐ気づいたが、そうでなければ今頃心を病んでいたかもしれない。


 時折、まっとうな判断力をもった人間もいて、そういう人間はサイラスに優しかった。

そのうちのひとりが、クズール伯爵の三男のカッシモだった。

サイラスより10歳ほど年長のカッシモは、遊びなれた大人の男だった。

伯爵の子息だから、騎士の仕事は遊びみたいなものだったのだろう、そう強くはなかったが、街の巡回を買って出ては、美しい女性たちに声をかけられる、そんな男だった。


 カッシモは、色気たっぷりの花街の女をはべらせ、その大きな胸をもみしだきながら、サイラスに教えてくれた。

馬鹿な人間の相手を真面目にする必要はない、てきとうに表面だけあわせておいて、相手の言うことに「はいはい」と話を合わせておけばいいんだ、と。

そうすれば、愚かなくせに自分は賢いと勘違いしているようなやつに限って、こっちをやたら信用する。

そうなりゃこっちのもんだ、と。


 意味ありげに笑うカッシモにあわせて、サイラスもにやりと笑った。

そしてその日からサイラスは、表面上は殊勝に、謙虚に振る舞うようにした。

 なるほど、そうすれば周囲の人間は、サイラスに対する憎々し気な視線をゆるめた。

サイラスが内心そいつらのことを馬鹿にしているとも知らず、だんだんサイラスに気を許したようにふるまうやつまで現れた。


 サイラスが、ガイル騎士団の団長の子どもだと誤解されてから、はや10年がたっていた。

あの頃の話も、サイラスが周囲にあわせてやっているうちに、子どものころの馬鹿な話として忘れられていった。


 そんなふうに時をすごしていたある日、サイラスはカッシモに見合い話を持ち込まれた。

相手は、裕福な男爵家の次女で、たっぷりの持参金があるという。

男爵家は姉が継ぎ、子どももいるので爵位がまわってくる可能性は低いが、その威光とコネは使える。


「なにしろ、相手のカミーユって女は、大女でね。貴族の男には見向きもされないから、騎士に話がまわってきたわけだ。どうする? 大女といってもお前よりは小さいし、顔は悪くない。性格もおとなしく従順で、親も愛情たっぷりに育てた娘が嫁になれるなら、多少の無理はきいてくれそうな金持ちだ。悪くない話だと思うぜ?」


 悪くない。

サイラスも思った。


 実際、カミーユと初めて会った時も、あまりの大きさに驚きはしたが、サイラスの愛情を乞う捨て犬のような風情が気に入った。

それから何度かデートをしたが、カミーユはいつでも、サイラスの機嫌をうかがうような顔をしていた。


 そしてサイラスが不機嫌そうに舌をならすと、カミーユは泣きそうな顔でサイラスの機嫌を取る。

カミーユの両親が裕福だというのは見せかけではないらしく、カミーユは両親からだと言って、サイラスが飲んだこともないような高級なワインや、着たこともない高級な仕立ての服をプレゼントしてくれた。


 悪くない。

このまま、この女と結婚してやってもいいかな。

そう、サイラスは思っていた。


 だが、そんなサイラスを新たな災いが襲った。

任務である魔獣狩りの最中に、右足を失ったのだ。


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