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Side サイラス 2

 もちろん見習い騎士の中には、父が平騎士という見習い騎士は他にもいた。

だが、彼らはサイラスのように優秀ではなかった。

彼ら自身、生涯を平騎士としてすごすのだから、彼らにとっては父が平騎士でも恥じることはないだろう。


 けれど、サイラスは、自分は誰よりも優秀だと知っていた。

今はまだ見習いで、これといった実績はないけれど、すぐに誰か見る目のある偉い人が、サイラスの才能に気づく。

そして、サイラスはあっという間に将校になり、司令官になり、やがては騎士団長になるだろう。

あるいは見た目が整っていることから、王族の護衛にと乞われるかもしれない……。

 どちらにしても、平騎士で終わることなど、ありえない。


 その時、父が平騎士では格好が悪いではないか。

それどころか、血のつながりから才能がないと思われて、サイラスの評価まで下がってしまうかもしれない。


 サイラスは頭がよかったので、未来に起こりうる不幸な誤解を避けるために、動くことにした。

 作戦はシンプルで、「サイラスはセイジーの実の子ではない。本当の父親はガイル騎士団の団長だ」という噂を見習い騎士の間で流布したのだ。

噂が上官の耳に入れば、サイラスには才能ある血が流れているとわかってもらえるだろう。

ガイル騎士団の団長は、サイラスと同じく金の髪に茶色の目をしていたので、ちょうどよかった。


 というか実際、ガイル騎士団の団長は、どことなくサイラスに似ている気もした。

なので、サイラスとしては、本当に彼が自分の実の父ではないかと思うこともあったのだ。


 サイラスは見習い騎士たちに「俺が言ったってことは、秘密にしろよ」と言ってから、その話をした。

だから、彼らが約束を守ってさえいれば、公にはならないはずだった。

 なのに、口の軽い彼らは親にそのことを告げ口したらしい。


 約束を破るなど、騎士として最低だ。

サイラスは腹をたてたが、それ以上に上官たちはサイラスの言動に腹を立てていた。

サイラスは所属する騎士団の騎士たちに呼び出され、さんざん叱責されるはめになった。


 そのうえ、父はサイラスと共にガイル騎士団の団長に謝罪にいかなければいけないと、強硬に訴えた。

サイラスが何度だいじょうぶだと教えても、ちっとも譲ろうとしない。


 しかたなくガイル騎士団の団長に謝罪に行くと、子どものささやかな発言のために時間をとられたことにいら立った団長から、冷たい一瞥をおくられた。


 そのくせ団長は、大人である父に気遣いを見せて、


「セイジーさんの子息だから見逃すが、次があれば子どものこととはいえ見逃せんぞ」


 などと、サイラスに対するよりずっと柔らかい口調で言う。


 サイラスは、すぐにわかった。

それが単に、父がガイル騎士団団長より年上だから、気遣われているだけだと。

そして、寛容なところを見せた団長は、父の謝罪についてきてやった寛容な自分に似ていると思った。


 しかし哀れな父は、なにもわかっていないらしい。


「見栄っ張りなうえ、こういった話の意味もわかっていない愚か者なんですよ。馬鹿な子でもかわいいと思っていましたが、さすがにこれからは厳しくします」


 あろうことかサイラスを馬鹿扱いするという残念さだ。

サイラスは、父に対して心底あきれた。

そして、こんな父を持つ自分はやはりとびきり不幸だと思った。


 そのうえ、不幸はそれだけで終わらなかったのだ。

 その日からサイラスは、見習い騎士の間では見栄っ張りの嘘つきだと笑われ、騎士たちには冷ややかな目で見られ、父からはやたらと厳しく叱責されるという、これまでよりもさらに哀れな境遇に落ちたのだ。

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